母、幸子と息子、勇真は親子二人で家賃3万2千円の市営住宅で二人暮し。
幸子は心臓が悪く、ペースメーカーを入れながら早朝のスーパーの品出しのアルバイトをして、帰宅した後は午前中はダウン。昼からは内職をし、僅かな収入で中学生の勇真を育てていた。
勇真には父親がいなかった。幸子の元旦那にあたる。
理由があった。
幸子の元旦那の勝雄は、仕事のストレスをお酒で発散し、毎晩お酒を飲んでは家の中で荒れていた。
時には幸子に手を出すこともあった。
今でいうDVである。
幸子はそんな勝雄に我慢が限界に達し、耐えられなくなり勇真が幼稚園の時に離婚した。
そんな幸子の姿を幼い勇真の心の中には鮮明に残っていた。
幸子と勇真の絆は深かった。
質素な夕食だが、毎晩、他愛のない話をしながら一緒に欠かさず食べていた。
その二人の時間があるから、幸子は勇真の為に仕事を頑張れるのだろう。
そんな勇真の将来の夢は、介護士。
何か人の助けをして人に喜んでもらいたいという熱い思いがあったのか。
そんな夢を勇真は、幸子との二人の夕食でよく語っていた。
幸子も心から勇真の夢を応援していた。
幸子は日頃は質素な食事だが、毎年勇真の誕生日には刺身とピザとショートケーキをご馳走していた。
それに対して勇真は毎年5月の母の日に必ず、幸子の大好きな、ガーベラの造花をプレゼントしていた。手紙を添えて。
あくる、三日後は勇真の15歳の誕生日。5月生まれで母の日の二日前だった。
楽しみの勇真の誕生日会。
が、ここのところ今ひとつ、勇真の顔色が悪く、元気がない。
「勇真、なんか最近元気ないね。悩んでるんじゃないの?なんでも相談してよ。」
「俺さ、、、本当に将来介護士になろうかここにきて悩んでて。。だって介護士って給料安いっていうじゃんか。俺お金持ちになりたくてさ。なんかそんなことで今悩んでる。」
「...そっか・・・諦めないで欲しいな、母さんは。」
幸子の声は弱々しかった。
今の現状の生活が勇真の熱い思いのもった昔からの夢を拒もうとしている。
そんな責任感を感じたのだろうか。
幸子は決めた。三日後の勇真の誕生日は、ロールケーキと介護士の参考書をプレゼントしようと。
幸子は次の日スーパーのアルバイトを終えた後、家で休まず本屋に向かった。
(これにしよう。夢、絶対諦めないで欲しいな…)
その夜。
「勇真、あさってで15歳だね。刺身とピザとショートケーキ、楽しみにしててね。」
「ああ、、そうだったね…」
幸子は悲しみを堪えた。
5月10日、勇真の15歳の誕生日、その日は内職をせず誕生日会の準備を幸子は、少しの不安をもちながら、勇真の喜ぶ顔を見たいと、熱心にして勇真の帰りを待った。
(バタンッ)
いつも必ずただいまと言うはずの勇真の一言がなく、勇真はそのまま自分の部屋にこもった。
「勇真!どしたの!?誕生日会するよ!?」
「そんな、慰め合いみたいなこと、もううんざりなの!
今日はもういい!寝る!」
幸子はダイニングのテーブルで泣いた。
ピザはもう冷めかけていた。
その晩は二人の会話はなかった。
何も言葉をかけれない幸子は葛藤していた。
次の日の夜、二人はまた、夕食を共にした。
「勇真、その顔のアザ、どうしたの⁈」
「ちょっとムカつくやつと喧嘩しちゃってさ。だってうちの貧乏なことバカにするんだぜ。せっかくの誕生日に息子のアザなんかみたくないだろ?」
幸子は声を、震わせながら
「ありがとう。」
と。
次の日、幸子はいつものようにスーパーのアルバイトを終え帰ってくると、一本の留守電がら入っていた。
勇真の担任の先生からだった。
「勇真くん、ここ三日間、学校に来ていません。周りの生徒に聞くと、いじめられているとお聞きしています。また、ご訪問させて頂きますね。」
幸子はメッセージと終わりとともにまた、泣いた。
悩みを聞いてあげられなかった自分の悔しさと、貧相な生活をする現状の歯がゆさと、勇真の心配をかけたくないという優しさを感じとったからに違いない。
その晩、
「勇真、誕生日会の残り食べよ…一人で悩まなくていいんだよ。無理して学校なんかいかなくていい。中学なんて、学校に行かなくても卒業できるんだから。」
「母ちゃん、心配かけてごめん。でも俺頑張って学校いくよ。」
「勇真が頑張って行くっていうなら、私は止めないね。」
本屋で買った介護士の参考書はタンスにずっとしまっていた。
次の日、スーパーのアルバイトから帰ってきた幸子は心配になり、学校に電話した。
「勇真さん、今日は学校に来られてますよ。今日は保健室にいられます。」
幸子は少ながらず、ホッとした。
ダイニングのテーブルに、ガーベラと手紙が置いてある。
手紙を開けた。
「俺、絶対将来、母ちゃんの介護、すっから!!
安心して生活送ってな!!」
幸子が三度 涙を流した瞬間だった
タンスの中の参考書はなくなっていた