ギャラリー柳水(りゅうすい) 日々のよもやま

40年以上を陶磁器とともに過ごしてきました。
見て美しく使って楽しい陶磁器の世界をご紹介いたします。

兎糸文(としもん)

2020年06月06日 | 日記
河井寛次郎の作品は、一人でよくこれだけ考え出せたものだと感心するくらい
作品が多岐にわたる。

明治23年島根県の安来に生まれた。成績優秀にして旧制中学、
東京工業高等学校を卒業し、京都の工業試験場に技師として就職。
足かけ3年で5代清水六兵衛工房の顧問、またその2年後には独立。
裕福な支援者のバックアップがあったにせよ、地縁血縁の少ない京都で、
30歳で自分の窯を持てた人は、当時としても少なかったと思われる。
5代六兵衛から譲り受けた窯を「鐘渓窯」(しょうけいよう)と名づけて、
亡くなるまでの46年間、さまざまな色や形の作品を生み出している。

数は少ないが、初期のものは窯名の印が押されている。
中国古陶磁をよく研究し、中国風の難しい漢字を使った作品名が多い。
砕苺紅、鱔血文、繍花白瓷… 
そうした名前の中に「兎糸紋」がある。主に花瓶、茶碗、鉢に多い。
釉薬の溶け具合が、ウサギのふわふわした毛並みに似ているところから
名づけられている。
絵を描いてこの模様ができるわけではない。
高温で釉薬が溶けてできる偶然の模様

写真は昭和に入ってから作られた盃の内側
鐘渓窯時代の作品ではないし、兎糸紋とは名づけられないが、
技法がどういうものか、少なくとも大まかな雰囲気はつかめると思う。
触ればつるりと冷たい磁器とはわかっていても
流れる釉薬の筋が、わさわさした毛に見えてくるのがおもしろい。