近所に、「勇次」というラーメン屋がある。5年前、東京都は町田市郊外にきら星のごとく現れ、TVや雑誌のラーメン特集で“懐石ラーメン”ともいうべきその独特の存在感を誇示し、瞬く間に――日清「名店仕込み」シリーズでの商品化や、標語「一麺一心」などで知られる――町田の雄「雷文」を凌駕する存在となった、超のつく銘店である。
ここのラーメンはとにかく美味い。旨いでも巧いでもなく、“美味い”。まず、店がまえからして違う。ラーメン屋っぽくない。一見料亭……とまではいかないが、品のいい小料理屋という雰囲気。そういえば、「勇次」になる前、ここはうなぎ屋だった。ガラガラと引き戸を開けてなかに入ると、鰹出汁と鳥ガラのいい匂いが鼻腔を刺激する。その匂いはどこまでも繊細で、一般的なラーメン屋のそれとは明らかに異なる。もっとこう……あっさりとして、それでいてコク豊かな……そう、まさしく日本的な和のテイストたる、わびさびを地でいく……えーと、つまり、ひとことでいうと、“懐石ラーメン”。
ちなみに、店名は長渕剛の名曲「勇次」からきているらしい。壁には、莫山先生ばりの達筆で書かれた「勇次」の歌詞の額縁が掛けてある。
実はこのラーメン屋、毎年末に「ふぐラーメン」という特別メニューをやっていて、俺はそれを毎年食う気満々なのに、毎年食い損ねている。毎年くやしい。毎年悲しい……しかし、同じ煮え湯を飲んできた人々が、かの地にいた……!
その結果、見よ! この麗しきもおごそかな、「ふぐつけ麺」を……!
「ふぐラーメン」は年末だけってことにしているので出せないけど、皆さまのご要望にお応えして出しちゃいましたよ、「ふぐつけ麺」……!
もー、美味いのなんのって! つけだれのなかに沈み込む、ふぐさまのお骨にむしゃぶりつきながら、適度な太さで適度に硬い謹製の麺を、半分だけつけだれに浸してから口にかっ込む。う……うめぇ。しかも奥さん! ふぐ刺し付きっすよ。ふぐ刺し付き! 昼間っからふぐ刺し! つけ麺食いながらふぐ刺し! ふぐさまのお骨にむしゃぶりつきながらふぐ刺し! もうこうなったら、ほかのものもいろいろ刺したい! あと、抜いたり……!
いやぁ、これで1,200円ぽっきりたぁ、父ちゃん嬉しくって涙がでらぁ。
町田一の銘店の、底力を知った思いだ。この店が家から歩いて行ける距離にあるということに、運命を感じる。いまのうちに、せいいっぱい享受しておこう。
今月、俺は家を出る。
ここのラーメンはとにかく美味い。旨いでも巧いでもなく、“美味い”。まず、店がまえからして違う。ラーメン屋っぽくない。一見料亭……とまではいかないが、品のいい小料理屋という雰囲気。そういえば、「勇次」になる前、ここはうなぎ屋だった。ガラガラと引き戸を開けてなかに入ると、鰹出汁と鳥ガラのいい匂いが鼻腔を刺激する。その匂いはどこまでも繊細で、一般的なラーメン屋のそれとは明らかに異なる。もっとこう……あっさりとして、それでいてコク豊かな……そう、まさしく日本的な和のテイストたる、わびさびを地でいく……えーと、つまり、ひとことでいうと、“懐石ラーメン”。
ちなみに、店名は長渕剛の名曲「勇次」からきているらしい。壁には、莫山先生ばりの達筆で書かれた「勇次」の歌詞の額縁が掛けてある。
実はこのラーメン屋、毎年末に「ふぐラーメン」という特別メニューをやっていて、俺はそれを毎年食う気満々なのに、毎年食い損ねている。毎年くやしい。毎年悲しい……しかし、同じ煮え湯を飲んできた人々が、かの地にいた……!
その結果、見よ! この麗しきもおごそかな、「ふぐつけ麺」を……!
「ふぐラーメン」は年末だけってことにしているので出せないけど、皆さまのご要望にお応えして出しちゃいましたよ、「ふぐつけ麺」……!
もー、美味いのなんのって! つけだれのなかに沈み込む、ふぐさまのお骨にむしゃぶりつきながら、適度な太さで適度に硬い謹製の麺を、半分だけつけだれに浸してから口にかっ込む。う……うめぇ。しかも奥さん! ふぐ刺し付きっすよ。ふぐ刺し付き! 昼間っからふぐ刺し! つけ麺食いながらふぐ刺し! ふぐさまのお骨にむしゃぶりつきながらふぐ刺し! もうこうなったら、ほかのものもいろいろ刺したい! あと、抜いたり……!
いやぁ、これで1,200円ぽっきりたぁ、父ちゃん嬉しくって涙がでらぁ。
町田一の銘店の、底力を知った思いだ。この店が家から歩いて行ける距離にあるということに、運命を感じる。いまのうちに、せいいっぱい享受しておこう。
今月、俺は家を出る。