前回までのお話
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天使は魔王のお后になった。
何故かそこからの世界というものはひどく平和だった。
魔界のものたちの仕事がやってくる天使たちと戦うのではなく人間界の服を漁るようになった。それも「高いの」ばっかり。しかし側近のエルビルにはどこで習得したのかファッションセンスがあった。しかも自分の好みの服を着せようというのではなく「お后」に似合う服のみを選んでいく。次第に魔界の城ではファッションショーが開かれるまでになってしまった。なかには「これで位があがる」と勘違いした者が自分でデザインまでするようになったという有り様。
これを平和といわずなんというか。
いま人間が求めていながらできなかった平和がいまここに確かにある。
争いがなくなった世界が本当にここにある。
これを不気味がっていたのがほかならぬ天界の者たち。
いま「新しい世界」で何故か苦しんでいるのが彼らである。
どうして魔界の者たちは戦ってこないのか。以前魔界の者たちを包囲するかのように結界を張ろうとしたことがあったが、張らなくても何も「悪いことが起きない」のだ。
しかし天界の者たちにもその理由が分かった。それは魔界の城にスパイに行かせた者が思念通話で流した情報にあった。そのスパイは魔界の城で数時間後に邪気と気化した魔力で死に至ったが、そんな中で「いま魔界には水晶のように可か輝く物があり、それに魔界の者全てが惚れ込んでいる。みんなそれに己の労力をささげている。」とあった。しかし肝心の魔王はどうなんだと言う事については魔界の城の王座まで行くことなく死に至ったので分からない。
この状態ではただひたすら様子だけを見るしかない。嵐の前の静けさと警戒しつつ「待つ」しかない天界の者たち。そこにある者が魔界の城の偵察に名乗りをあげた。
「わたしの教え子なんじゃないのか。」
「あなたの教え子で魔王を大人しくさせる力を持った者がいたのですか?」
「いや彼女にそんな力は全く無い。しかしわたしはその様を見たいのだ。」
彼の名はレミンノ。
以前「アルト」にいろいろな教えを解いていた先生である。彼女の事については天界での成績から性格まで幅広く知っている。はずなのだが、いまやそのアルトとは連絡をとれなくなってからもう何年も経つのでいまの彼女がどういう風になっているのか判らない。しかしいま魔界で輝いている「全てに柔軟」な光にかすかな覚えがある。彼女がいつも大切に持っていたペンダント…のようなものの輝きと似ていたからである。
「偵察に出たい。」
「天界の者で戻って帰ることできませんよ。」
「確かめる手は中に入らずとも出来るじゃないか。わたしは魔界の城に入ると入ってない。偵察に出たいと言ってるのだ。」
「そういうのを屁理屈って言いませんか?」
「君がそうとらえるのであればそれは一向に構わない。でもいまや魔界の者たちは君達の相手なんかしてないって言うじゃないか。」
「なんか嫌な言い方してくれるじゃないですか。」
「誰でもそうだと思うが嘘は嫌いだし、神さまに嫌われる。」
「本当の事なので仕方ありませんが、我々の使命は魔界の者たちから世界を開放することです。」
「わたしの教え子だからと言うわけではないが、いま世界を平和にしているのは君達じゃなくて魔界に嫁いだ花嫁だ。」
「いくらあなたといえどもそれ以上は」
「プライドが許さないとでも言いたいのだろうが事実を黒く塗るのはよくない。わたしは事実を受け止めたいのだ。」
天界の者たちはそれからまた何年も手をこまねき、その間魔界の花嫁が世界を平和に治めていくことになる。