世界医薬産業の犯罪 26p
新しい病気
●オキシキノール(キノホルム)
強大な企業と政府とが結託して、国民の健康悪化をもくろむ組織的陰謀は、今や日に日に巨大化している。
一方では、「新薬」(とは言っても、実は、使い古された薬を、組み合わせを変えラベルを新しくして、売り出しただけのもの)は、放っておいても自然に治ってしまう病気以外の病気は治せない、いやそれどころか、数年前までは存在すらしなかった新しい病気を作り出している、という事実が明らかにされだしてもいるのである。
一九七八年八月、日本からのニュースである。東京地方裁判所は、製薬会社三社および国に、神経系統の新しい難病を引きおこすオキシキノール(クリオキノール)を含む薬品を販売したとして有罪判決を言い渡した。
いわゆるスモン(亜急性脊髄視神経症)裁判である。
判決は、タケダ薬品、日本チバ・ガイギー、田辺製薬の三者と厚生省に対し、三二億五〇〇〇万円(約一七〇〇万ドル、五〇〇万ポンド)の補償金を、一三三人の原告に支払うよう命じた。
現在、二〇件以上の同様の薬事訴訟が進行中であるが、これはそのさきがけだった。
この裁判で、原告団は、製薬会社が「夏下痢」に奇跡的な効き目があるとして売り出していた薬がスモンの原因であるということを立証した。
「夏下痢」とは何とも非科学的な呼び名であるが、熱帯地方を旅行する人々がしばしばかかる軽い消化器の異常のことである。
アメリカではこれを「GI病」とか「モンテズマの復讐」、イギリスでは「スペイン腹」と呼んでいる。
大抵は、何も手当をしなくても四八時間以内にはすっかり治ってしまう程度の病気である。
もっとも、治るのは、この「奇跡の薬」オキシキノールを飲まなければ、の話である。
オキシキノールを開発したのはチバ・ガイギーで、メクザフォルム、エンテロビオフォルム、インテロストパン、ステロサンなどさまざまな商標がつけられて世界中に出回っていた。
旅行者は消化不良の最初の徴候があった時ただちにこれらを服用するよう、あるいは予防的に用いるよう指示されていた。
「予防的」というのは異常の徴候が出る「前」に飲めという意味である。
飲めば、薬が異常を作り出してくれるとでもいうのだろうか。
日本で、少なくとも一〇〇〇人が死亡し、三万人が失明や下肢麻痺の犠牲となるまで、オランダ、デンマーク、ドイツ、フランス、イギリス、ベルギー、イタリア、スウェーデンなどでも同様の死亡、失明、麻痺の例が出ていたにもかかわらず、その原因がオキシキノールであるということは分からなかったのである。
当初、チバ・ガイギーは、日本人だけがこの薬に非常な被害を受けたのであって、それは製薬会社の誇大宣伝を過信した日本の国民性の問題であるとして、自らの過失を認めようとしなかった。
ところがヨーロッパ各地での被害状況が明らかになってくるにつれ、その言い逃れは通らなくなってしまった。
東京での第一回スモン裁判に証人として召喚された、スウェーデン、イエテボリ大学の小児神経学教授であるオーレ・ハンソン博士は、この裁判で明るみに出された問題点を、七九年、『多国籍企業とスモン薬害』という本にまとめている。
この本の中でハンソン博士は、大製薬会社というものは利潤のためとあらば屍…もちろん人間の屍であるーを踏みつけて前進することにまったく躊躇せず、自社の基本理念が金儲けであるという事実を隠すためならば、いかなる嘘でもつき通すものだ、と確信をもって書いている。
日本国内だけでも、オキシキノールは実に一六八種類もの異なった商品名で販売されていた。
ハンソン博士のリポートにはショッキングな記述が多いが、例えば、「一九三九年六月十九日にまでさかのぼるチバ・ガイギーの実験記録の公開もそのひとつである。
それによれば、相当数の実験動物にオキシキノールを飲ませたところただちに激しい痙攣をおこし呼吸困難に陥って、そのほとんどはひどく苦しんで死亡したという。
このような結果が出ていたにもかかわらず、それは秘密にされ、この危険きわまりない薬は市場に出されたのだった。
添付された注意書には「ペットには飲ませないように」との警告が付け加えられたにすぎなかった。
これは何を意味するのだろうか。人間への影響を予測するのに動物実験が役に立つなどとは、研究者自身がまったく信じていないということの裏づけに他ならない。
一九八〇年四月二十八日、ジュネーブのペンタホテルで日本の関係者主催のスモン記者会見が、三七カ国の報道陣を集めて行なわれた。
出席したのは、日本、マレーシア、オーストラリア、オランダ、イギリス、スイス、スリランカ、アメリカ、フランス、スウェーデン、ノルウェー、イタリアからの弁護士や医療関係者だった。
この会見で明らかにされたのは、チバ・ガイギーがオキシキノールの動物実験における悲惨な結果を無視していたこと――これは明らかに彼らが動物実験が無意味なものであることを承知していたからである――そしていずれにせよ使うのは人間だからと、市場に出してしまったことである。
この会見記録は日本で出版された。
以下は日本の弁護士による前書きからの抜粋である
スモンの被害者たちが、国とチバ・ガイギー(日本)、タケダ薬品工業、田辺製薬を相手どって、裁判をおこしてから九年になる。
一九七一年五月二十八日の訴訟開始以来一九八二年までの原告は五五〇〇人に上っている。
一九七八年八月三日、東京地方裁判所はスモン訴訟に裁決を下した。
その際、裁判所は次のような言及をした。
「チバ・ガイギー本社では、エンテロビオフォルム/メクザフォルムを投与されたイヌがしばしば癲癇ようの発作をおこして死亡したとの報告を検討した結果、獣医たちにはこれらの薬を家畜の治療用に使わないよう警告を送っていた。
しかしながら、これらの薬が人間用として製造されていたにもかかわらず、人間に用いた場合の危険性を警告するという措置をいっさい講じなかった。
のみならず、すでに述べたように、日本では、エンテロビオフォルムやメクザフォルムの安全性を強調し続けた――」。
この会見に出席していたハイディ・アルデルセンというスウェーデン女性は、かつては多発性硬化症と診断されていたが、現在ではクリオキノールが原因のスモン患者であることが明らかになっている。
ヨーロッパでは、彼女のようなスモン患者がまだまだ多数いるものと想像される。
チバ・ガイギーをはじめとする多国籍製薬企業は、先進諸国ではすでに禁止されている薬を、いまだに第三世界で販売し続けている。
これは明らかに犯罪行為である(「スモン、ジュネーブ記者会見記録」一九八〇年、スモン、ジュネーブ記者会見組織委員会、山一ビル、東京)。
●DES
スチルベストロール(一般にDESと略称で呼ばれる)については拙著『罪なきものの虐殺』に詳しい(日本語版一三二〇~三三二頁〉。
DESは一九三九年に開発された合成エストロゲン(女性ホルモン)の一種であるが、動物実験では何年にもわたって全く有害性は認められなかった。
ところが青天の霹靂のごとく、妊娠中にこの「奇跡の薬」を処方された母親から生まれた女の子に癌が発生するという恐るべき事実が判明した。
DESが胎盤を通し胎児に癌を発生させるという。
しかしそもそも、このような薬がなぜ妊娠中の女性に投与されていたのだろう。
妊娠中に薬は、それがどのようなものであっても危険なことは、もはや常識なのではないのだろうか。
しかし少なくとも、動物実験の結果は人間にも当てはまるという誤った信念にこり固まった「研究者たち」の常識ではなかったようである。
実際、医師たちがDESを処方した理由は、患者たちが妊娠中だったからに他ならない。
DESの歌い文句は、安全な妊娠の継続だったのである。
DESは、薬が人間にまったく新しいタイプの癌を発生させる元凶であると医学界自身が認める最初の薬となった。
ところが、そこでとられた措置は、何と、動物実験の一からのやり直しというものだった。
そして再び収穫はゼロ。
実験動物に癌は発生しなかったのである。
一九七三年、WHOからDESに関し緊急警告書が出されたが、それに、メリーランド州ベセスダの国立癌研究所(NCI)のロバート・ミラー博士が次のように書いている。
実験動物による研究――実験モデル(すなわち実験動物――著者)で得られた腫瘍のタイプと小児癌のタイプとには相関関係はなかった。
ここで、動物実験こそが間違いのもとなのであって、以後いっさい廃止すべきである、という結論を下すほどの叡知がミラー博士にはなかったのだろうか、あるいはその事実を公然と認めるだけの勇気がなかっただけなのか、おそらくは後者だろう。
彼も、そして何千人もの彼のべセスダの同僚たちも、動物実験によって日々の糧を得ているのだから。
彼らはそれ以外の、研究方法も、そしておそらくは糊口のしのぎ方も知らないのだろう。
とにもかくにも、ミラー博士がこの警告書の中で要請したのは、動物実験の一層の強化だった。
報告例では潜伏期間が一四年から二二年にも及んでいたにもかかわらず、である。
一九七六年九月にアメリカ・バンタム出版社に送った『罪なきものの虐殺』の最終稿では、その時点までに少なくとも三四例のDES起因の癌が報告されているとしている。
この癌はこれまでにはまったく知られていなかった新しいタイプの癌である。
七三年WHOから出されたミラー博士の歴史的ともいえる警告書『経胎盤性発癌』から引いてみよう。
半年に満たない前、母親が妊娠中に服用した薬品が原因で、子供に癌が発生することがあるという劇的な公表がなされた。
それまでこのような現象は観察されたことがなかった。
高齢者の疾患である特定種類の膣癌(クリア細胞腺癌)が、ボストン地域の八人の若い女性について報告された……。
DESによる発癌例が発見されて間もなく、私はこの症例をイタリアの雑誌『アニマライ・エ・ナチュラ』(動物と自然)の七三年十月号に報告した。
そしてその潜伏期間の長さからみて、報告された数例は、以後続発する症例のほんの始まりだろうと予言した。
これは残念ながら容易な予言だったのである。
さらにそれに続いてイタリアで、私自身が主宰するCIVIS(動物実験国際情報センター)というささやかな情報センターからも一文を発表した。
その意図するところは、妊娠中の女性にエストロゲンを使用することの危険を医学界に警告するというものだった。
この文のコピーをイタリア中のすべての新聞・雑誌に送ったがまったく無視された。
たったひとつ受け取ってくれたのが『パノラマ』という週刊誌だった。
それでさえも、私の記事のあとには、前世紀の医学知識しかもたないような医学記者の記事ばかりが続いていた。
そんなこんなで、イタリアの「公的」医学界が現実に目覚めるまで、まったく無駄な二年近くの時間が流れ、その間医師たちは何も知らない患者に発癌性エストロゲンを処方し続けていたのである。
その上、今なお目覚めていない医師も大勢いるのである。
その後、明るみに出た事実の重大さに鑑みても、このケースを犯罪的怠慢と呼ぶことは、いささかも誇張ではないだろう。
アメリカ国内でDES関連のニュースが一般の目にはじめて触れたのは七八年四月四日のことだった。
ニューヨーク発UPIとして『ニューヨーク・タイムズ』に「癌患者、DESメーカーと和解」という小さな目立たない記事が載った。
流産防止薬として使われるホルモン剤(一般にDESとして知られる)を製造したニュージャージー州の製薬会社が、今日、損害賠償金の支払いに合意した。
支払いを受ける女性は、その母親がDESを服用したために癌にかかったものである。
この製薬会社はシーダー・ノールズのカーンリック研究所で、デラウェア州ウィルミントン在住のキャサリン・コンウェイ・カーショウさんとの示談が成立した。
支払いの金額については明らかにされていない。
このケースは、近々、民事大陪審による審議が予定されていた。
今回の合意には、両者が賠償の金額その他の合意内容を明らかにしないとの条項が含まれている。
これは、我が国でDESメーカーを相手どっておこされている訴訟のうち、決着のついた最初のケースである。
カーショウさんとその母親の訴状によれば、二五年前、母親が原因不明の流産を数回繰り返した後に服用したDESが原因で、娘のカーショウさんが癌にかかったという。
母親が妊娠中にDESを服用すると、少数ながらその娘に膣癌が発生するということが知られている。
このUPI電の最後のセンテンスには、この件をあえて過小評価しようとの意図がみられる。
ところがその後、公表されるDES癌の数は激増したのである。
そして犠牲者やその遺族は団結してメーカー各社を告訴した。
『マザー・ジョーンズ』八月号に、ニューヨーク市に住むマーゴット・グレイマーという女性の投書が載った。
この女性は自ら、「DESの被害者で、ニューヨークの『DESアクション』という団体の有力メンバー」と名のっている。
投書の内容は次のようなものである。
……DESによる癌患者は報道されている数の二倍、おそらく四〇〇人近くいるものと思われます。
死者は、分かっているだけで一〇人をはるかに越えています。
さらにDES被害者の九〇パーセントは、膣腺疾患あるいはその他の生殖器官異常の「良性異常」状態にあります。
およそ六〇〇万人の母親が妊娠中にDESを投与されたと言われており、従ってその半分、三〇〇万人が女の子として生まれ、DES被害者予備軍だと考えられます。
最年長でも現在まだ三〇歳台ですので、これらの女性が現在は「良性異常」であっても、今後どうなるかの予測はつきにくいのです……。
この間にもDESによる癌患者の数は増え続け、DESアクションなどの活動の影響もあり、体制側報道機関も、この件を軽く見てばかりもいられなくなった。
七九年七月十七日付の『ニューヨーク・タイムズ』に「DES訴訟で原告勝訴」という見出しの記事が載った。
昨日、ブロンクスの州最高裁判所で画期的ともいうべき評決が下された。
陪審は、母親が流産防止のために服用したDESによって癌にかかった女性に対し五〇万ドルの損害賠償を支払うよう製薬会社に命じた。
この訴訟の原告はソーシャル・ワーカーとして働くジョイス・ビクラーさん(二五歳)、有罪となった製薬会社はエリ・リリー社である。
さらに同年八月二十六日付『ニューヨーク・タイムズ』に「DESは癌の原因、証言の女性、八〇万ドルを獲得」という記事が載った。
この女性はアン・ニーダムさん(二六歳)、敗訴のメーカーは、ニュージャージー州ケニルウォースのホワイト・ラボラトリーズだったが、この会社は裁判中にシェリング・プラウ社に吸収されている。
チャーフーズ弁護士(原告側弁護人-著者)が法廷で述べたところによれば、DESを使った母親から生まれた女性のうち、約四〇〇人が膣癌にかかり、その他に少なくとも一〇〇〇人が前癌状態にあるという。
羊の群れのような国民が、医薬業界の支配におとなしく身を委ねている国ではどこでも、癌は増え続けている。
それにしても、なぜ、薬品メーカーが、民事ではなく、刑事裁判の法廷に立たされないのかという疑問は残る。
大量殺人の罪で、刑法で裁かれるのが当然なのではないだろうか。
八〇年三月二十四日号『タイム』には、次のようなDES関連の記事が出た。
DES被害者の女性にとってはまたもや、有難くないニュースである。
彼女たちが自分の子供を生む際には、一般の女性よりも流産の危険性がずっと高いということが分かってきたのである。
流産だけではなく、死産、早産、子宮外妊娠などの率も高い。
『ニューイングランド医学ジャーナル』その他の雑誌でも、DES関連のニュースが次々と流されているが、残念ながらすべてよくない話ばかりである。
DESのダメージは第三世代にまで広がり、さらに、男の子供の生殖器への影響もあり得るのである。
付け加えておくと、DESはいまだに市場に出回っている。
皮肉にも、本来の目的とはまったく逆の目的、避妊用アフターピルとして。
増加する奇形児
再び拙著『罪なきものの虐殺』であるが、その「一万のサリドマイド被害者」(日本語版三一四~三二〇頁)の章で、動物実験が、世界中に広がったあのサリドマイド悲劇の発端を作ったばかりでなく、その規模の拡大にも責任があったという点が論証されているので御参照いただきたい。
ちょうどサリドマイド悲劇の徴候が見え始めた一九六二年、二月二十三日号の『タイム』は、サリドマイド剤は「三年におよぶ動物実験を経て」市販されたものだと報じた。
さかのぼって、五八年八月一日、ドイツの製薬会社ヒェミー・グルネンタール社は四万人の医師に宛て、自社のコルテルガン(サリドマイド)が妊娠中および授乳中の女性には最高の精神安定剤であり、母体にも子供にもまったく害がない旨の手紙を送っていた。
イギリスでは六一年十月、イギリスでのサリドマイド特許権使用者ディスティラーズ社が、独自の徹底した動物実験を行なった後、商品名ディスタヴァルとして発売した。
それには次のような保障つきだった。
ディスタヴァルは妊娠中の女性や授乳期の母親が服用してもまったく安全で、母体にも子供にも副作用はありません。
さて、七〇年十二月、ドイツの裁判史上、最長の刑事裁判が終わり、サリドマイドの製造元グルネンタール社は無罪となった。
内外の医学界の権威が多数、動物実験によって人間への影響を完全に予測するのは不可能である旨の証言を行なった結果、グルネンタール社は刑事責任を免れたのだった。
すなわち、必要なテストは良心的に実施されていたと認められたのだった。
ここで、またもやしくじったということに気づいた動物実験者たちは、恥じ入って荷物をまとめ夜逃げしただろうか。
とんでもない。
かえって失敗の埋め合わせをしようと、さらに大騒ぎをしてさらに大規模な動物実験を可能にするだけの資金をかき集めた。
それが動物実験者というものなのである。
サリドマイド事件こそは動物実験を根絶してしまうきっかけとなるべきだった。
ところが現実には、あらゆる合理性を無視して動物実験はさらに強化される結果となった。
ここで重視されたのは企業の利益のみであり、消費者の安全など問題外だった。
その結果が破滅的なものになるだろうということは容易に予測できたはずである。
プリモドス、アメノロン・フォルテ、デュオギノン、デベンドクスなどさまざまな商品名で市販されていたサリドマイドによる悲劇が、ヨーロッパ中で次々に明るみに出始めた
西ドイツでは、妊娠中にデュオギノンを使用した母親から生まれた奇形児の実態が公表されたが、デュオギノンの製造元であるベルリンのシェリング社は巧妙な手で消費者をペテンにかけた。
七八年、商品名をキュモリットと変更したのである。
これに対し、ドイツ保健当局は何ら異を唱えなかった。
アメリカでも、奇形児出生数は増加の一途を辿っている。
その原因とされる薬のひとつがベンデクティンである。
これはイギリスのデベンドクスのアメリカでの商品名である。
「ありふれた薬が奇形児の原因」という記事が、七九年十月九日付の『ナショナル・インクワイアラー』紙に載った。
この新聞は、いわゆるスキャンダル専門紙のひとつで、ある特定階級の利益保護のために存在するまともな一流紙、たとえば『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』などには決して出ないような暴露記事がしばしば報道される。
妊娠初期に母親が吐き気止めの薬を服用したのが原因で、何千人もの新生児が恐るべき障害をもって出生している。
これは、サリドマイド禍をも上回る大事件である。
信じられないことだが、この薬は今でも毎年五〇万人近くの女性に処方されているのである。
問題の薬で新生児の四肢に障害がおきる、との明らかな医学的証拠が挙がっているにもかかわらず、メーカーはその危険性を否定し、この恐るべき事実の隠蔽を企んでいると専門家は怒りの声をあげる。
さらにショッキングな事実は、政府食品医薬品局(FDA)が、多くの医師たちからこの薬の危険性についての警告を受けているにもかかわらず、その使用禁止に向け、まったく何の手段も講じていないという点だろう。
この薬とは、我が国でつわりの薬としてもっともよく使われているベンデクティンである。
「これは医薬史上、最大の悲劇だ」と、ジョンズ・ホプキンズ大医学部で教授だった二ール・ソロモン博士は語っている。
八〇年一月二十日、イギリスの、こちらは一流紙『オブザーバー』の第一面に「サリドマイド型の新しい薬害」という見出しが出た。
それによれば、デベンドクスが障害児出産増加の犯人の「疑い」があるという。
しかし、この記事でとくに興味深いのは、この「疑い」がここ二〇年もの間ずっと囁かれ続けていたという点である。
そのため、デベンドクスのメーカー、メレル社は、法廷に引き出された時にはすでに、デベンドクスの催奇形性を否定する「科学的証拠」を十分に揃えていたのである。
さらに『オブザーバー』紙は「極秘文書」を公開し、メレル社とリーズ大学小児科のリチャード・スミゼルス教授(王立医師会会員)との間に、ある種の秘密協定が成り立っていたという点を明らかにした。
すなわち、メレル社の免責証明と引き換えに、教授の研究室への研究助成金の提供を考慮してもらうとの主旨の「極秘」書簡を教授がしたためていたというのである。
この極秘書簡には次のような下りがある。
「私はメレル社の御厚意を喜んでお受けするつもりです。つきましては、もし私どもが、催奇形性という点に関し、デベンドクスに『シロ』の証明を出せれば、それが非常にお役に立つだろうと思いますがいかがなものでしょうか」。
世智にたけたメレル社が、この謎かけへの対処の仕方を知らなかったはずのないことは想像に難くない。
ちょうどこの頃、アメリカではデベンドクス・ベンデクティン薬害に関し『ナショナル・インクワイアラー』は次のように報じた。
専門家たちがベンデクティンの危険性を言明しているにもかかわらず、メレル社は、薬局に出すベンデクティンの瓶に安全であるとのラベルを貼り続けてきた――そのラベルの末尾にようやく次のような中途半端な警告が見られるだけなのである。
「明らかに必要とされる場合にのみ服用すること」。
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世界医薬産業の犯罪―化学・医学・動物実験コンビナート | |
世界的医薬・医療産業が引き起こした、薬害、医療ミス、過剰治療の現実、動物実験が人間医療に役立たず、莫大な利益獲得手段と化している現実を具体的に示し、欧米に一大センセーションを巻き起こした問題の書。 |
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