ブーン ブーンと、羽音が聞こえた。
足長蜂が、軒下にやってきた。
だめだよ、ここに巣を作ったらだめだよ。
ほとんど家に居ることのない向いの人は、動物が好きで大切にする人だが蜂がとても苦手らしい。
ほうきを持って、ここは危ない所だから他所へ行きな、と伝えてみたが、ほうきの先が蜂に触れているんじゃないかと思うほど近づけてみたけど、蜂は、気に留める様子もなく一心不乱に巣を作っていた。
仕方がないな、諦めよう。
そう思って家に入った。
小一時間ぐらい経った頃に見てみると、鉢の姿はなく、小さな作りたての巣だけがあった。
申し訳ないが作りかけの巣を取らせてもらって、どこかもっと安全な所に巣を作り直してもらおう。
その小さな作りたての巣をほうきで触ると、毛先に着いてきた。
なんて小さいんだろう。
まさかもう、こんな小さな作りたての巣に卵を産んでいるなんて、思いもしなかった。
まさかな、そんなまさか。
どうしよう。
子どもがいる。
どうしよう。
どうしよう。
すぐ近くにあった別の、古そうでもう少し大きな巣を同じように取ってみた。
古くなって色が変わったこの巣の中には、小さな丸いものがない。
どうしよう。
やっぱりこれは、きっと産みたての卵だ。
まさかこんな小さな巣に。
もっと大きく、しっかり作ってから卵を産むんじゃないのか。
こんなに小さいのに。
卵を食べる人は、この産みたての蜂の卵でも、美味しいと感じればやっぱり食べるのだろうか。
そんな考えもまったく浮かばないぐらい、頭の中はどうしようでいっぱいだった。
育てるか。
どうやって。
お母さん蜂から大切な栄養をもらわないと、きちんと育つはずがない。
なんとか育てられたとしても、何が食べ物で何が食べ物じゃないか、何が危険で何が危険じゃないか、どうやって教えるんだ。
お母さん蜂からもらえないと免疫力も低く、大人になってもすぐに弱ってしまうに違いない。
お母さん蜂は、風で落ちたと思うだろうか。
悲しむだろう。
がんばって作った巣と、大切な子どもたちがいなくなってしまったと気づいた時、どんなに悲しいだろうか。
次に巣を作る時は、また悲しい想いをしないように、落ちないようにもっとしっかり作ろうとするかも知れない。
こんな身近な蜂のことさえ知らずに生きている。
どうしよう、もない。
水の中に浸けるしかなかった。
少しも大きくならないうちに。
何も感じないうちに。
もう、取らない。
なさけ 【情け】
1 人間味のある心。他人をいたわる心。人情。情愛。思いやり。
こんなにも情けないことをわざわざ書くのは、今はもう、どうしようもないからだ。
情けなさを繰り返さないために。
情けなくて、涙が出てきた。
どうしようもない。
2014/5/23
供養だとかお墓だとか虹の橋だとか、そんなものは何でもない、あるのは現実だけだ