森内名人の先手。
戦略家の名人が用意した相懸りの将棋を
後手の羽生二冠が受けてたつ。
一日目の終わり近くに、名人に
▲4五銀という勝負手が出た。
わざと浮き駒を作って、
攻めて来い、と言っている。
それに対して、羽生二冠は一旦7筋から攻めかけたが、
しかし、すぐに攻めきれないと見て自重。
もしかしたら、第1局の無理な飛車切りが
頭をよぎったか?
結局、1歩の損と、7筋の傷が残った。
その後は、その7筋の傷をとがめる狙いを見せつつ、
名人が羽生陣を徐々に圧迫してゆく。
まさに真綿で首を絞める展開で、
羽生二冠を手も足も出ない状態に追い込む。
攻めに使う予定だった桂馬をほとんどただで取られる
という屈辱的な状況を耐え忍ぶが、
狭いところに追い込まれた飛車は逃げ回るしかない。
自玉の周囲には全く手はついていないのに、
何もできない中、じりじりと駒得を拡大されてゆく。
将棋にはこんな勝ち方もあるんだ・・・
控え室の検討も打ち切られ、
誰もが名人の圧勝を予想し、
名人の名局誕生、と思った。
万一の羽生勝ちの場合に備えて、
予定稿を書こうとする新聞記者にコメントを求められ、
深浦王位は苦笑しつつ「百年に一度の大逆転」と答える。
しかし、そんな状況の中、例によって
羽生二冠だけは諦めていなかった。
指しても指しても好転しそうにない局面で、
まさに死力を尽くす、
としか言いようのない粘り。
棋士になって以来、こういう局面を幾度となく
ひっくり返して来た、その本能が目覚めたような、
鬼気迫る怪しい指し手が続く。
その執念に気おされ、
怪しい手に幻惑されたように、
名人の指し手が消極的になってゆく。
このまま抑え込めば安全勝ち、
相手に何もさせずに勝ってしまいたい、
という意識が危険を冒すことを恐れさせ、
最善の手より僅かに悪い手を指させたのだと思う。
やがて局面は、本当に怪しい雰囲気になってゆき、
ついに駒損ながら、羽生二冠の飛車角がさばける展開へ。
それでも、森内玉は入玉できそうで、
形勢としては、まだ先手が良いようだったが、
一度逆流しはじめた流れを止めるのは難しい。
折りしも、森内名人の時間が先に切れて1分将棋へ。
昨年の第6局の大逆転のことが、秒を読まれる
名人の頭をよぎったかもしれない。
そして、しばらく後の141手目、
名人はまさに魅入られたように、
簡単な空き王手を見落としてしまう。
この瞬間、日本全国の大盤解説場で
あぁーーという悲鳴があがったことだろう。
羽生二冠の手が震え、
逆転の銀取り。
しかし、まだ勝負はわからない。
最後にミスをしたほうが負ける。
そんな極限状態の中、腰を落とし、
残りの僅かな時間をしっかり使って
最終盤の構想を練る羽生二冠。
持ち時間9時間のうちの
僅か10分ほどの残り時間の差が
果てしなく大きい。
最後は見るも鮮やかな寄せで一気に決めた。
名人は、自玉が詰んだ最終局面を
呆然と見つづけ、そして、投了。
すごい勝負だった。
涙が出てきた。
リアルタイムで見られてよかった。
リスクを冒した手で優位に立った
森内名人の前半の指し回しは見事だった。
本当に、羽生二冠はどうしようもなかったと思う。
しかし、よくできた包囲網ほど、
それを維持するのは難しいのだろう。
特に、逆転のゲームである将棋では、
一箇所が崩れただけで、
すべてが崩れてゆくことが多い。
羽生二冠はひたすらそれを狙って
粘りまくったと思う。
それが、久々の羽生大マジックを生んだ。
教訓1:なにごとも、最後まで諦めてはいけない・・・
教訓2:虎穴に入らずんば、虎子を得ず
これで羽生二冠の2勝1敗となり、
次は羽生さんの先手番。
はっきりと優位に立った。
前期に続いて、また終盤、秒読みでのポカに泣いた
森内名人の精神的なダメージは計り知れない。
しかし、森内さんもまた、こういうどん底の状況を
何度となく乗り越えて、永世名人にまで到達したのだ。
羽生さんも勝ったとはいえ、相当疲れた様子だったし、
そういう意味では身体的なダメージが大きいとも言える。
それに、20日からの次局までの間に
三つも対局が入っている過密日程。
研究する暇もないだろう。
このシリーズ、まだまだ
何かが起りそうな予感。
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