なんにもない。
かれこれ1時間、東京から、名古屋で乗り換えた、高山本線、特急列車の車窓をながめてた。
車内アナウンスが、私の降りる駅をつげた。
そこは、とても特急列車が泊まるような駅ではなく、ホームから、100メートル離れたコンビニのあかり以外、少ない街灯。
家はあるものの、夜8時で、人気すら感じない。
特急列車が走り去ると、駅に向かい車がやってきた。
無人駅の改札をでると、(島屋通信メンテナンス)とかかれたカローラバンが留まった。
『遅くなりました。吉村正弘所長さんですよね。
私、玉城優たましろゆうです。』
目の前には、150センタくらいの可愛い女の子が、うちの作業着をきて、ニコニコしてる。
『えっ、たましろまさる、さんじゃ』
あわてて、先程まで見ていたiPadの電源をいれようとすると、
『あ、ここ通信エリア外なんで、見れませんよ。笑、荷物つみますね』
私のキャリーバックを、彼女がトランクにつむ間、呆然と立ち尽くした。
私は、2週間前まで、東京、八重洲にある、島屋通信メンテナンスの、本社営業5課で、主任だった。
歳は48才。ちなみに、課長は38才。
20年前、主任昇格と同時期に母親が脳梗塞で倒れた。父親も25年前に事故でなくなり、子供は私一人。病院と自宅で介護してきたが、一月前に亡くなった。
うちの会社は、北海道から、沖縄まで、
島屋電気が販売している特殊な装置を、
メンテナンスする関連会社で、高速道路や一般国道が取引先。
介護を理由に転勤しなかったため、48で主任のまま。ついでに、独身。
『おい、吉村、ちょっといいか』
昔から、世話になっている、大山人事部長に、かたをたたかれた。
すごすご人事部長室にはいると、
『大変だったな。お母さん。
あのな、これお前行けよ。なっ』
目の前には、島屋通信メンテナンス岐阜飛騨営業所準備室について
『お前、ここの所長にきまったからな。 ラストチャンスだ。でな、
なんにもなくて、、、部下はひとり、、、たましろまさる、、、』
何一つあたまにはいらないまま、急遽自宅マンションを片付けて、荷物はそのまま、とりあえずいまにいたる。
『所長、お店ここしかないですからね。ちなみに、ここから、一時間走りますから、買い物しましょ』
言われるまま、コンビニについてゆき、タバコカートンと、好きなエナジードリンクを20本くらい買った。
コンビニを出て、すぐの交差点をまがると、いきなりさらなる山道に。曲がる前に、飛騨インターナショナルスキー場の看板があった。ここから50分。
『あの、玉城さん、スキー』
『あ、もうスキー場は潰れてます。
そのスキー場の入り口が、飛騨横断道路のインターチェンジで、、、』
ひとしきり、私も調べてきてるので知っていることだが、丁寧に説明してくれるので、黙っていた。すでに、富山側からは開通していて、岐阜県の終点になる。
『よくわかったよ。でね、たましろまさるさんは、、、』
彼女は、ケラケラと笑った。なんでも、同期に、たましろまさる君がいると言う。ようは、人事部長が勘違いをしていただけ。
人事部長も、いい加減なもんだ。
暫くはしると、突然インターチェンジがあらわれた。まだ、無料開放区間なので、料金所の建物すらない。
その、近くには、プレハブのゼネコンなどの事務所が並ぶ。
ならびにある、洋風のペンションに車は止まった。
『ここが、うちの事務所ですよ』
たしかに、入り口に、うちの社名が書いてある。
荷物を車からだし、中にはいると、食堂が、会社らしく事務机などがある。
『あれ、ペンションのかたは?』
先程、鍵を玉城さんが開けてたので聞いてみると、
『なにも、所長きいてないの?2階に、住み込みですよ。だから、私と所長で、まあ、合宿ですね。私は同棲になっても、かまわないけどなあ。ね、ひろくん。
おぼえてないか。』
は?ひろくん?ひろくんなんて、小さい頃言われたことない。。。
「わかんないか。20年以上まえに、、、、」
彼女が話している間に、思い出した。
私が新入社員時代、実家は父親が勤める会社の社宅に入っていて、向かいに幼稚園に通う女の子が引越してきた。
両親がお互いに勤めていたこともあり、世話好きの母親が良く女の子を預かっていて、私にも懐いてくれていた。
たしか、眞島優ちゃん。
全くわかるわけもないし、名字が、、
「所長が、転勤で実家でたあとね、
しばらくして両親離婚してね。
私は母親の名字に。」
まさか、あの優ちゃんが、
「でも、なんでまた、うちの会社に」
「それはさ、ひろくん、、あ、所長にあいたかったからさ。おばさんなくなるまで、私年賀状とか。メールしてね。たまにさ。だから、新東京工業大学いってさ、この、会社入れば逢えるかなって。
ね。」
そう話ささながら、珈琲をいれてくれた。
どういう意味か、自分はまだきづいてない。
すると、私のとなりにすわり、
「ね、昔はお風呂はいったじゃん。
今日から、また入ろ!」
私は、呑んだ珈琲を危うく、ふきだしかけた。
たしかに、小さい頃、お風呂に入った。
恥ずかしいからいやだったが、毎回彼女が入ってきた。
中で歌を、一緒に歌ったのを、思い出した。
ガタガタと、揺れだすと、ドン!としたから突き上げると、同時に電気がきれた。
「キャーキャー」
彼女が抱きついてきたと同時に電気が
切れた。
激しい揺れに、何か倒れる音。
時間にして、1分くらい、
全くなにもできない。
収まりはじめて、スマホの照明を照らすと、部屋の中は色々ひっくりかえり、
あしのふみばもない。
震える彼女に、重要なものを、もって、外にでようと。彼女を抱きかかえながら、
外にでると、周りの事務所などから人がでてきていた。
そのとき、誰かがさけんだ。
山が、、
明らかに、やみの中で土の匂いがしはじめてる。激しい地響きに、ただ彼女を抱きしめた。暫くして、ゆれもおさまり、車の中に。
時計は、23時。
とにかく、ここにいても危険なのは間違いない。
「ねぇ、大事なもの。もういちど自分のものを、1度部屋の中から、取ってこよ。避難するから。」
彼女の手を握り、2階に上がってバックに詰め込ませて、車に戻る。
廻りも、騒然とした中、とにかく高速の入口まで行き、富山方面に走り出した。
無料解放区間なので、誰もいない。
当然停電の中、トンネルに入る。
事故や火災も考えたが、あの場所よりはましなはず。
次のインターチェンジまで、8キロ近くはトンネル。非常電源で最低限の照明はついていた。
「怖い。死にたくないよ」
抱きつき、震えている。
「大丈夫なんでしょ?トンネルの方が安全なんじゃないの?」
正直不安だった。このトンネルは難工事で昔から落盤などがたえないことで、社内でも有名だった。