雨の記号(rain symbol)

「ファンタスティックカップル」第9話(2)


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 チョルスは事務所に戻った。注文したセメントの確認で外に出たチョルスの買い物袋の中を見てドックは驚いた。高価な携帯が入っていたからだ。
「こんな高価な物をサンシルさんに買い与えるわけないな・・・」
 一人つぶやいたりしているところにユギョンの友達から電話が入った。
ドックは彼女とお茶を飲んだ。彼女はパーティの企画を持って彼を訪ねたのだった。
「今日、ユギョンの誕生日なの。チョルスさんも誘ってみんなでお祝いしましょ」
「今日はユギョンの誕生日なの?」
 明かりが点ったような顔になった。
「じゃあ、あれはユギョンに? そういうことか・・・」
「誰かがプレゼント買ったのですか? 誰、チョルスさん?」
「なんでもないよ。それから最近電話が多いけど、俺は顧客とは恋愛などしませんから。仕事の件以外では電話しないでくれるかな」
 そう言ってドックは席を立った。
 捨て台詞を吐かれ、喫茶室でドックに置いてけぼりを食った彼女はいまいましそうに叫んだ。
「牛100頭の金持ちだからって、なによ偉そうに!」

「チョルスさんがプレゼントを買ったみたいよ」
 せっかちの友達からそう聞かされたらしいユギョンは浮き浮きした顔で事務所を訪ねてきた。
 そしたらチョルスはちょうど事務所から降りてくるところである。
「チョルスさん」
 ユギョンは声をかけた。 
「今日はもう終わったの」
「ああ、何か用?」 
 反問されて、ユギョンは「あれっ?」って感じでうろたえた。それから訊ねた。
「どこかに出かけるの?」
「家に帰るところだけど、どうかした? 俺に用があった?」
「いえ、そうじゃないの。通りすがりにちょっと寄ってみただけ」
「そうか。・・・この前うちに来た時、起こしてくれればよかったのに」
「よく寝ていたから・・・今から家に帰るの?」
「ああ。どこかに行くなら送ってあげるよ」
「いいえ、いいの」
 そう言ってユギョンはチョルスが手にぶら下げている買い物袋を気にした。
「じゃあ、行くわ」
 チョルスに背を向けた時、ユギョンは悔しそうな顔をした。

 コン室長はケジュを自転車に乗せてサイクリングした。遠い昔、彼女を自転車に乗せて走った思い出を重ねながら。ケジュは彼に頼みごとがあった。
「知り合いで英語の堪能なナさんという人がいるの。その人をあなたのホテルで使ってもらえないかな」
「ナさん・・・? ・・・はっ、奥さま・・・! その人はだめです」
「じゃあ、いい」
 ケジュはつんと怒って、来た道を戻りだした。コン室長は彼女を追いかけた。
「ケジュさん、おうちまで送ります」

 高い買い物をしたかとチョルスはグジグジなやんでいた。
「いいか・・・サンシルが出ていったら子供にやればいい・・・いや、やっぱり返品しよう・・・」
 なかなか結論をくだせないでいるところへアンナが飛び込んできた。
 チョルスはびっくりした。
「急に入ってくるなよ」
「なぜ、驚くのよ。・・・それ、何」
 問われてチョルスは紙の箱を投げ出した。
「携帯ね」
 アンナは嬉しそうにした。
「連絡が取れないと面倒だからな。必ず持ち歩け」
「どうかしら? これは・・・」
「気に入らない」とチョルスはアンナに言葉の調子を合わせた。
「そう言うと思った。いい、ジュンソクにやる」
 取り上げようとするが、いやよ、とアンナは渡さない。 
「どうせ私が使うんだから色を変えるわ。行くからね」
 出て行くアンナを見送ってチョルスはつぶやいた。
「まったく態度がデカイよ。なんでいつも自信満々なんだ。それだけは尊敬するよ」

 ヘギョンは店で自棄酒を飲んだ。
「心の中をみんな打ち明けたいのに・・・あなたを捕まえたいのに・・・」

 アンナは携帯の色を変えるため、チョルスを連れてショップを訪れた。携帯を取り替えてもらってご機嫌だった。
「ほら、この色の方がずっといいでしょ」
「同額だから、許してやるよ」
「とにかくありがとう。さっそく私から電話してあげようか?」
「節約しろ。通話料が高かったら、即没収だ」
「いやなの?」
「じゃあ、かけてみろ」
 アンナがかけようとしたら、チョルスの携帯が鳴った。
「あれ? まだかけてないのに?」
 電話はユギョンからだった。

 チョルスが駆けつけるとユギョンは酔いつぶれていた。
 抱き起こそうとしても立ち上がれないほどである。
 アンナに見ているように言って、チョルスは酔い覚ましの薬を買いに出ていった。
 チョルスがいなくなった後、アンナはユギョンに話しかけた。
「ちょっと花束女。あなた、本当に酔ってるの? 本当に?」
 ユギョンは反応しない。
「おかしいわ」アンナは言った。「そんなに酔っていて、どうして電話などできるの? チャン・チョルスは考えなかったかな・・・とにかく、タクシーで帰って」
 ユギョンは目を開けた。憎らしげにアンナを見た。
「やっぱり、酔ってなかったのね」
「そうよ。少し酔っただけ」
「じゃあ、一人帰って」
「いやよ」
「なんですって。チョルスを呼び出すために酔った振りを?」
「そうよ。彼を呼び出す口実よ。それはいけないの」
「・・・」
「酔った振りもけっこう大変なのよ」
「まだいうの!」
 チョルスが戻ってくるのを見て、ユギョンは身体を沈ませていく。
 アンナはユギョンの酔った振り(演技)をとがめた。
「起きなさい、花束女。おい、起きなさいってばっ!」
 ユギョンの身体を揺すっているアンナをチョルスは引き離した。
「酔った人間つかまえて、何やってるんだ」
「酔ってないと言ったわ」
「酔った人はそう言うんだよ」
 チョルスはそう言ってユギョンを抱き起こした。抱き起こされたユギョンは、あっ、とわざとらしくチョルスの胸に寄りかかっていった。
 アンナはアンナでわざと彼女に対し親切心を発揮しだした。
「いいわ、私にまかせなさい。チャン・チョルス、私が引き受けたから車を出してきて」
「そしたら、門の前で待ってろ」
 アンナはヘギョンを抱きかかえて外へと連れて出た。外へ連れだした後、アンナはヘギョンの身体を振りほどくようにした。へギョンは通路の段から足を踏み外す格好で転倒した。
「あっ、大丈夫?」と言って手を差し出そうとするアンナの手を払いのけた。
 にらみつけてくる彼女に向ってアンナは言った。
「酔いも覚めた? 酔った振りも大変ね」
「そうよ。あなたが邪魔するから大変よ」
「今みたいにちゃんと立ってなさい」
「どうかな。邪魔されるとかえって意地になるわ。彼はいつも私を支えてくれたの」
「もうすぐ結婚するんでしょう」
「まだ結婚してないわ」
「それで、最後に思い出作りでもする気?」
「そうよ。チョルスさんとは大切な思い出がたくさんあるの。ああ、そうか。記憶がない人にはわからない気持ちよね」
「・・・」
「私をあまり刺激しないで。私、本当に彼の前で倒れて、彼をつかまえようとするかもしれないわ」
 車がやってきて、ユギョンはまた酔った振りに戻った。
 チョルスはそんなユギョンを車に乗せた。
 アンナはそんなチョルスの腕を捕まえた。
「チャン・チョルス、行かないで。あなたが彼女を送るのはいやよ。タクシーに乗せればいいじゃない」
「酔ってるじゃないか。送らないわけにいかないだろ」
 行こうとするチョルスの腕をまた引いた。
「今、あなたの横にいるのは私でしょ」
「ナ・サンシル」チョルスは言った。「お前はいつかいなくなるだろ」
「まだわからない。以前はあなたを好きだったもの」
「ちゃんとそれを覚えてるのか? 本当の記憶じゃないだろ」
 アンナはチョルスから手を離した。
「わかったわ。行って」
「お前はタクシーで帰るか?」
「一人で帰るから心配する振りはやめて」
 アンナはそう言って背を向けた。
 車に乗り込んだチョルスにヘギョンは言った。
「私のためにごめんなさい」
「いいんだ。君のせいじゃない」
 一人で帰っていくアンナを見つめてチョルスはつぶやいた。
「これでいいんだ・・・」
 ヘギョンを家に送り届けたところでチョルスは言った。
「もう呼び出すな。もうすぐ結婚するんだろう。悪いクセは直した方がいい」
「チョルスさん・・・」
「俺は過去を忘れたんだ」
「チョルスさん」へギョンは訊ねた。「あの人を愛しているの?」
「何?」
「それをいえないでいるの?」 
「君には関係ない。行って。帰るよ」
 ヘギョンの気持ちがチョルスを追いかけた。
「それは愛じゃないわ・・・!」

 ビリーとコン室長は相変わらず前進のない押し問答とありったけの知恵を絞り続けていた。

 チョルスに対し芽生えた感情が過去から続いていたものとアンナは錯覚していた。しかしようやくそれを疑う気持ちも起きていた。
「私にもチャン・チョルスとの大切な記憶があったのかな・・・」
 
 アンナはビリーを愛して結婚したのではなかった。ビリーの勘違いと図々しいほどの度胸をアンナが受け入れてあげてした結婚だった。
 そのことがビリーの思い出の中から明らかになる。
 ビリーはまたつまらない作戦を考えた。
「胸を痛めながら、自分は二人を見守っていたことにしよう・・・」

 チョルスは戻っていないアンナが心配で探しに出た。アンナは例のバス停の椅子にぽつんとひとり座っていた。
 チョルスはバス停ボックスの後ろに立ち、アンナの背中を見ながら電話を入れた。
「家に帰らないのか?」
「心配する振りはやめて。自分で帰れるわ」
「非行少女をやるつもりか。家に帰らないと」
「いやよ。気分が悪いの。一時間後に帰るから」
 チョルスはアンナを見た。
「困ったな・・・バスはこないと本当のことも言えないし」
 嘆息した。
「このまま待つしかないな・・・」
 そして時間が流れていった。
 やがてアンナはつぶやいた。
「バスがこない。・・・帰れないじゃない」
 アンナはチョルスに電話をかけた。
 チョルスはにやりとしながら携帯を取り出した。
「バスが来ないから迎えにきて」
 チョルスは笑った。
「一人で帰れるんだろ?」
「ケチ! もういいわ」
 アンナは携帯を切った。
「家まで遠いのに・・・」
 立ち上がって歩き出そうとした時、チョルスはボックスのガラスを叩いた。
「そこで待ってたの?」
「ああ、通りがかりに見つけた。もうバスもないのに・・・待ってるのがおかしくて見てたんだ。帰ろう」
 チョルスは先に歩き出した。
 アンナは嬉しそうに呟いた。
「ともかく・・・一時間は待ったのね」
 車の中でアンナは言った。
「チャン・チョルス。――記憶にないけど、以前も私を待ってくれたことがある?」
「さあな・・・」
「じゃあ、私が呼んだ時に駆けつけたことは?」
「さあ、どうだったかな・・・」
「じゃあ、私を支えてくれたことは?」
 チョルスは嬉しそうに言った。
「あったよ。お前も覚えてるだろう?」
「そうね。支えてくれたわ」
 アンナも楽しそうに言った。
「だけど、記憶はそれひとつだけね」
「だから、早く記憶を取り戻せ」
「医者の話では、昔の記憶が戻ると今の記憶を失う場合もあるっていうけど、そしたら今のこの瞬間も忘れるのよね」
 チョルスは困惑を見せながら言った。
「それなら、お前にとって好都合だろう? 悪い記憶がなくなるから」
「そうね。そうなったらいいわ――記憶が戻ったら、私は何も言わずに出て行くわ。この期間の記憶を捨てて行ったと思ってね」

 チョルスは布団に入って考えた。アンナの最後の言葉が気にかかるようだった。
「そうだな・・・そんな別れ方も悪くない」

 アンナも考え込んでいた。
「”行くな”とは言ってくれないの」
 そうつぶやいて頭から毛布を被った。

 朝七時に起きてくると、アンナが部屋にいない。チョルスは昨夜のことが気になって外に飛び出した。アンナを探して回った。
 アンナは庭先にも部屋のどこにもいない。
 衣服がたたまれ、その上に携帯が乗っていて、まさか、の思いがチョルスに走った。
「まさか・・・」
 その時、アンナの声が外でした。
「コッスン、入りなさい!」
 チョルスは外に飛び出した。
「ナ・サンシリッ!」
 アンナのそばに走っていった。
「驚くじゃないか!」
「どうしたの?」
「出ていったと思ったよ」
「えっ?」
「何も言わないで俺を捨てて行くな!」
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