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雨の記号(rain symbol)

善徳女王 第28話から

  このドラマだけでなく、「風の絵師」を見ていても感じたが、韓国の歴史ドラマには無法の中の秩序というか、常にそういうものが常に一貫して流れているようだ。

 奇を衒わない重厚なストーリー展開。衣装の華やかさ。戦闘シーンも乱雑にではなく、スポーツのように形式美を優先させている。戦闘シーンはほんとに必要と思われるものだけに抑えているようだ。戦国時代が背景なのに血を見る戦のシーンがそんなに登場しないのはそのせいである。ほとんど無法に近い時代を扱いながら、ここに映し出されているのは秩序ある世界を生きる現代人の権力闘争のような景色とでも言えようか。公の場では殺戮も何も起こらず、相手を陥れようとする駆け引き世界が出来上げっている。それが現代人の僕らの関心を惹きつけている。

 見ていてふと「ベルサイユのばら」を思い出した。あれはフランスのオスカルとマリー・アントワネットの話で、これとはぜんぜん結びつかないはずだが、なぜか思い出してしまった。
 宝塚がこの物語を採用すればけっこうヒットするんじゃないか。そう思ったりする。

 新羅(シルラ)の王女になると決めてからのトンマンの成長ぶりは著しいが、ピダムに続き、今回もユシンを使った采配が見事だった。
 ピダムに「日食は起こらない」と告げ、「お前の使命は起こりもしない日食を、起こる、と信じさせることだ」と言ってミシルのもとへ送り出す。
 予定通り、ピダムは捕まり、ミシルのもとへ引き出される。
「何の目的があって民を惑わしたのだ」
 問い詰める将軍にピダムは答えた。
「私は天の意志を伝えただけです。何の目的もありません。啓示を受けたのです。天の意志がナジョンにあるからと」
「お前は天の意志を知っているのか」とミシル。
「それは事実です」とピダムは答える。
「では訊ねる。お前は自分の運命についてどれだけ知っている。お前はいつ死ぬのだ。今日か、それなら明日殺す。明日か? あさってか? 明日以降なら、今すぐ首を切る。さあ、答えてみなさい」
 ピダムは薄ら笑いで平然と答えた。
「私の命は王様より三日少ないです」

 ミシルは、今すぐにでもあやつの首を切った方がいい、という者らを制して言う。
「あやつは頭の賢いやつだ。自分より三日少ないといえば即座に首を切り落としてやった。しかし、王様を持ちだした・・・何というやつだ・・・」

 ミシルらの取調べは続く。
「ナジョンの碑石のことだが、あれはお前がたぶらかしの細工をしたのではないのか」
「もちろん、そうだ」とピダム。
「なぜ、天の意志だと言わない」とミセン。
「天の意志? そんなものどこにありますか」と問い返すピダム。「ナジョンの石碑が地上にのしあがったのは、豆をふくらませてそうしたのだと…と公表すれば、民はミシル王女を疑うのではないですか。私は天の意志を利用したのではないのです。ただ、これを見せかけるには、天の意志を利用するしかないじゃないですか」
 狼狽するミシル側の者たち。
 相手を打ち負かせるとの確信を得たピダムは、仮面を取ってメイクを落とした。
「これじゃ公平じゃないでしょう? 顔を隠していては心を隠すのに有利ですからね。それじゃどうもね・・・では、始めますか」
 そう言って、懐からおもむろにウォルチョン大師の書簡を出した。
 書簡がウォルチョン大師の手になるものかどうか確かめた後、ミシルは訊ねる。
「今月の15日に日食が起きる。これを信じろと?」
「信じる信じないはそちらの判断です。果たして、それがほんとなのか、嘘なのか。それを決めるのがあなたの役目なんですよ」
 ピダムは言い放った。

 ピダムがミシルと渡り合っている頃、トンマンは第二の手を打つ。
 正光暦の写しをユシンに渡してトンマンは言った。
「ミシルのもとへ行って、これを見せてください」
「どうしてこれを見せるのですか?」
「日食が起きると信じさせるためです。これを見れば、計算して期日を割り出したのではないかとミシルは考えるでしょう」
「しかし、これではかえって疑われることになりませんか」
「大丈夫です。これをみれば周りの者が動揺するはずです。ミシルはきっと裏の裏を読んでくるでしょう。そこが付け目です。狙いはミシルの気持ちを混乱させることにあるのです」
 トンマンはさらに付け加えた。
「ミシルと会って話す時、ミシルから目を離してはいけません。ミシルの目をしっかり見て話してください。自分は嘘など言っていないとその目で信じさせるのです」

 ユシンは出かけていってミシルに接見する。
「本当に日食を計算したのですか?」
「はい」
「ウォルチョン大師が直接話しましたか? それをあなたも聞きましたか?」
 謎の微笑とともにユシンの表情を読み取ろうとするミシル。ユシンはトンマンから言われた通り、冷静を装ってミシルを見つめている。しかし、逆に表情を読まれまいと頑張り過ぎて強張った表情になっているかに見える。
「トンマン王女が聞き、それを私に話されました」
 ミシルはまたまた謎の微笑で問いかける。
「ユシン殿は、ウォルチョン大師を連れてタンチョン岩に行ったことがありますか?」
 ユシンを試すための問いかけであった。その問いかけは何を意味するか? ユシンはにわかに対応できない。何のことかと思ったようである。
 困りながらもユシンは自分なりに返答をひねり出す。
「私は行きませんでしたが、他の者が一緒に行ったでしょう」
 一瞬、喜悦に似た笑みがミシルの顔に浮かぶ。ミシルを見つめ続けるユシンはそこで動揺を覚える。失敗したかと曇るユシンの表情をミシルは観察し続けている。
 ミシルは言い放つ。
「トンマン王女に伝えてください。日食は起こらない。今回の戦略は失敗した、と」


 日食が起こるのは15日。ウォルチョン大師の算出方式は誤差の計算から入って行く。それなのにこの断定はありえない。15日と断定しておいて、こちら側にこの問題を解決しろと言い出してきているのも妙だ。この書簡はどう見ても虚偽の可能性が高い。
 このことにダメを押すため、ミシルはひと芝居打つことにする。
「あいつはでまかせを言ったらしい。日食なんて起こらないんだってさ」
「そう、そう・・・ミシル様はそう言ってるらしいぞ」
「市中を騒がしたってことで、あいつは明日、火あぶりの刑にさせられるらしいぞ」
 牢屋のすぐ近くで、衛兵どものやりあっている話を聞いて、ピダムは自分の遂行した作戦が失敗に終わったことを思い知らされる。失敗すれば殺される。あとは自力で逃げるしかない。トンマンの言葉を思い出したピダムは失敗した際の最後のシナリオである脱出を決意する。
 移送中に逃げ出そうとしたピダムだったが、奮闘むなしく取り押さえられてしまう。
 そこへミシルが現れる。
「俺は負けたのか」
 問いかけるピダムにミシルは答える。
「まだ勝負はついていなかった。堂々としておればよかったものを・・・日食が起こるならどうして逃げようとする。その矛盾でお前は負けたのだ。これでやっと日食がないとわかった。明日、お前は民心を惑わした罪で火あぶりになる」

 そしてこの日、当然のごとく日食は起こらなかった。
 目的の遂行が叶わず、トンマンへの申しわけなさと落胆に暮れるピダム。

 しかし、これらはすべてトンマンの手のひらで思い描かれた筋書きだった。
 トンマンはこのことをユシンとアルチョンの前で告げる。
 彼女が、ピダムに申しわけない、と語ったのは、日食が一日ずれたことによる(日食の期日を16日と書簡にしたためたかったと反省しただろうが、日食のタイム誤差を後ろに持ってきたのでは筋書きが狂いかねないとのやむない事情があったものと見える)、ピダムの命を惜しんでのものだったようだ。ここに、死を覚悟しろ、と言いながら、ピダムを死なすつもりのなかったトンマンの思いが覗いている。

 しかし、ピダムの運命はまだ尽きていなかった。
 木に結わえられ、火あぶりの刑が執行される直前に日食が始まったからだ。太陽を月が覆っていくのを見て、ピダムは呆れ、歓喜する・・・。
「あいつ・・・俺まで騙していたのか? ミシルを騙すため、俺まで騙していたっていうのか・・・?」
 歓喜の中で、ピダムは自分にはまだ仕事が残っていたことを思い出す。
 
「開陽天日有錦之鶏林天明新天到来」

「王に双子(女)が生まれれば、王族の男は尽きるが、トンマン王女が立ち、新しい時代がやってくる」

 そして、高殿にはトンマン王女の姿が・・・
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