先日、上田市で開催された小出裕章氏の講演を聴きに行った。メイン会場+サテライト会場で合計600人。長野の地方都市としてはかなり集まったと言えると思う。当日の模様は、ニコ生でも配信されたし、その前日も、分刻みのスケジュールをこなし、こちらはユーチューブで配信されている。
小出氏は、原発問題を語る専門家として、3.11以降、全国各地を講演。脱原発の“専門家”としては、もっとも知られるようになった人物だと思う。
・『原発のウソ』(扶桑社新書)
・『原発はいらない』(幻冬舎ルネッサンス新書)
・『核=原子力のこれから 生まれ故郷で語る』
・・・の3冊を読んでみた。
小出氏は京都大学原子炉研究所助教の肩書を持つ研究者。ただ、小出氏の書くものは極めて平易。とにかく分かりやすいのだ。講演もそうだし、専門用語を極力使わない。その点、原子炉内部の構造を細かく解説し、地震学をあれこれ引用する作家の広瀬隆氏とはずいぶん違う。
それに、質疑応答にも、丁寧に答え、避難すべきか否かなどを問われると、「私には分かりません」と率直に語る。どんな質問にも、立て板に水で答える“下世話”な武田邦彦氏とも姿勢は異なる。<不器用な生き方をしてきた真摯な研究者>というイメージを多くの人が抱く(講演そのものはとても雄弁)。
僕は基本的に脱原発の立ち位置なので、小出氏の核燃料サイクルの破綻、高レベル放射性廃棄物を気の遠くなるほど長い期間保管しなければいけない“未来の世代への途方もないツケ”を、原発を推進していることで、強いているとの批判には、基本的に同意する。その通りだと思う。
いわゆる核のゴミを管理することの難しさは、映画『100000年後の安全』で、嫌というほど見せつけて貰った。
小出氏が推薦する、この映画の映像と台詞を抜粋、西尾獏・澤井正子氏(原子力情報資料室)による高レベル放射性廃棄物の問題についての解説を付した、同名の書籍(かんき出版)は、この問題の平易な入門書にもなっていて、映画を観る際に日本の問題を理解するには、よく出来ている。
さて、脱原発の専門家としての小出氏に共感するのは以上の点だけど、違和感もある。小出氏は、福島県の高レベルの汚染地域だけでなく、東北関東に至るまで、放射線管理区域に指定しなければならないほどの汚染を受けている。1ミリシーベルト以上の被曝をさせてはいけない。1ミリシーベルトは、1万人に1人ががんで死ぬ数値であるとはっきり書く。
※長期にわたる低線量被曝の影響は、殆ど分かっていない。ここまで断定的に書くのは適切でないと思う。
僕は、「100ミリシーベルト以下は大丈夫」とは言わない。被曝線量が低いほど良いのは当たり前だと思う。小出氏は、暫定基準値の存在を認めない。自然放射線の問題にも一切触れない。
年齢別に異なった食品基準値を設けるべきだと言う現実的に到底不可能な持論を展開する。
原子力工学の専門家が、放射線防護や食の安全にまで、正確にものを論じられるかと言えば、それは無理だ。小出氏が真摯な研究者であることを疑いはしない。ただ、それと小出氏の話していることをそのまま正しいと受け入れるかどうかは別の話。
分かりやすさは単純化でもある。その危うさに注意を払いつつ、問題提起の書として付き合うのが、僕の小出氏に対する向き合い方だ。講演録は読みやすいし、一読をお勧めしたい。
集英社新書の『ゴーストタウン』は、チェルノブイリをバイクで疾走したルポルタージュ。写真が豊富で読みやすい。
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