“終活”という言葉が流行語になるように、「人に迷惑をかけずにいかに死ぬか」という本が書店には溢れている。医師の日野原重明氏が100歳を迎えるのに際して、書店には日野原氏の本のコーナーも出来たりしている。作家の曽野綾子氏の本などはベストセラーになってもいる。
著者によってニュアンスは違うものの、“老後を前向き”に生き、人生の最後をいかに安楽に迎えるか・・・という方向性は殆ど変わらない。
・・・その中で本書は、83歳を迎え、体も、気力も衰え、妻と別居し、これからの人生に何の意味を見いだせなくなったと感じて、「安楽断食死」を選択する。
そして、その記録を、友人に出版して貰うために日記をつけ続けるのだ。
結果、著者は死ねなかった。三回挑戦したものの、一度目は、マンスリーマンションを借りて、決行する直前に鬱血性心不全で倒れ、二度目は38日間断食を続けたものの、胃潰瘍らしい症状になり、激しい痛みでドクターストップ。三度目は9日で挫折する。
これを新書で、世に出したのだから、著者は生き恥を晒したことになる。
僕はこの本の広告を見た時に、著者は生きているのか、真っ先にウィキで調べた。健在だった・・・。そしてこの本を買い、読み始めて、肩透かしを食った気持ちになった。
自分の断食死の記録を残すのなら、自分の葛藤や苦しみがつづられているものだと思っていた。けれども、著者はテレビを見ている。大震災のライブ中継と福島原発の問題に憤り、週刊誌を買いに行く。てっきり僕は自室に引きこもって、朽ちていくように、自分の人生を走馬灯のように振り返りながら、粛々と死に向かっていくものだと思っていたのに。
乱暴な書き方をすれば、著者は下世話に過ぎる。現実の問題にそれだけ旺盛な関心を持ち続けて、枯れるように安楽に死ぬというのは、どう考えても無理じゃなかろうか。
別に著者を批判してるわけではない。前向きな老後ばかりを語る本の中に、こういう生々しい生き恥をさらす本があっても良いと思っている。前向きな老後を語る本にうんざりしている高齢者だっているに違いないのだから。
(840円+税、幻冬舎新書 11.9)
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