いきもの散歩

近所の自然観察、飼育している川魚の記録

田んぼ脇水路のアオモンイトトンボ

2019年09月30日 | 昆虫類
田んぼ脇水路で撮影したアオモンイトトンボ。


▲オス


▲異色型(メス型)メスの産卵
生息地の背景に対して隠蔽的な体色をしている。


▲同色型(オス型)メスの産卵
オスに似て青緑色をしている。


アオモンイトトンボのメスにはオス型(同色型)とメス型(異色型)の2型が出現する。このアオモンイトのメス多型について少し調べてみた。

型の遺伝
メスの型は1遺伝子座のメンデル遺伝で、オス型が劣性遺伝。


オスからのハラスメント
「雌の生存や繁殖に悪影響を与える雄の性的な行動のこと」(参考[1])。
メスは交尾時にオスから受け取った精子を蓄えておく精子貯蔵器官(交尾嚢と受精嚢)を持っている。受精は産卵時に行われる。メスが一生の産卵に必要な精子は1回の交尾で得られ、精子貯蔵器官に蓄えておける。そのため、メスが積極的に何度も交尾をしたがることは稀だ。しかし、オスは自分の子孫を残すために、精子を保有しているメスとも交尾を試みる。このようなオスの行動は、メスの食事や産卵を妨害し、「オスからのハラスメント」と呼ばれる。


オスの配偶者選好性
(1)アオモンイトのオスが先天的にメスのどちらかの型を好む、ということはない。
(2)遭遇頻度が高い型のメスを好む。集団内での多数派がメス型であれば、メス型の方がモテる、というわけだ。
(3)交尾経験が影響する。オスは1日のはじめに交尾したメスの色を記憶し、その日はその色のメスとしか交尾しない。翌日になるとその記憶はリセットされ、再びその日の最初に交尾したメスの色を記憶する。

正確で詳細な内容については参考[2]を参照されたし。


負の頻度依存淘汰(頻度依存選択)

多様性の進化の副産物 - Klabo-Wiki
■負の頻度依存淘汰
多数派が少数派よりも不利になる(損をする)という淘汰のこと。アオモンイトトンボの場合、多数派の色彩タイプの雌が多くの雄からモテやすいので、多数派の雌は雄からのハラスメントを受けやすくなり、生存や繁殖上の不利益を被ります。このような淘汰が働くと、あるタイプが増えすぎるとそのタイプは損をするので、淘汰され、割合を減らしていきます。ただし、少数派になるほどまで減ってしまえば、また勢力を拡大し、割合を高めていきます(少数派が排除されたり絶滅したりすることがなくなる)。すなわち、負の頻度依存淘汰のもとでは、複数のタイプが共存し続け、高い多様性が保たれることになります。

負の頻度依存淘汰は多様性を維持する機構で、アオモンイトのメス多型の場合、そのキー要素が「オスからのハラスメント」(どのような不利益を被るか)と「オスの配偶者選好性」(不利益を被る主対象が多数派になる仕組み)になっているというわけだ。
ちなみに「負の頻度依存淘汰」とは逆に多数派に有利をもたらす淘汰は「正の頻度依存淘汰」と呼ばれる。


アオモンイトのメス多型の存在理由
不明。


参考
[1] 多様性の進化の副産物 - Klabo-Wiki
[2] CiNii 論文 -  直前の交尾経験に依存したアオモンイトトンボの雄の配偶者選好性


学がないので、生物学の難しい話や論文を読むのは苦手なのだが、身近なアオモンイトについてであり、面白い内容なので、楽しく調べられた。また、新たな視点を提供してもらい、今後のアオモンイトの観察が楽しみになった。


異色型(メス型)メス



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