最近完成した当事務所の設計した住宅です。この写真は建築主の了解を得て公開しています。
会社員のご夫妻の住宅です。奥様が茶道をしている関係で、和風住宅にしてくださいとのご要望があり、外壁は漆喰と腰壁に下見板を施しており、和風の住宅としての雰囲気を作り出しています。内部の日本間では茶道の雰囲気が可能な造作をしましたが、もともと客間として設計しており、書院作り風に長押を取り付けていたため、ちょっと違和感のある茶室となっていますが、水屋も本格的に設置して茶道の教授にも十分にできる環境となっています。既存の門柱や塀・庭木をできるだけ残して田園風景の屋敷林のある周囲の雰囲気に溶け込ませました。
設計を開始するときに、建築主の周囲の人の勧めで私の話を聞いていただけることになり、今回の建物設計の受注につながりました。
提示された企画プランを確認させていただいたところ、ご夫妻の雰囲気とは違和感を感じたため、「具体的にどんな要望で作図したのですか?」と質問をしてみました。回答は「部屋数と部屋の大きさだけです。」との答えにびっくりしてしまいました。
私は紹介されたときに、建設に係る金額の話から切り出しました。住宅の建設費用は個人が支出する最大の金額となるため、その覚悟をしていただくことで、住宅建設を他人まかせでなく、自分の住まい作りに真剣に取り組んでいただくためにお話していますが、、私との話は相当な違和感があったように聞いています。
私は建築主に「あなたの住宅についてどんな家が欲しいのか各部屋ごとに要望を紙に書き出してください。」「できれば自分たちで平面計画を紙に書いて考えてみてください。」とお願いし、「その要望に従って企画プランを相談しながら作っていきましょう。」と提案させていたいて、お別れしましたが、数日後A4の用紙3枚ほどに要望を書き出した用紙をもって、当事務所を訪ねて来ていただきました。
私たちはその要望をもとに毎週午後7時過ぎから午前12時過ぎまでたたき台の企画プランを2案ずつ提示して議論を重ねました。初対面から3ヵ月掛かって双方の意見がまとまって企画プランが写真の建物のように決まりました。この間に提案した企画プランは約30通りに達し、我々と建築主との絆がしっかりと結ばれ、当事務所のコンセプトでもある結界の空間を作り出すことに成功しました。
建物の企画プランは詳細は記述できませんが、ご夫妻の要望をはるかに超えた内部立体空間とご両親と同居するための生活環境の確保、ご夫妻が趣味の世界を楽しむライフスタイルの空間を組み合わせることができ、ご夫妻にも大変喜ばれ、設計者としても満足のいく空間構成が出来たと思っています。予算との関係で工務店に無理なお願いをしたことで、完成検査において手直し工事が出てしまったことは多少残念ですが、ハウスメーカーの住宅が中心の現在の住宅建設情勢の中で、自分の個性に合わせた独自の住まいを作り上げた建築主に賞賛の意を表し、協力させていただいたことに深甚なる感謝を申し上げます。
住宅建設には建築主の要望を十分取り入れて、既製の枠を乗り越えて個性を醸し出し、ライフスタイルに合わせた家を皆が現場で協力して作りあげることで愛着が生まれ、末永く自分の「住まい」として大事にしていただけるものと信じています。ハウスメーカーの企画に合わせた同じような家では本来の住まいとしての機能は果たせません。建築主の個性と心情を十分に取り込むことが大変重要かと思います。
今回の建物の建設ではそういう意味で大変うまく出来たと自負しています。