作業員に鉛カバー作らせる 被曝隠しの下請け 福島第一
原発事故後、実際の放射線量を隠すために、線量計に鉛のカバーをかけていたことが発覚
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役員の指示でビルドアップの作業員が作らされた鉛カバー(朝日新聞が作業員の証言をもとに再現)
東京電力福島第一原発の復旧工事に参加した下請け会社ビルドアップ(福島県)の役員(54)が昨年12月、作業員が身につける放射線の線量計を覆うために用意した鉛のカバーは、事前に作業員自身に作らせたものだった。製作に加わった作業員たちの証言でわかった。
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「APD」と呼ばれる線量計は縦97ミリ、横58ミリ、厚さ16ミリ。防護服の下のシャツの胸ポケットに入れ、ガンマ線やベータ線を前面のセンサーで感知し、全身にどれだけの放射線を浴びたかを測る。毎日、東電が作業員に貸し出す。
作業員らによると、昨年11月30日、ビルド社の作業チーム約10人の半数ほどが原発構内の作業場に集められた。役員は厚さ数ミリ、縦横1メートルほどの鉛板を用意していた。通常は汚染水の配管を覆って放射線を遮るために使う鉛板とみられる。
役員はAPDの実物を使ってサイズを測り、鉛板に油性ペンで線を引かせて金属用のはさみで切断させた。作業員たちは万力やハンマーでAPDの前面、両側面、底を覆うカバーの形に整えた。「手で折り曲げた」と話す作業員もいる。
作業員の一人は「鉛のカバーを12個作り、一つ一つに1から12まで番号を書いた」と証言する。朝日新聞の取材後、作業員らから聞き取りしたビルド社の和田孝社長は「9個作ったと聞いている」としている。
役員が鉛カバーの用途を説明しなかったため、作業員の一部はその場で尋ねたが、明確な回答はなかったという。役員は完成したカバーを土嚢(どのう)に使うような白っぽい袋に詰め、原発構内のビルド社専用の車の後部座席の下にしまった。
役員は翌朝、作業員の拠点「Jヴィレッジ」から原発へ向かうバスに乗り込む直前に「昨日、鉛(カバー)を作った。あれを装着して入る」と指示。製作に加わった作業員は「そんなふうに使うのかと思った」と驚いたという。3人はその場で拒否し、仕事を外された。役員は現場の放射線量が高いと判断し、線量計を鉛カバーで覆って被曝(ひばく)線量を小さく見せかけようとしたとみられる。
一方、厚生労働省は21日、労働安全衛生法に違反する疑いがあるとして、福島第一原発の現場などに立ち入り調査を始めた。作業員の被曝記録など関係書類を提出させる方針だ。(佐藤純、青木美希)
ビルドアップの和田孝社長は21日、福島第一原発で昨年12月1日に鉛カバーで線量計を覆って作業員9人を約3時間働かせていたことを朝日新聞の取材に認めた。20日までは役員が鉛カバー装着を指示したが、実際は着けていないと説明していた。役員が21日朝、電話で認めたという。
和田社長によると、役員は「事前に現場に行ったときにAPDの警報音に驚いて考えついた」と説明。1号機西側の高台で資材を運ぶ作業などをする時に鉛カバーを装着したという。役員は「大変なことをしてしまった」と謝罪しているという。役員は当初、関与を全面的に否定していた。
(朝日新聞、朝日 デジタルより)
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