私的年金拡大の政府方針、「老後は自分で何とかしろ」の意味
2017年8月27日 13:00
公的年金だけでは老後の生活はままならない
厚生年金や国民年金の保険料が値上げされ、受給額は毎年カットされ、さらには75歳年金受給開始も検討される一方で、政府は公的年金の保険料とは別に、iDeCo(イデコ)など企業やサラリーマンが個別に掛け金を積み立てる「私的年金」の普及拡大に力を入れている。
「少子高齢化が進展する中で、国民の老後の所得保障を充実させていくためには、公的年金に加え、企業や個人の自助努力による私的年金を充実させていくことは重要な課題と認識しております」
安倍晋三・首相は今年3月の参院本会議でそう強調した。だが、国民の「老後の所得保障」は公的年金の役割のはずだ。国民や企業が公的年金の他に掛け金を負担する私的年金は国による保障でも何でもない。
政府は「100年安心」を謳った小泉政権時代の年金改革(2004年)で「年金は将来にわたって現役時代の収入の5割を下回らないようにする」と国民に約束し、現在の安倍政権も約束を引き継いでいる。しかし、5年ごとに行なわれる厚労省の年金財政検証(2014年)では、働く高齢者や女性の割合が大きく増えなければ、40年後の年金給付の水準は今より3~4割目減りし、現役世代の平均収入の5割を割り込むことがわかった。
首相が私的年金に加入しろというのは、老後の生活に“公的年金が払えないから自分で何とかしろ”という意味に他ならない。現役時代にコツコツ年金保険料を支払ってきた高齢者は「自助努力」と言われても納得がいかないはずだ。
現在の高齢者がサラリーマン時代の保険料の総額を計算すると、驚くべき金額になる。
厚労省の標準モデル(現役時代の平均月収40万円で厚生年金に40年加入)の場合、支払った年金保険料の総額は2948万円に達する。大卒総合職の60歳定年時の退職金(一時金と企業年金の合計)は大企業が多い経団連の調査で約2374万円、東京都産業労働局がまとめた中小企業のケースで平均1123万円だから、老後の蓄えとなる退職金以上の金額を国に保険料として納めてきたのだ。これは「自助努力」そのものだろう。
高齢者を75歳まで働かせることで年金を減額し、“老後の保障は私的年金に加入せよ”とはどの口がいうのか。
※週刊ポスト2017年9月1日号