*** june typhoon tokyo ***

バーサーズー@原宿アストロホール


 湘南乃風の若旦那と大阪・堀江系ガールズ・グループのEspeciaとによるツーマン・ライヴ“バーサーズー”が原宿アストロホールで開催された。湘南乃風ではレゲエ、ソロ・シンガーとしてはロックンロールやパンキッシュなサウンドが持ち味の若旦那と、ディスコやブギー・ファンク、AOR、フュージョンといったクオリティの高い作風で“楽曲派アイドル”とも呼ばれてきたEspeciaがどのような“ガチバトル”を見せるのか。期待と不安に胸を膨らませながらもその結末を見届けに、互いのファンたちが一堂に会した原宿アストロホールへ足を運んだ。



 湘南乃風としてソロとして独自の道をひた走る若旦那とアイドル・シーンでも異色のコンセプトと質の高い楽曲で存在感を放つEspeciaが、“音の動物園”という意味を持つツーマンライヴ“バーサーズー(VersuZoo)”でどのような化学反応を見せたのか。

 約3ヵ月前にYouTube上でティザー映像が公開されたのだが、そこで描かれたのは、西を代表する“港湾系アイドル・グループ”Especiaと東から日の目を見ないハングリーな若旦那のガチバトル。王者としてあくまで上から目線のEspeciaに対して、謙虚に「勉強させていただく」と低姿勢で臨むチャレンジャーの若旦那という図式だった。

 だが、蓋を開けてみれば、ティザー映像とは全く逆の展開。チャレンジャーゆえ“青コーナー”の呼び出しを受け先陣を切って登場した若旦那だったが、冒頭からギター弾き語りでの「純恋歌」でフロアを焚きつけると、立て続けに次のアルバムに収録されるであろう新曲を披露。いきり立つような叫びと熱唱で、自らのEspeciaに対する思いやオーディエンスへのメッセージを投げつけていく。それは語りかけるというものではなく、希望や愛を渇望していながらもどうすることも出来ずに首をもたげたままの人たちを揺り起こし、尻を叩き、背中を押し、力ずくで送り出すといったようにも見える不器用なエールだ。寓話「北風と太陽」であれば、頭ごなしに風を吹き付けて旅人のコートを剥がしにかかる北風に見えるかもしれない。

 若旦那ファンにとってはそのスタイルは日常的な光景で、むしろそういった熱いたぎりで喝を入れ、心にあるモヤモヤしたものを吹き飛ばしてほしいという人が多いのかもしれない。そうだとしても、この日の若旦那はさらに血気盛んだったのではないか。曲間、曲中構わずにEspeciaや原宿へ集うファンへの思いや感情を吐露する。かつて湘南乃風としてトップを取った人間から、メジャー・デビューしたとはいえ未だにアイドル・シーンに腰を下ろしているEspeciaに対して「いつまでもアイドルたちとやってないで、サザンとかミスチルとかホルモン(マキシマムザホルモン)とかが(切磋琢磨して)いるこっちの世界に来て勝負してみろ!」と煽る。それは新曲の一つとして披露した「ジャックナイフ」のように、鋭くズバズバと突き刺さる刃のような強烈な言葉だ。だが、それが不快とならないのは、その言動の陰には大いなるEspeciaへの愛が備わっていたからだ。愛するがゆえの叱咤。それは計らずともその後にオーディエンスとの大きな合唱のうねりとなった「愛してる」にも結実することとなる。

 熱量や方法論は異なるといえ、若旦那が提示したのは、メジャー・デビュー・ミニ・アルバム『プリメーラ』でライナーノーツを寄せた金澤寿和のアイドルオタク/ファンへ向けての“作品を骨の髄まで愛したいなら、大きな視野を持て”という投げかけとほぼ同義だ。ただ、金澤と異なるのは、その言葉がファンではなく、Especiaやいわゆる“界隈”と呼ばれる関係者たちへ向けられていたということ。自身も「We are Especia~泣きながらダンシング~」のプロデューサーとして参画し、メジャー・デビューに一役買った立場。成長は手に取るように感じていながらも、即効性のある起爆剤になりきれていない現状や近い将来を憂いてか、次なる発奮材となるべく、このツーマンライヴを企画し、Especia陣営の奮起を促そうとしたのではないだろうか。

 仮にそうだとしたら、ティザー映像の内容から細部にこだわってもらいたかったところもあった。頂点を知る男・若旦那に対してアイドル・シーンを“楽曲派”というキャプションとともに闊歩する若造・Especiaが恐いもの知らずで噛み付くといった構図の方が面白く、現状を踏まえても理にかなっていたのではないか。若旦那が「やっぱ相手、Especiaだし/挑戦者だし、俺」「これ勝たないと食ってけないし」「初心絶対忘れません」「勉強させて頂きます」と挑戦者ぶるのではなく、たとえば、Especiaのメンバーが「うちら“楽曲派”なんで、まぁ、そういうことですわ」「若旦那とか何旦那とか知らんけど、湘南乃風の肩書き借りてるだけでソロじゃからっきしのヤツなんてどうでもええわ」「へぇ~……アイドル界のタフさとか、何にも知らない人なんですね」といきがるのを、若旦那が「こっちは頂点を知り、酸いも甘いも知り尽くしたチャンピオンだ。お前らがどんだけのもんか、胸貸してやるわ」「ぁん?楽曲派だって?知らねぇなぁ。お前らとオレとはレェェヴェルが違うんだよ!」などと応えるとか。
 実際、若旦那はライヴ中のエピソードで「頂点に立った」者として発言しているし、その言動は王者側のそれ。挑戦者という役回りは微塵も見せなかったから、ティザー映像の立場が逆であれば、ライヴ構成との整合性も取れたと思う。

MONDO GROSSO - Everything Needs Love

(ステージチェンジの際のDJで流れていたMondo Grosso『NEXT WAVE』期の名曲)


 今回、Especiaのラストに披露された新曲「サタデーナイト」は若旦那も手掛けていて、MINMIのリミックス・アルバムに収録されるという。そこではSHINGO★西成、K DUB SHINEら豪華なメンツが参加しているからそこでどれだけやれるか勝負してみろ!とEspeciaに問いかけもあった。披露されたのは、“ヘーイ”“ホー”のコールが連なるウェッサイ風のナンバー。若旦那周辺人脈から考えれば、レゲエやウェッサイ・シーンへと繋がることは容易に想像出来たこともあり、若旦那が手掛けた楽曲の発想自体にはあまり驚きは感じなかった。

 レゲエやヒップホップ界隈などではよくあることだが、仲間をフックアップするという手法は単独ではなかなか風穴を開けられない時の手助けとして有効ではある。ただ、それに関わり過ぎると自力で勝負する力がセーヴされ、結局仲間内でフックアップし合うことだけにとどまってしまうことも少なくない。レゲエやヒップホップ、またはパンクやエモでも構わないが、単体名義で継続的に成功しているアーティストがどれだけいるか、一般的に認知されているかと言えば、多くはないだろう。Especiaに対して長きにわたって活動を継続するパーマネントなガールズ・グループとしての成功を期待している自分からすれば、しっかりとした土台を固めて着実にステップアップを図らなければならない時期に目先の話題性や刹那的なムーヴメントに乗ることで、本筋である〈黒さのあるシャレたサウンドを奏でる“堀江系ガールズ・グループ”〉というコンセプトが揺らぎはしないかという不安も募ってしまう。

◇◇◇

 若旦那の「過去や明日じゃなくて“今”をどうするかが大切」「人は毎朝目覚める時に新しい自分として生まれ変わる」だから「今日という日を、今という時間を、精一杯生きる」というメッセージはファン目線からすればすこぶる正論で、バカ正直なほどストレート。だからこそ胸に刺さるのは十分に解かるし、ファンはそのようなメッセージに心打たれるだろう。
 ただ、その瞬間の輝きももちろん大切なのだが、視点を変えて陣営側として考えた時、長期的なスパンでグループをどのように成長させるのかということも肝に銘じなければならないはずだ。キャッチーなトピックに飛びつくあまりに、目的を忘れ、苦しい時に戻れる本来の場所を失っては、元も子もないのだから。

 とはいえ、悩ましいのは、Especiaのステージが不満の残るものならまだしも、確実に成長し、部分的ではあるものの高いレヴェルで安定し始めている様子が見えているところだ。クアトロツアーも終え、7月のシングル・リリースへ向けて、さらなる向上心が芽生えてきているのだろう。これまでもパフォーマンスとしては期待を感じさせるステージが幾度もあったが、この日はそれ以上に表情がいきいきとしていた。自身たちが楽しみながらもグループとしてのポテンシャルを発揮しつつあるという姿が、強く印象に残ったのだ。
 「くるかな」のブリッジでの三ノ宮ちかと三瀬ちひろのソロ・パートは彼女らとグループに新たな役割を可能性を与えたと思うし、ラストの「サタデーナイト」での三ノ宮の(“マスターベーション”などのフレーズも飛び出す)ラップは、Especiaの新たな武器となり得る新機軸にもなりそうだ。

 ただし、勘違いして欲しくないのは、日夜その成長度を更新しているのではないかと思わせるEspeciaのステージだが、この日に限っては彼女たち“だけ”で創り上げたものではないということ。
 フロア前方では普段以上にミックス(掛け声)やメンバー・コールが生まれ、次々とリフトアップ(肩や頭上まで担ぎ上げる行為)される姿も目立った(その良し悪しはここでは置いておいて)。その高いヴォルテージを生んだのは、紛れもなく若旦那のパフォーマンス熱があったから。フロア全体を一つにまとめようと序盤から意気盛んに咆哮を乱発し、有無を言わせないほどに声、音、汗など全身を駆使して、恥を捨ててオーディエンスの心に訴えかけた結果だ。
 その熱気の渦が残ったままのところへ“赤コーナー”のEspeciaへバトンタッチ。恒例となった『GUSTO』の「Intro」から「海辺のサティ」が流れ出してもメンバーはなかなか登場せず、という焦らしに焦らす昔の来日ファンク・グループが見せた手法でオーディエンスの欲望を極限まで高めたところでステージ・イン。その瞬間、これまで閉じ込められていた炭酸が一気に噴き出すかのようにオーディエンスの針が振り切れたのだ。

 若旦那は表立ってはEspeciaをサポートするという裏方役を演じずに、あくまでも「殻を破って、こっちの世界へ勝負しに来い」と大上段に構えながら、Especiaが次の壁を突き破るためのお膳立てをした。鬼気迫るように自らを奮い立たせ、自分の血肉である魂の歌を投げつけながら、その実はEspeciaへの叱咤激励と決して容易ではないネクストステージへの道筋を照らす、この上ない裏方ぶりを発揮。これこそが頂点と凋落を経験した者ならではのプロの仕事だといえよう。「オリコン1位とか関係ねぇんだ」という言葉の意味は、勝負の世界でやり切る度胸と覚悟があるかということを示してくれたのかもしれない。その意味では、この若旦那のステージからのメッセージをEspecia陣営は大いに教訓にしなければならないはずだ。

 だが、Especiaは今後メンバー増員を検討しているという。5人体制となってからもツアーやイヴェントなどで数多くの経験を積み、ようやく少しずつ歌唱力もパフォーマンスも安定しかけているところだが、さらなる起爆剤を投入するようだ。

 個人的には、5人としての萌芽から成長期を経て、成長促進期へと向かう準備がようやく整ってきたと思われるところでの構成変更だけに、折角築いてきたバランスが崩れやしないかという心配の方が強い。目指す先に、5人でなく6人(またはそれ以上)でならなければならない確固たる理由があれば別だが、単なる話題性やステップアップの契機としての増員には、異を唱えることはなくとも、あまり気乗りはしないというのが正直なところだ。

 そして、この一回きりと思われた“バーサーズー”も、11月に“バーサーズー2”として第2弾が決定しているとのこと。次は1対1ではなく、若旦那、Especiaそれぞれの“マイメン”を呼んでの団体戦らしい(そうなるともうボクシングではなくもはやプロレスではないのかとも)。本当の意味でのメジャー・ステージでの覚悟を享受出来たという意味で意義があるライヴではあったが、異なる楽曲性の両者による化学変化については、新曲「サタデーナイト」を再び若旦那がプロデュースしたという点以外は、あまり見受けられなかった。

 そもそも、異種格闘技戦なるものは戦前の期待度が高まる一方で、実際は噛み合わないことも多い。そのなかで両者共に興奮度の高いライヴを完遂したことは、一つの成功と言えるだろう。だが、今後のEspeciaの飛躍において、行き急ぎや芯のブレはないのかということを考えると、微妙な心境でもあるのは事実だ。
 どこかで似たような感情を持ったことがある、と思い返せば、2014年12月のO-EAST公演で「We are Especia~泣きながらダンシング~」が披露された時にも、たしか同じような心情だったような気がする。だが、その後、同曲は多くのペシスト(Especiaのファン)に受け入れられ、会場を沸かせるキラー・チューンにまで成長した。こういう疑心暗鬼や不安、紆余曲折はさらなる飛躍のための必要条件なのだ、そう思いつつ、自分が感じたことが時を経て杞憂となっていることを願うばかりだ。

◇◇◇

<SET LIST>

≪若旦那≫
純恋歌
ジャックナイフ
まっすぐ
ほんの少しだけ

青空

Happy Birthday To Me
愛してる
札束


≪Especia≫
00 Intro(from『GUSTO』)
01 海辺のサティ(Vexation Edit)
02 YA•ME•TE!
03 No1 Sweeper
04 West Philly
05 Boogie Aroma
06 アバンチュールは銀色に
07 ミッドナイトConfusion(Pureness Waterman Edit)
08 We are Especia~泣きながらダンシング~(Monologue Less Version)(with 若旦那)
09 サタデーナイト(with 若旦那)


◇◇◇












フラッシュを焚かないと、マイモバイル(ガラケー)での写真は(自分の技術の拙さが90%とはいえ)これが限界です。


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