清雅と官能を行き来するエモーショナルな歌声に酔いしれる夜。
“4 Times Grammy's Singer, Eric Benet!”のコールと「ドント・レット・ゴー」などの楽曲をサンプリングしたBGMトラックが暗転したフロアに流れると、フロア後方から歓声と拍手が沸き起こる。Tシャツの上にベストとジャケットをラフに重ね、ボトムはジーンズ。ヴァイオレットのストールを軽く巻き、ハットとサングラスを身に付けて観客の間を通って登場。気取らずもエレガントでセクシーな佇まいは、いつ見ても感嘆の息を呑むほどだ。
“愛とソウルの伝道師”と言われて久しいR&Bシンガー、エリック・ベネイ。恒例となったブルーノート東京での公演は、前回同様にキーボードのジョナサン・リッチモンドをはじめ、“AJ”ことベースのアフトン・ジョンソン、“スティックス”ことドラムのジョン“スティックス”マクヴィッカーの気心知れたバンド・メンバーを率いて、またもや東京の夜にスウィートでセクシーな薫りを振り撒いた。
近年は1年ないし2年もしないほどに来日する人気公演。そのうち、観賞した(記事にした)公演は次の通り(リンク先で該当公演の記事が読めます)。
・2005/10/02 ERIC BENET@BLUENOTE TOKYO
・2007/09/19 ERIC BENET with MICHAEL PAULO BAND@BLUENOTE TOKYO
・2009/02/21 ERIC BENET@Billboard Live TOKYO
・2009/12/25 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
・2011/09/19 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
・2012/05/17 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
・2014/05/13 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
・2015/10/16 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
2016年にリリースした自身初となるセルフ・タイトル・アルバム『エリック・ベネイ』から「サンシャイン」「インセイン」を交えながら、彼の輝かしい軌跡を彩ってきた名曲を芳醇に、時に濃厚な味わいで繰り広げていく。ジョンの右腕を差して“これはブラウン”から始まり、“ホワイト、ミルク……そうだな抹茶チョコもあるね”と微笑みながら語って歌われた「チョコレート・レッグス」は、さしづめエリックからのヴァレンタインチョコといったところか。
タミアとの「スペンド・マイ・ライフ・ウィズ・ユー」やアンコールで定番のフェイス・エヴァンスとのTOTOカヴァー「ジョージィ・ポージィ」などは元来デュエット曲ゆえ、出来れば女性ヴォーカルを引き連れてきてもらいたいという思いもあるが、バンドのグルーヴィなアレンジもあって物足りなさは感じさせない。
セット・リストは新作『エリック・ベネイ』からは2曲のみで、定番曲が中心となってしまうのはある程度仕方がないか。本音を言えば同アルバムから「コールド・トリガー」「ホールディン・オン」「ファン・アンド・ゲームス」といったミディアム・グルーヴやメロウ・スムーサーなども聴きたかったところだが、エリックがヴォイスパーカッションを披露してから各バンド・メンバーにリズムやビート、ソロ・パートを促すなど、曲間でのアレンジでこのステージだけの“ライヴ感”を演出することでマンネリを打破。また、お馴染みとなったロバータ・フラック「フィール・ライク・メイキン・ラヴ」(邦題「愛のためいき」)とともに選んだカヴァーとして、プリンスの「ハウ・カム・ユー・ドント・コール・ミー・エニモア?」を披露。デヴィッド・ボウイ、ジョージ・マイケル……と急逝したスターの名を挙げながら、好きなスターの愛する曲を歌うといって椅子に腰かけながら、感傷や切なさを抑えながら穏やかで真摯に歌い上げる姿を見ると、彼もまたプリンスに大きな影響を受けてきたことを実感。2017年のグラミー賞当日に訃報が飛び込んできたエリックの地元ミルウォーキーの先輩、アル・ジャロウの楽曲も期待したが、これはあまりにも急過ぎて用意出来なかったのだろう。特に女性陣を恍惚とさせるファルセットやフェイクも魅力的なエリックだが、愛する曲と向き合って醸し出す情感に溢れたファルセットも、また異なる意味で観客をグッと惹き込んでいた。
終盤の「スペンド・マイ・ライフ・ウィズ・ユー」から「ユーアー・ジ・オンリー・ワン」そしてアンコールの「ジョージィ・ポージィ」への展開はお決まりとなってきてはいるが、それでも全編を超絶ファルセットで歌い切る「サムタイムス・アイ・クライ」での熱唱を肌で体感すれば、そんな細かなことは一瞬にして吹き飛んでいってしまう。彼が“愛とソウルの伝道師”と呼ばれる理由がこの一曲だけでも頷けてしまう、強靭な訴求力がフロアの隅々まで行き渡っていた。
艶やかさに満ちながらも決して粘っこくなく、むしろ気品さえ漂わせるパフォーマンスはエリック・ベネイならでは。過剰なクドさを抑えながらもしっかりとエロースを垣間見せて甘美な世界へといざなうという絶妙なバランスが保たれるうちは、ファンの“エリック詣で”が止むことはないだろう。これまでにも増して熟成度が高まったと思わせる充実のステージとなった。
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<SET LIST>
00 INTRODUCTION(Sampling BGM including phrase of“Don't Let Go”etc.)
01 Love Don't Love Me(*3)
02 Spiritual Thang(*1)
03 The Hunger(*4)
04 Chocolate Legs(*4)
05 Love Of My Own(*2)
06 Feel Like Makin' Love(Original by Roberta Flack)
07 How Come U Don't Call Me Anymore?(Original by Prince)
08 Sunshine(*6)
09 Insane(*6)
10 Spend My Life With You(*2)
11 Sometimes I Cry(*5)
12 You're The Only One(*4)
≪ENCORE≫
13 Georgy Porgy(Original by TOTO)(*2)
(*1)song from album“True to Myself”
(*2)song from album“A Day in the Life”
(*3)song from album“Better and Better”or“The Brothers soundtrack”
(*4)song from album“Love & Life”
(*5)song from album“Lost in Time”
(*6)song from album“Eric Benet”
<MEMBER>
Eric Benét(vo)
Afton Johnson(b)
John "Stixx" McVicker(ds)
Jonathan Richmond(key, back vo)
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