
ソウルフルに、ジャジィに描く上質なグルーヴ……恒例となったフランク・マッコムの来日公演。丸の内のコットンクラブの最終日2ndショウを観賞。
フランクのコットンクラブでのライヴは2006年が最初だったか。その後、2007年、2008年、2011年と来日。2009年は横浜のモーションブルーでの公演だった。
昨年は4人編制だったが、今回パーカッションのティンバリ・コーンウェルは来日。右にフランク、中央にベースのアンソニー・クロフォード、右端にドラムのロバート・ミラーの3ピースでのステージとなった。フランクは最初はフェンダーローズを中心に、次第にその上にあるKORGのシンセサイザーや奥にあるスタンウェイのグランドピアノを駆使する。曲によっては途中で生ピアノからエレピへ移動も。
例年“歌うパート”が少ないと言われている(自分も言っているが)フランクのステージだが、今回はかなり歌っていた。といっても、最初の「キューピッドズ・アロウ」は20分ほどはあったか。最初はたおやかにエレピを弾きながら歌うも、途中から熱を帯びたジャズ、フュージョン的なインタープレイへと展開。特にドラムのロバート・ミラーとの丁々発止とでもいわんばかりの音のやり取りは圧巻。時にはドラムンベースのようなものまでとなって、応戦する。フランクがエレピで決まったフレーズを繰り返すと、そのフレーズの間にベースのアンソニーとドラムが応えるように太く、乾いた音を提示していく。そんなパートが長く続くのだが、聴いていて決して飽きない。というのも、彼らのライヴでは、その場の閃きやフィーリングで掛け合うので、セット・リストがそれほど変わらなくても一度たりとも同じ展開やアレンジがないからだ。
さらに、その掛け合いは、アンソニーとロバートがフランクに従っていくというのではなく、しっかりとミュージシャンとして対等に渡り合っているのだ。インスト・パートが長くなってしまうのは、フランクがもともとハービー・ハンコックやオスカー・ピーターソンに影響を受けたジャズの素養があった人ということはいうまでもないが、単純にそれという訳ではなく、ミュージシャンとして楽しみ合うことから生まれるのではないか。上手く表現するのは難しいが、時間を忘れて暗くなるまで友達と遊んでいるような子供の頃のイメージだ。観客を忘れる訳ではないが、この掛け合いという“楽しい音の遊び”をはじめると、それに夢中になってしまうのだろう。
そして、単なる遊びではないのは、その質の高さ。気心知れた仲の阿吽の呼吸ももちろんあるが、ミュージシャンとしてお互いの才知を理解しているからこその高度な掛け合いに感じる。喩えて言うなら、プレッシャーがかかる試合でも天真爛漫にボールを操りゴールを狙うメッシのような、ダルヴィッシュやイチロー級の投手と打者の駆け引きのような、互いに高いスキルを持つゆえの真剣勝負の中の“遊び”なのだ。だから、時にはトリッキーな煽りをして相手の反応を楽しむ。「これはどうだ」「これならどうする」という言葉のない音の会話がそこにあり、“活きた”音を奏でているからこそ、観客も退屈せずにそこにあるソウル=魂を体感しているのだと思う。
スティーヴィー・ワンダーの「迷信」(「Superstition」)を聴くと、やはりスティーヴィーやダニー・ハサウェイを彷彿とさせる……というフランクを紹介する時のお決まりの文句が頭に一瞬過ぎるが、だが、そのやや掠れ気味のヴォーカルをじっくりと聴いていると、その間であったり、抑揚であったり、フランクならではの呼吸が息づいている。演奏直前まで仲間たちとフロア後部で食事をし、ガハハと笑い、観客とも気さくに語り合う姿は、気のいいオジサンでしかないが(ステージ登場時も大きな腹をさすりながら、腹に向かって「調子はどうだい」「イェー」などと一人芝居をしはじめた後、グァハハハと自分で笑ったり)、いざ鍵盤を奏で、声を発すると、そのイメージは一変。どことなくフィリーの風を感じさせながら(フランク自身はオハイオ州生まれだが)、洗練された音の滴とソウルフルなハスキー・ヴォイスで、情熱的ながらも気品あるグルーヴで会場を揺らしていく。
また、生ピアノでの「レフト・アローン」は瑞々しくはじまるが、後半はやはりメンバーとのインタープレイへ。だが、決して騒々しくないのは、あくまでも美しいメロディとヴォーカルを芯に据えているからだろう。
例年と異なったのは、アンコールで「ドゥ・ユー・リメンバー・ラヴ」を演奏しなかったこと。東京のラストということで、東日本大震災から1年経とうとしている今、日本に対しての励ましのメッセージをした。ステージのMCではそれほどシリアスにはならないフランクだが、親日家ということもあり、震災にあった日本を心配してくれていたのだろう。その後の生ピアノでの弾き語りは、優しくそして心の重荷を解き放ってくれるような安らぎを与えてくれた。
ライヴ終了後、会計をしていると、近くで「ガハハハ」と笑う声が。その声の方向へ振り向くと、さきほどまでステージにいたフランクが、ファンへCDにサインをしたり、写真を撮ったりしている。その姿は、演奏前やメンバーとじゃれ合うように語るいつものフランクだった。ジョーク好きだが音楽に関しては究極にこだわる、フレンドリーなオジサンだ。そのギャップも彼の魅力のひとつ。プロフェッショナルとはこういうことか。同級生でもこんなに違うとは、と自分にダメ出ししながら、雨の夜の丸の内から家路へと向かったのだった。
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<SET LIST>
00 INTRO
01 Cupid's Arrow
02 Inspire A Life
03 Love Natural
04 Future Love
05 Deed to My Heart
06 Left Alone
07 Superstition(Original by Stevie Wonder)
≪ENCORE≫
08
<MEMBER>
Frank McComb (vo,p,key)
Anthony Crawford (b)
Robert Miller (ds)


