*** june typhoon tokyo ***

宇多田ヒカル@代々木第一

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宇多田ヒカル“UTADA UNITED 2006”@国立代々木競技場第一体育館に行って来た。
宇多田のライヴは“Utada Hikaru in Budokan ヒカルの5”以来。
その時は正直なところ、「ライヴ下手だな」という感想だった。
全国ツアーとしては“BOHEMIAN SUMMER 2000”から6年ぶりの今回、果たしてどのような成長を見せているのかが楽しみだった。

オープニングは、パンチングメタルの薄い可動式スクリーンに映し出された、『ULTRA BLUE』のジャケット映像。しばらくして、中央部にせりあがって出てきた宇多田ヒカルが登場し、「Passion」へ。
個人的には、彼女の曲のなかでもあまり評価していない曲という先入観もあってか、「どうしてここに配置するんだろう」とは思った。

続いての「This Is Love」から「Movin' On Without You」へのノンストップ・スタイルのメドレーの展開が、オーディエンスを乗らせるのにもかなり完成度の高い演出だったため、オープニングの「Passion」がより浮いた感じになったと思えたのだ。

それにしても、序盤から中盤にかけては、映像力というものに驚かされた。

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映像力に驚愕。
パンチングメタルの可動式スクリーン、バック・バンド後方に控えるワイド・スクリーン、ステージ袖に縦長にそびえるサイド・スクリーン。
これらを駆使してのステージングは、音楽という枠をはるかに超えたアーティスティックな空間を創り上げていた。

通常ならば、主役の宇多田の一挙手一投足にほとんどの視線を集中させてもいいようなものだが、正直なところ、次々と展開される、夫・紀里谷和明が演出した映像美の前に圧倒されていた。
(それは、彼が酷評を受けた第一回監督作品『キャシャーン』の借りを返すかのようだったかは、謎だが)

ツアー・ファイナルということで、喉の調子もお世辞にもよいとはいえず、高音部をファルセットや低音へとアレンジしたヴォーカル・ワークで対応しようとするも、ままならない。
チェロのみでアコースティックに歌う「FINAL DISTANCE」から「First Love」は、本来ならば宇多田のヴォーカル力を存分に響き渡らせるのには絶好の演出であったが、いかんせん、そのような喉の調子であるから、鮮やかなバックの映像の美しさとは対照的な、こちらが聴くのが辛くなってしまうような、痛々しいステージングになってしまった。

だが、褒められたものではないヴォーカルであっても、ライヴというトータルな意味では、悲観して見ていた訳ではなかった。寧ろ、このライヴを通じてのさらなる成長を確信できたといいってもいいくらいだった。

それは、このツアー・タイトル“UNITE”(結合する、一体となる)にも繋がるところなのではないか。
「First Love」を終えた後、会場に宇多田のポエトリー・リーディングが流れる。そこでの「本当の自分を知って欲しい」というような一節が流れる。MCでも「2000年からの6年間を全て140%出し切る」とあったように、結婚、海外進出(そして失敗)を通じて、今までは宇多田自身、宇多田を演じ、模索してきた彼女が、今、本当の姿を出せばいいんだ、そうしていきたいと願ったことが、如実に表われたステージであったからだ。

良くも悪くも全て自分。それを「UNITE」させたかった。そう感じたのだ。

ヴォーカルは後半に行けば行くほどメタメタと言っていいほど。
元来、宇多田は声量がある訳でも、声域の幅がある訳でもない。単純に上手い下手で言えば、上手くはない。普通なら(母の遺伝子の影響が大きいと思われるが)単なる陰湿な演歌に終わってしまうような声質だ。
だが、彼女が素晴らしいヴォーカリストたりうるゆえんは、日本の歌謡曲にありがちな、サビへの突き抜けるようなメロディ、曲展開でなくても、しっかりと抑えを効かせながら、やや陰りのあるムードをたたえて、情感のこもった浮遊感とグルーヴを持ち続けるという歌唱力にある。そういう意味では、彼女は歌が飛び切りに巧い、のだ。

その彼女が、メタメタでありながらも、今出せるものをてらいなくぶつけてくる姿に、共鳴したのだ。
ポエトリー・リーディング後の、決して評価が高くなかったUTADA名義の『EXODUS』から3曲をセレクトしたことも(やはり他に比べてオーディエンスの反応はイマイチだったが)、これも自分なんだという強い意志の表われなのだろう。
終盤の「Can You Keep A Secret?」からのくだりは、それまでの映像とのコラボ・スタイルから、一気にライヴ・スタイルへとステージが変身。そこには、活き活きとしてステージを駆け回る宇多田の姿があった。迷いなく今ある一瞬一瞬を躍動してみせる彼女に、さらなる成長の兆しを、垣間見ることが出来た気がする。やはり彼女はタダモノではないと。

アンコールでは、デビュー曲「Automatic」と自身の名前からとった「光」。
「Automatic」をやり終えて、
「やっぱ、この曲をやらなきゃはじまんないでしょー」
と言っていたが、彼女のスタートからの歴史と本当の彼女自身とを“UNITE”するには、これ以上ない選曲だろう。

最新作『ULTRA BLUE』のタイトル曲と言ってもいい「BLUE」は今回リストにあがらなかった。

「どんなに辛い時だって、歌うのは何故?」
「女の子に生まれたけど、私の一番似合うのはこの色」

と、「今の私」を映し出す曲として適切なものだとも思ったし、やらなかったのは残念だった。
だが、それは、“UNITE”という意味を現段階に限定したくなかったからかも…。
というのは、少々考えすぎかもしれないが。
でも、そう考えると、「BLUE」を演奏しなかったことも許せてしまう、そんな気がしたのだった。

このツアーは、ファンのためのというよりも、彼女自身の彼女の居場所と拠りどころを確かめるためのツアーではなかったか、そんな気がしてならなかった。

しかしながら、独り善がりに終わらず、悪コンディションでさえ魅せてしまう彼女には、やっぱり驚きと畏怖さえ感じてしまうのだ。
間違いなく、もう一つ二つ、彼女は高みへ昇っていく。
そんな空恐ろしさを感じながらも、ステージでチラリと見せた涙に、彼女も一人の人間なんだと安堵して、会場を後にしたのだった。

宇多田ヒカル、まだ23歳。(笑)

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◇◇◇

<SET LIST>

01 Passion
02 This Is Love
03 Traveling
04 Movin' On Without You
05 SAKURAドロップス
06 FINAL DISTANCE
07 First Love
08 Devil Inside
09 Kremlin Dusk
10 You Make Me Want To Be A Man
11 Be My Last
12 誰かの願いが叶うころ
13 COLORS
14 Can You Keep A Secret?
15 Addicted To You
16 Wait & See~リスク~
17 Letters
18 Keep Tryin'
≪ENCORE≫
19 Automatic
20 光

◇◇◇

≪MEMBER≫
Vo: 宇多田ヒカル
Key: Matt Rohde <BAND MASTER>
G: 今剛
Bass: Sam Sims
Dr: Forrest Robinson(森クン by Hikaru)
Per: Taku Hirano
Key&G: 富田謙(トミー by Hikaru)
マニピュレーター: 常見和秀
演出: 紀里谷和明
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