マイ・ペシソン・ベスト(My Especia Song Best)。
3月30日~4月9日の間、「あなたが好きなEspeciaの楽曲は?」というテーマで“ファンベスト”的なリクエストを募った企画〈Especiaベストソング大賞〉の集計結果を4月11日の23時前後よりTwitter上で発表。その後、拙ブログにもエントリー(「Especia Best Song Award【春のペシまつり】」した。反応も上々だったようで(と思いたい。おそらく後にも先にも人生で一番Twitterの通知がバンバン届いたのではないだろうか)、今後もEspeciaの話題で盛り上がる一助になってもらえればと思う。
ただ、自分は企画の主宰的役割を担ってしまったゆえ、公平性を期すために当企画の投票には不参加。さまざまな意見や投票内容を見られたのは有意義だったが、自分がもし「Especiaの好きな曲5曲を挙げよ」と言われたらどの曲を選ぶか? という問いに答えないまま終わるのはなんだかモヤモヤするので、拙ブログにて勝手にEspeciaのフェイヴァリットな5曲を選ぶことにした。
しかしながら、選ぼうとすると5曲になかなか絞れない。企画に投票する際に「5曲じゃ足りない」「泣く泣くこの曲を落とした」などのツイートが散見されたが、その気分を遅れながらも共感した次第。前エントリー「Especia Best Song Award【春のペシまつり】」でも記したが、得票数が多いからいい曲だということではなく、十人十色の観点から楽曲を触れ合うことでさまざまな見方や楽しみ方を知ることが出来る、ということに意義がある。ランキングはあくまでもこの回だけの集計結果に過ぎないのだから(という、自分が選んだ曲が上位には入っていない=共感値が低いことを露呈してしまうような前振り)。
では、遅ればせながら(誰も待ってない)、マイ・ペシソン・ベスト5を挙げてみることにする。闇雲に選んでも自ら迷宮やアリ地獄に入るようなものになりかねないので、「Especiaの“エポックメイキング”足り得る楽曲」というテーマでセレクト。統合部門の順位の低い方から列挙。
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■ Rittenhouse Square(ヴァージョン別 57位/統合 46位)
男女の情念が絡み合いせめぎ合うような「West Philly」路線のディープな質感は、やはり同曲を手掛けたRillsoulの影響か。単身渡米し、フィラデルフィアやデトロイトを愛するRillsoulのソウルネスが随所に出たミディアム・スローは、シンプルにして深い悲哀を漂わせるだけに、テクニック以上に感情が伴わないと歌い切ることは至難の業。奇抜や狂気による手法のみでオリジナリティを出そうとする上辺だけの寄り添い方をすれば痛い目に合う。その境地に挑み、自分たちらしさを欠くことなく世界を創出したEspeciaの可能性と普段は隠れた凄味が分かる傑作。
■ Fader(ヴァージョン別 41位/統合 38位)
Especia - Fader (with Lyrics)
脇田もなりの“きっと二人は遠回りをして”の陰影深いフックが強いインパクトを与えるが、続く森絵莉加のやや硬質でクールを決めるものの内なる炎が立つようなラップ・パートと、それを受けて熱情的なフックへ繋げる冨永悠香のファルセット・フレーズというヴォーカルの柱の三者を巧みに組み合わせた構成が見事。邦楽で好まれるメロディアスでサビで開放するという曲構成などに興味はないと言わんばかりの斜に構えた展開には、殊にエレクトロやアンビエント、オルタナティヴといった要素を内包して久しいR&B/ヒップホップ・シーンを好む層には食指が伸びるはず。
■ Interstellar(ヴァージョン別 34位/統合 34位)
ドラムンベースだけでなくジューク/フットワークあたりまでも包含しそうなサウンドは、まさにタイトルよろしく“惑星間”の規模でEspeciaの音楽性の振幅を拡張したといえる。また、「サタデーナイト」などで垣間見せていた三ノ宮ちかのラップ適性を改めて証明したことに加え、冨永悠香、脇田もなりに続きヴォーカルの柱の一つになりつつあった森絵莉加のラップ&ダンスもこなすユーティリティ、多様性をも示したという意味で重要な一曲。
■ Savior(ヴァージョン別 29位/統合 29位)
ミステリアスに幕を開けたEspecia第2章のリード曲として大きなカギを握った。前体制からのあまりの変貌ぶりに足をすくめたファンは少なくなかっただろうが、少女から大人へ、アイドルからアーティストへの成長を妨げることのない、時流を掴んだタイムレスな作風は唯一無二。映画『バグダッド・カフェ』とそのテーマ「コーリング・ユー」の世界観を仄かに匂わせるムードやジャズとブラック・ミュージックのクロスオーヴァーによるサウンドは、飽和と形骸を繰り返す音楽シーンの文字通りの“救世主”になり得る可能性を秘めていたはず。
■ ナイトライダー(ヴァージョン別 8位/統合 9位)
何にせよファーストコンタクトというものは印象深くあるが、自分にとって“Especia”がスタートしたのは後にも先にもこの曲と出会ったから。という意味で、楽曲の質以上に思い入れに満ちた曲。といっても、かつて隆盛を極めたダンクラやソウル・ディスコ路線をなぞるだけでなく、しっかりと2010年代の潮流を組み込んだディスコ/ブギーを爽やかに演じる姿は、実に痛快。ヴォーカルワーク的な嗜好から重層性の高い当初の「ナイトライダー」を推す声も多いだろうが、“グラスにしかめっ面ぁぁ”と江戸っ子気風な森絵莉加の歌い回しと洗練されたサウンドアプローチとの組み合わせの妙が活きた『WIZARD』版も捨てがたい。
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というところで、もう5曲。やはりEspeciaは傑作が多過ぎる。モヤモヤを晴らすために記事を書いたものの、ここで終わらせてしまうと元の木阿弥になりかねないので、自分のブログだし、あと5曲ほどプラスしておくことにする(苦笑)。こちらは順不同。
■ アバンチュールは銀色に(GUSTO Ver)(ヴァージョン別 29位/統合 7位)
フロアに“I just wanna hold you tight tonight”のコールの嵐を呼び起こした人気曲“アバ銀”だが、この『GUSTO』版を聴いた時の衝撃たるや。デトロイト・テクノのパイオニアの一人、デリック・メイ(リズム・イズ・リズム名義)が80年代後半に産み落とした名曲「ストリングス・オブ・ライフ」を意識したトラックを下敷きに“アバンチュール”という現代ではセピアを醸し出すストーリーを、LUVRAWとPellyColoによるマセラティ渚が粋なリリックとトークボックス使いでアーバンにアップデート。ザップからデトロイト・テクノ、はたまたシカゴ・ハウスまでをも横断する無軌道遊泳を、80年代の意匠で演じたEspeciaの融通性にも感嘆。
■ Helix(ヴァージョン別 22位/統合 23位)
ジャズとブラック・ミュージックをクロスオーヴァーさせ、ブラック・ミュージックのジャンルレス化をさらに加速させた鬼才ロバート・グラスパーのフォーマットを具現化。使い古された言い方ではあるが、「エクスペリメント『ブラック・レディオ』の日本からの回答」ともろ手を拡げて高らかに言い放っても大袈裟ではないほど。アイドルからアーティストへの脱皮やら楽曲派やらなどの些末な論議を遠くに見遣って超越した、ニュータイプ“Especia”。世界標準への足掛かりに近づいていたかもしれないと思うと、解散が実に悔やまれる。
■ Aviator(Alternate Version)(ヴァージョン別 -位/統合 -位)
オリジナルは「Boogie Aroma」との両A面シングルとしてリリース。個人的には「Boogie Aroma」よりも“タイのカマ”を連呼する「Aviator」派だが、オリジナル以上にテンポを落としてフィリーやフュージョン風に衣替えさせたオルタナ・ヴァージョンも捨てがたい。このあたりの佇まいはレア・グルーヴにも通底していて、たとえばロイ・エアーズなどの70年代作風をサンプリングして現代に提示するようなヒップホップ/R&Bマナーをも感じる。
■ Good Times(ヴァージョン別 22位/統合 23位)
メンバーがフロアに飛び出して“クラウド(=群衆)”化するスタイルでぺシスト&ペシスタを虜にしたという意味では、楽曲以上にエポックメイキング性を持ち得た曲といっていい。ナンブヒトシの時代錯誤への指摘をあざ笑うかのようなフロウとそれに半信半疑な面持ちながら途中から完全に追随するペシメンといった構図も、ベタゆえに80年代フレイヴァが充溢。“真面目にふざける”Especiaクルーの息巻く姿が窺えそうなグルーヴ・アンセム。
■ Intro(『GUSTO』)(ヴァージョン別 57位/統合 46位)
挙げても挙げてもキリがないラビリンス。最後はおそらくEspecia楽曲のうち、音源やライヴを含め一番耳にしたと思われるこの曲を。アルバム『GUSTO』の冒頭のイントロダクションという位置づけのみならず、多くのステージの“出囃子”として機能。ライヴではRillsoulの“Hit me, come on!”の掛け声からの流れでぺシスト&ペシスタの興奮の鼓動を速めたのは、まさにこの曲が“ブースター”であったから。50秒強の短尺かつペシメンの声はなくとも、眼前に彼女らが凛として現れる絵も想起出来るマジカルな“スパイス”となった。
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いかがだっただろうか。好みは千差万別だが、その時の心情や環境などによって楽曲もさまざまな形で聴こえてくるはずだ。まだまだ楽曲の評価を決め打ちするには早過ぎるし、しゃぶり尽くすまでには至らないはず。是非自分なりの関わり方を見つけて、末永くEspeciaの曲を堪能してもらいたい。Especia never ends.