
夏を締めくくるラグジュアリーな“エクスタシー”ナイト。
媚薬系シンガーと言われて久しい一十三十一の夏恒例のビルボードライブ公演は、7月にリリースした約2年ぶりとなるフル・アルバム『Ecstasy』を引っ提げてのバンドセット。『Ecstasy』をプロデュースしたDorianと一十三十一作品に多く参加している両盟友をゲストに迎え、夏の残り香とアーバンな夜景の煌めきを携えたスタイリッシュなステージとなった。一十三十一のライヴは昨年9月のビルボードライブ公演以来となる。2ndショウ。
なお、これまでの一十三十一のライヴ観賞記事は次のとおり。
・2014/03/24 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2014/08/31 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2015/10/26 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2016/09/18 一十三十一@billboard Live TOKYO
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左よりキーボードの冨田謙、ベースの南條レオ、サックス/フルートのヤマカミヒトミ、右端にドラムの小松シゲル、前列右にギターの奥田健介。一十三十一の勝手知ったる腕利きたちが暗転中にステージイン。音を鳴らし始めた後から肩にフリル付きのスカイブルー地にオレンジっぽいボーダーが入ったヤシの木などが描かれたハワイアン柄のミニスカートドレスを纏った一十三十一が登場。夏の喧騒を避けるような週末のアヴァンチュールを想起させる「Dive」から2017年の夏を締めくくる一夜はスタートした。バンド・メンバーはギンガムチェック柄で統一。どうやらこの夏の饗宴の“主宰者”からの“ドレスコード指定”があった模様だ。
『Ecstasy』リリース後ということもあって、選曲は同アルバムが中心。アルバム自体は一十三十一としては初となるDorian全面プロデュースのエレクトロ寄り作風だが、ここではバンド・サウンドで楽曲を彩る。とはいえ、リズム隊もなかなかのエッジを効かせたタイトな音を鳴らしているのだが、キーボードやサックス/フルートなどのアレンジや元来楽曲群が有している煌びやかな爽快感、そして何といっても微睡みと恍惚を誘うヴォーカルが相まってメロウな耳当たりに伝わってくるのは、一十三十一と達者なバンドマンたちならではの“マジック”とでも言おうか。彼女らのステージはライヴというよりもエレガントなクラブショウといった佇まい。軽妙洒脱に少し“とぼけた”MCなどを加えた独特のスパイスでゆっくりとオーディエンスの心と夜を一十三十一色に染めていく。

加えて、爽やかな風を吹き込んだのがゲストのDorianとKashifの両名。一十三十一は彼らを“君”付けして呼ぶのだが、それが何ともトレンディドラマの甘酸っぱい青春や友情を切り取ったように感じてしまうのは、既に自分が一十三十一ワールドに毒されているからだろうか(笑)。Dorianには、“この夏の〈エクスタシー〉は何かないですか?”との無茶ぶりやジャケットの胸元のポケットチーフをいきなり抜き出そうとしたり、初めて出会ったのは雲が浮かぶ空模様の船上で神話みたいでしょ? というエピソードを突然話し始める一方、Kashifには思い描いていた衣装とはギャップがあったのか“Kashif君、その衣装は……”と突っ込んでみたり(それに負けじ?とソロ・アルバムの宣伝を繰り出すKashifも)と、一十三十一のフリーキーな言動にももの静かに“対処”(諦観?)する光景は、友情を抱いている関係性が伝わって実に微笑ましい。そもそもほぼ“いい大人”の年齢層であるにも関わらず、冒頭に“今日は8月31日ということで夏休みも終わり。夏休みの宿題は終わったかな? 終わった? 終わった、うん、よかった”と問いかける“芸当”は、彼女だけが許される特権なのかもしれない。それもこれも全部“夏のせい”なのか(笑)。

話を戻して、ゲスト両名のステージ。Dorianは『Surfbank Social Club』から情熱と冷静の間に揺れる夏の恋心を描いたメロウなミディアム「Dolphin」、新譜からMVが公開された楽園ムードが弾ける「Flash of Light」、Ceroの高城晶平が詞を提供したアーバン・メロウなグルーヴが心地良い「Let It Out」、夏の黄昏を感じさせる緩やかなバラード「Discotheque Sputnik」の3曲に参加。特にDorianとバンドメンバーがフックでコーラスを添える「Let It Out」の“サマーブリーズ感”は、スタイリッシュながらも熱を帯びた匙加減が絶妙。Kashifは『Surfbank Social Club』からアンニュイとメランコリックを往来するサマー・ロック「Prismatic」と『Pacific High / Aleutian Low』から鍵盤のコードアタックとパッションを帯びたギターがセンチメンタルを照らす「夏光線、キラッ。」の2曲。ともに眩しくもノスタルジーを秘めたギター・ソロで、オーディエンスのヴォルテージを高めていた。
ちなみに、“二弦”ギターを抱えて冒頭からかっこよく決めたかった一十三十一が一時的なアンプの不調で出だしの音がカスってしまうアクシデントに、スタッフやKashifがすぐに駆け寄って調節するなかで“これ(ギターペダル)もKashifくんに言われるままに買ったんですけどね”という一十三十一の場の持たせ方が面白かった。ギターを扱う一十三十一を奥田や小松、南條らがまるで“はじめてのおつかい”を見るように心配している顔にも、ニヤリとしてしまった。

終盤はハウス・ディスコ的なアプローチの「Moonlight」、ユーミン・マナーのミディアム・スローなシティ・ポップ「Swept Away」を経て、メンバーがタンバリン、トライアングル、シェイカー、パンデイロ、タンボリンなど、一十三十一がギロを手に持ちサンバ風のアウトロで締めた「Varadero via L.A.」へ。陽気ながらも品を崩さないモダンなステージングで本編の幕を閉じた。
アンコールには背面のカーテンウォールが開いて夜景が飛び込み、アーバン濃度もグレードアップ。まずは、『CITY DIVE』以来、一十三十一作品のMVを含むヴィジュアルや衣装を担っているアートディレクター、弓削匠が誕生日ということで「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」を。照れてなかなか登壇しない弓削を何とか呼び寄せての祝福。この日は前述のKashifの衣装についてのツッコミ時など随所に一十三十一からの“弓削さぁーんっ!”という叫びがあったが、それはこれの伏線だったか(笑)。そして、“踊れるよ、ね?”という思わせぶり全開な表情を駆使してフロアのオーディエンスを立たせると、今日一番のカラフルなライトがステージに照らされるなかで、DorianとKashifを呼び寄せての「恋は思いのまま」。一十三十一のキュートなダンスに魅了されながら、程よい火照りを帯びたフロアのオーディエンスも身体を心地良く揺らしていたのが印象的だった。

『Ecstasy』からはタイトル・チューン「Ecstasy」、「Blue, Midnight Blue」「Galanterie」の3曲以外はすべて演奏。個人的には爽やかなファンキー・グルーヴを奏でる「Blue, Midnight Blue」を聴きたかったが、それは次回の愉しみに、ということで。ヴォーカルは高音でやや辛そうなところが気になるものの(以前声帯ポリープを手術した関係もあると思う)、安定のバックに支えられて終わってみれば杞憂に。シティ・ポップやAOR、サマー・ファンクといった作風ゆえ、あからさまな熱量を曝け出したりはしないが、そこかしこに彼女ららしいソフィスティケイトなパッションが浸透していく。甘いだけではないビター&スウィートなステージとともに、落ちていく夕日を眺めるがごとくゆっくりと2017年の夏に幕を降ろすことが出来そうだ。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Dive
02 Serpent Coaster(*)
03 Flash of Light(*)
04 Dolphin(guest with Dorian)
05 Let It Out(guest with Dorian)(*)
06 Discotheque Sputnik(guest with Dorian)(*)
07 Prismatic(guest with Kashif)
08 夏光線、キラッ。(guest with Kashif)
09 Moonlight(*)
10 Swept Away(*)
11 Varadero via L.A.(*)
≪ENCORE≫
12 恋は思いのまま(guest with Dorian & Kashif)
(*): song from album“ECSTASY”
<MEMBER>
一十三十一(vo)
奥田健介(g)
南條レオ(b)
冨田謙(key)
小松シゲル(ds)
ヤマカミヒトミ(sax,fl)
Dorian(key,vo)
Kashif(g)



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