彩り鮮やかなフィメール・ヴォーカルが集った、ジョイフルな1周年の饗宴。
2020年末に閉店した代々木Zher the ZOOの跡地にオープンした、代々木駅から直ぐ近くにあるライヴハウスの1周年を記念したイヴェント〈LIVE STUDIO LODGE Anniversary event 「Hang Out!!」〉にHALLCAが名を連ねるとあって、日もまだ明るい午後の代々木へ。LANA、TENDERLAMP、浦谷はるなという他の出演者3組は初見ではあったが、寛ぐ、リラックスして過ごすなどの意味を持つ“hang out”というイヴェント・タイトルよろしく、カジュアルなムードで楽しむような気軽さで駆けつけることにした。HALLCAのライヴを観賞したのは、10日前のソロ4周年イヴェント(記事 →「HALLCA @渋谷 7thFLOOR」)と比較的直近だが、代々木LODGEでのライヴとなると、2021年9月のイヴェント〈1st Vinyl “Private Paradise” Release Project Return Live〉(記事 →「HALLCA @代々木LODGE」)以来となる。
代々木LODGEはスピーカーや柱によって視野が遮られる位置があるのだが、ステージ下部のウーハー重低音スピーカーが埋め込まれているなど、音響が良好なコンパクトなライヴハウス。石積みの壁面や木調を基調とした明るいフロアは清潔感もあって洒落ていて、地下1階ながらそれほど閉塞感も抱かない。代々木という立地は、もちろん言わずもがなで良好。夏真っ盛りの8月初旬に女性ヴォーカリストが集った4人4様のステージを愉しんだ。
トップバッターはシンガー・ソングライターのLANA。所用で少し10分ほど遅れて会場に着いたのだが、ギター弾き語りスタイルで数曲歌ったところだった模様。以前はGEMの村上来渚として知られ、アイドル・グループでの活動を経て、2018年頃よりソロで活動を展開している。この日はギターの弾き語りがメインだったのか、いわゆるギターポップ女子的な感じに捉えられなくもなかったが、グループ活動での作風も継承したダンサブルな楽曲で踊り歌うこともあるようだ。
全くの初見&途中からの観賞ゆえ、多くは語れないが、「ガンバレ!私!」「あなたが大人になったら」といった楽曲群を聴くに、自らの心情や日常の光景を等身大のスタンスで綴るハートフルなメッセージ性を持った楽曲が特色なのだろう。ただ、あくまでも弾き語りで披露した楽曲についての印象なので、アッパー・ダンサーではどのようなスタンスになるのかは分からない。ラストに披露した「Call」は、紆余曲折あった自身の半生(といってもまだ若いが)を振り返りながら、歌い続けたいという感情を吐露したオーセンティックなバラード。特に強いクセがあるといった作風ではないが、メッセージがスッと染み込むような浸透力がある、衒いないピュアなヴォーカルがひとつの魅力だろうか。アイドル・グループで活躍していたのも頷けるような可憐さがありながら、どこか芯があり、前に突き進んでやるという意志のようなものが、声色や瞳にチラリと見え隠れしたりもしていた。
次に登場したのが、浦谷はるな。以前は“ほわどる”の愛称で知られる札幌出身のアイドル・デュオ、WHY@DOLL(ホワイドール)のメンバーとして活動。2019年11月のデュオ解散後は、2021年に1日限定の復活ライヴをしたくらいで、目立った活動はしていなかったようだが、2022年に入って(本人いわく「ぬるっと」)ソロ活動をスタートさせたとのこと。ファンには“はーちゃん”のニックネームで親しまれているようで、「そういえば川口春奈も“はーちゃん”だし、“はるな”はだいたい“はーちゃん”と呼ばれるのかもな」などと余計な雑念が脳裡を過ぎりながら観賞していた(本当に余計)。ステージインしてきた際の第一印象は、おしとやかな“さっしー”(指原莉乃)といったところか。話しぶりもおっとりとしていて、清楚可憐なルックスに違わないイメージだが、実際の性格はどうなのかは不明。
まだソロ活動をスタートさせたばかりということで、“Wow Wow Wow Wow”というコール&レスポンス必至のフックが耳を惹くダンス・チューン「Tokyo Dancing」などのWHY@DOLL時代の楽曲が中心だったが(そのほか「Don't turn around anymore」もあったか?)、そのうち1曲はオリジナルとなる「Slowly time」を披露。実は、6月に代々木LODGEで行なわれた仮谷せいらのアルバム『ALWAYS FRESH』リリース・パーティにゲスト出演したのを機に、AmamiyaMaakoと仮谷せいらのスプリットツアーへの帯同が決定、さらにその縁もあってAmamiyaMaakoが浦谷に楽曲提供するという話へとんとん拍子に進んだようだ。浦谷が「最近、トロピカルハウスのような楽曲にハマっていて」と伝えたところ、AmamiyaMaakoがその嗜好に応え、暑い夏の季節に避暑地で過ごすようなリゾート感も備わった、開放的で明るいハウス・トラックを完成。それが「Slowly time」で、この日が初披露とのこと。跳ねたビートに時折ギュッと詰めた譜割の歌唱パートを織り込むスタイルは、“This is AmamiyaMaako”といえるような曲調。これまでどのような楽曲を歌ってきたのかは分からないが、ちょっぴりクセのあるAmamiyaMaakoサウンドとの相性は悪くなさそうで、浦谷のソロ歌手としての懐が広がる楽曲になるのかもしれない。持ち曲がまだ少ないとのことで、最後に「Slowly time」を再び披露。AmamiyaMaakoは既に2曲目の制作に取り掛かっているらしく、浦谷オリジナル曲第2弾が発表も近々ありそうだ。
3組目は、TENDERLAMP(テンダーランプ)。メジャー・デビューも果たしたガールズ・バンド“Chelsy”のドラムとして活動後、2018年6月より始動したAMIのソロ・プロジェクトで、プロジェクト名は“優しさ”(=Tender)をもった人々を“照らしたい”(=Lamp)ということに由来。それだからか、テーブルやキーボードには灯されたランタンが置いてあったりする(そのランタンを持ちながらステージを動き回って歌う曲も)。ステージでは(レミオロメンの藤巻亮太風の優男ルックスな)“kuwa-cchi”こと桑原康輔が鍵盤でサポートし、AMIの横には電子パッドが据えられている。
“幻想的ポップワールドを描くオルタナティブポップなサウンド”が特色とのことだが、確かにドリーミーな浮遊感がそこかしこに醸し出されるサウンドではある。とはいえ、たとえばアンビエントやチルウェイヴ寄りのどっぷりとした幻想的というのではなくて、「ノスタルジック・ハイウェイ」のように、あくまでもポップワールドを崩さずにやわらかなタッチでスウィートネスを敷いているといったらいいか。
シンセ・コードを並べながらエレクトロポップ・マナーで展開する「TAMAYURA-RI」やラストに披露したカラフルな彩りのミディアム・ポップ「まよなかさんぽ」などはキャッチーで耳馴染みも良さそう(詞世界も独特なタッチがある)。それと、オーディエンスとともに両手で頭上で三角形(イカみたいな)ポーズを作らせたり、「まよなかさんぽ」で“散歩”の振り付けをしたりと、なかなか茶目っ気あるパフォーマンスを繰り出してくる。女優やタレントとしても活動しているからか、表現することに貪欲なのかもしれない。
やや色が異なるテイストとしては、序盤に演奏した「つかのまのholiday」か。オランダ産モダン・ディスコ・アーティストのマイダス・ハッチや、クニモンド瀧口のプロジェクト“流線形”あたりのサウンドマナーに親和性がある作風で、時流のシティポップ・ムーヴメントとともに触発されても良いグッド・ヴァイブスを展開。個人的にはTENDERLAMPのステージでは一番気になった曲だった。
この日のAMIは(悪い意味で)“もって”いたようで、指を差したモニタ(?)が突然消えたり、桑原のキーボードのペダルが壊れて、HALLCAのものを借りるハメになったり(これをAMIが「HALLCAファンのみなさん、今日は(ペダルを借りている)くわっちがHALLCAさんの頭を踏んづけて演奏します」と表現すると、桑原が「言い方!」と返すやり取りもあり)、演奏するはずだった電子パッドの電源が入らず仕舞いで、その後電源が入ったものの、パッドを叩く楽曲は既に終わってしまっていた……というようなコミカルなシーンも。そして、せっかく電子パッドが直ったからと、アドリブで演奏し始めたのが、アニメ『サザエさん』のエンディング・テーマでお馴染みの「サザエさん一家」(“サザエさん、サザエさん、サザエさ~んは、ゆかいだっなぁ~”の曲)のリズムだったりと、なかなかの愛嬌というかお転婆ぶりを発揮。そんな人懐っこさは声色にも表われているようだ。“和”の要素もアクセントにした瑞々しいポップス「ロードショー」でも、ほんのりと切なさも見えるが、愛着が沸くようなヴォーカルワークを披露していた。
トリを飾るのはHALLCA。Especia時代からのイメージカラーでもある青を基調に、ホワイトのニットのトップスを重ねた清涼感ある衣装で登場。イントロダクションを経ての「Paradise Gate」からほぼシームレスに繋いで構成し、与えられた尺に最大限の楽曲を凝縮したアクトに仕立てた。先日の4周年ライヴ(記事→「HALLCA @渋谷 7thFLOOR」)を終えて、緊張感から解放された訳でもないだろうが、終始肩肘の張らないナチュラルなコンディションで、心地よく歌っていた姿が印象的だった。メジャーコードでキャッチーな展開で進行する楽曲が主軸の他3組とは異なる、「Fall Back Asleep」「Eternal Light(Blackstone Village Remix)」といったマイナーコードや大サビ構成ではない楽曲を組み込んで差別化が出来たのも奏功したか。6分強と比較的尺の長い「Dreamer」はもう手慣れたもので、キーボードソロパートの出音にも余白を愉しむような“遊び”が見られるなど、その表現の成熟度が増すにつれ、長尺曲に感じなくなるほどの充実さを帯び始めていた。
スクラッチ音で導入する「Eternal Light(Blackstone Village Remix)」や、ファンキーなコーラスやボトムを配したシャッフル感あるモダン・ディスコ・マナーの「コンプレックス・シティー(東新レゾナントRemix)」というブラックな要素も含まれる楽曲では、“黒”とはいっても粘り気を取り除き、あくまでもHALLCAマナーのブリージンなファンキー・チューンに纏め上げたパフォーマンスで、フロアに心地よいグルーヴの渦を生み出していた。
その「コンプレックス・シティー(東新レゾナントRemix)」を終えると、HALLCAによってサプライズがもたらされることに。スプリットツアーに帯同するなど親交を深めている浦谷はるなが出演しているとあって、“客”として来場していた仮谷せいらとAmamiyaMaakoに、HALLCAが「やらへん?」と声掛けして、急遽“はるかりまあこ”のコラボレーションが決定。はるかりまあこの「TERMINAL」をパフォーマンスすることになった。代々木LODGEは、HALLCAが“はるかりまあこ”として初めて立ったステージということもあり、突発的ではあったが、結果的に代々木LODGEの1周年記念イヴェントのラストを飾るに相応しい選曲になったのではないだろうか。
自身のライヴ・イヴェントを終えて完全に“遊び”モードで来場した仮谷せいらとAmamiyaMaakoの2人は、既にアルコール注入&普段着という状況だったが、祝宴のラストにマッチしたハッピー&ジョイフルな雰囲気に包まれるなか、“Ride on HKM!!! Wow Wow Wow”というキラーフックをフロアにこだまさせていた。はるかりまあこファンにとっては、予想外のサプライズに歓喜したレアなステージとなったはずだ。
<SET LIST>
≪HALLCA≫
00 INTRODUCTION~Diamond(Yohji Igarashi remix)
01 Paradise Gate
02 Fall Back Asleep
03 Eternal Light(Blackstone Village Remix)
04 Dreamer
05 コンプレックス・シティー(東新レゾナントRemix)
06 TERMINAL(guest with 仮谷せいら, AmamiyaMaako)(Original by はるかりまあこ)
<MEMBER>
HALLCA(vo,key)
guest:
AmamiyaMaako(vo)
仮谷せいら(vo)
*****
LANA(vo,g)
浦谷はるな(vo)
TENDERLAMP(AMI)(vo,perc)
桑原康輔(key)
◇◇◇
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