*** june typhoon tokyo ***

天野なつ @下北沢CLUB251



 鮮やかな赤いドレスに強い決意を感じた、彩色豊かなバースデーライヴ。

 いつものように「Après la pluie, le beau temps」のイントロを出囃子にダンサーを引き連れてステージインした際、まず目に飛び込んできたのはヴィヴィッドな赤に染まったワンショルダーのパンツドレス姿。本人は「通販“あるある”で思っていた以上に派手な色(のドレス)だった」と言っていたが、心理学では赤は情熱や活力、興奮といった気分の高揚を示すことが多いように、知らず知らずのうちにこのステージへの想いが衣装選びにも表われていたのかもしれない。ダンサーの2人が白のトップスだったことで、赤と白という祝宴的なコントラストも相まり、さらに矢舟テツローの鍵盤と柏原収史のギターというスペシャルゲストも加わって、より鮮やかで活力ある絵面となった。8月12日に29歳に迎える天野なつのライヴ〈天野なつ BIRTHDAY LIVE 2022〉は、必ずしも晴れやかさ満開ではない現状に打ち勝たんとするポジティヴな意志とチャレンジが垣間見えたステージとなった。会場は天野なつのホームグラウンドといっていい東京・下北沢CLUB251。

 ダンサーを従えたアッパーなオリジナル曲から、奇跡的に実現したゲストとのコラボレーション、夏ソング・カヴァー・メドレー、そして新曲まで、さまざまなテイストの楽曲とパフォーマンスを盛り込んだステージは、自身の生誕を祝すに相応しいアプローチ。鮮やかで派手やかなドレスに屈託のない眩しい笑顔で歌う姿で繰り出すアラカルト的な選曲に、天野の生誕を祝うファンたちもサプライズをプレゼントされた感覚になったのではないだろうか。



 サプライズ・プレゼント感が強かったのは、やはり矢舟テツローと柏原収史という初対面の2人を従えてのセッションだろうか。ちょうど当日に下北沢でライヴがあり、タイムテーブル次第では参加可能と申し出た矢舟と、撮影期間にあって来られるか微妙だという柏原が同じステージに集って、自身のYouTubeでのカヴァー動画企画でもアップしたサザンオールスターズ「真夏の果実」をしっとりと、しかしながらパッションに溢れた歌唱で聴かせていた。

 カヴァーはその他にもあって、柏原のギターを従えてのサマーソング・コーナーでは、YUI「Summer Song」、TUBE「さよならイエスタデイ」、松田聖子「青い珊瑚礁」の3曲を。カヴァー曲に対し、天野が「知らない曲あった?」と問いかけるや否や、柏原が「知らない訳ないだろ、この世代が!(笑)」とツッコミ。天野が「〈Summer Song〉は私の世代、大好きなんです……知ってた?」と再び問いかけると、柏原が「むしろそっち(=Summer Song)の方が馴染みないんじゃない?」と観客の“現状”を代弁。それを受け、天野が「こういう若い子が好きな曲を知ったらモテますよ」と諭しにかかるなど、共演も重ねて気の置けない関係の天野と柏原だからこそのやり取りで、フロアに笑みをもたらしていた。個人的には、YUIよりさらに若い歌手の曲、あるいはTUBEや松田聖子よりも古い曲をセレクトして、世代別のサマー・ソングを歌うという企画にしても面白かったのではないかと思った。

 また、柏原をギターを携えた「願い」では、フロアから青色のケミカルライトの光が灯されるという場面も。柏原が爪弾く混じりけのないアコースティックギターの音が寄り添うなかで、胸の内にあるほとばしりをちぎり出すように、感情を揺らして歌うハイトーンには、天野ならではの聴き応えの一端を醸し出しているようでもあった。



 さまざまなアラカルトがチョイスされるなかで、印象的だったアクトのひとつが、矢舟の鍵盤とコラボレーションした「うたかたの日々」。前述のカヴァー企画も悪くはないが、リーダーを務めたアイドル・グループ“LinQ”時代に大怪我で入院した時のもどかしい気持ちを綴ったという思い入れのの強い楽曲は、咀嚼する濃度が違う。単に歌唱の巧拙という意味では遜色はないのかもしれないが、歌詞に込められた心情を吐露する細やかな声の“表情”が綴れ折るように込められている。天野の第一の魅力でもある天真爛漫な笑顔はない、苦しさや苛立ち、もどかしさにやるせなさなど複雑な表情を見せる曲だが、心に問いかける訴求力は随一。それが哀切に陥れない、むしろ麗らかでテンダーな矢舟の鍵盤に導かれることで、経験を重ねた今の天野なつの「うたかたの日々」を完成させていたような気がした。

 対照的に、タイトルよろしく夏の季節にピッタリな「SUMMER DAYS」は、陽気で明るい天野のイメージ通りの快活でチアフルなダンス・ポップ。天野のアイドル時代のソロ曲らしく、キュートなハイトーンが組み込まれているが、当時からハイトーンをこなすスキルがあったのだろう。アイドル時代を知らない自分にとっては、天野の原点を見たようで、新鮮だった。

 目新しいという意味では、新曲の「Love Like with Dancing」や「Don't be shy」も個人的には初めてフロアで体感。「Love Like with Dancing」はたとえるなら『めざましテレビ』などの朝の情報TV番組のテーマソングにありそうな、輝く陽光や爽やかな朝を想起させるハッピー・テイストなポップ・チューンで、天野のピュアネスを存分に活かした作風だ。その一方で「Don't be shy」は、1stアルバム『Across The Great Divide』の「true love」の位置づけにも似た、天野の新境地といえそう。2021年12月から翌2022年1月中旬までの間、名古屋・栄のサンシャインサカエの観覧車「Sky-Boat」での人気声優を起用したイヴェント「声の観覧車 スイートエメラルド」のテーマ曲となった楽曲で、渡辺美里「虹をみたかい」を想起させる80年代末のポップスのメロディ(フックの“I wanna dance, I wanna kiss”というフレーズからも「虹をみたかい」感は窺える)に、globeあたりのダンス・ポップやEDM寄りのエレクトロニック・ダンス・ビートを融合させた作風。エレクトロニックといっても最先端ではなくて、仄かにノスタルジーを感じさせるダンス・ビートが、歌謡ポップスマナーに親和性のある天野らしさを引立たせているようにも思えた。



 本編ラストに再び柏原を呼び込んで歌われた「キエナイ光」も「うたかたの日々」同様に、天野の骨となり肉となる楽曲の一つか。オリジナル曲ではないが、天野も出演する演劇主体のユニット“トキヲイキル”の楽曲として、柏原が詞曲を手掛けたもの。決意をもって上京しながらコロナ禍で不遇となり、モヤモヤした気持ちや焦りでネガティヴな感情を引きずりつつあったという天野。30歳という大きな節目にあと1年と迫るなか、もう一度上京時の気持ちを思い出して原点を見つめ、がむしゃらに、ただ前だけを見て突き進んでいきたいという想いが、歌詞を噛み締めて歌う表情のあちらこちらに見え隠れしていた。

 アンコールは「最後は飛び切り笑顔になってもらいたい」との想いから、オーディエンスとの振り付けの“コール&レスポンス”も交わす「Labyrinth Game」で幕。明るく響きわたるハイトーンとクラップがフロアに歓喜を沸き起こしながら、満面の笑みでのエンディングとなった。
 本音を言えば、晴れやかな破顔の裏には、下唇を噛んだり、涙に暮れた日々もあっただろう。それでも歌い続けたいという信念を揺るがすことなく突き進み、守りに入るのではなく、チャレンジを続けて駆け抜けたい……拍手を送り、生誕を祝うオーディエンスに微笑みを振り撒きながら、歓喜だけでなく、歌手活動としての背水の陣にも怯まないという覚悟もあったのか。キュートなスマイルのなかで、歌い終えて充実した眼差しには、歌手・天野なつとしての気概も宿っていたように感じられた。29歳の1年、いかなるチャレンジで楽しませてくれるのか。失敗を恐れずに邁進する姿を期待しながら、夜の下北沢を後にした。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION ~ phrase of “Après la pluie, le beau temps” intro
01 Super Super Hero(with Dancers)
02 midnight(with Dancers)
03 うたかたの日々(guest with 矢舟テツロー)
04 真夏の果実(guest with 矢舟テツロー&柏原収史)(Original by サザンオールスターズ)

~ Summer Song Medley with Shuji Kashiwabara~
05 Summer Song(Original by YUI)
06 さよならイエスタデイ(Original by TUBE)
07 青い珊瑚礁(Original by 松田聖子)

08 願い(guest with 柏原収史)
09 Love Like with Dancing(with Dancers)(New Song)
10 SUMMER DAYS(with Dancers)(Original by 天野なつ from LinQ)
11 Don't be shy
12 キエナイ光(guest with 柏原収史)(Original by トキヲイキル)
≪ENCORE≫
13 Labyrinth Game(with Dancers)


<MEMBER>
Natsu Amano / 天野なつ(vo)

Tetsuro Yafune / 矢舟テツロー(key)
Shuji Kashiwabara / 柏原収史(g)

Dancers:
Erika
Mei

◇◇◇

【天野なつに関する記事】
2020/01/08 〈まんぼうmeeting〉vol.5 @下北沢BAR?CCO
2020/07/13 天野なつ『Across The Great Divide』
2020/08/07 天野なつ @タワーレコード錦糸町パルコ【インストアライヴ】
2020/08/20 天野なつ @下北沢 CLUB251
2020/11/03 天野なつ @HMV record shop 新宿ALTA【インストアライヴ】
2020/11/07 天野なつ @渋谷La.mama
2020/12/21 天野なつ @下北沢 CLUB251
2021/04/09 天野なつ ✕ WAY WAVE @下北沢CLUB251
2021/05/07 天野なつ ✕ 仮谷せいら @下北沢CLUB251
2021/10/30 天野なつ @下北沢CLUB251
2022/03/27 脇田もなり / 天野なつ @Time Out Cafe & Diner
2022/07/07 〈Like Sugar〉@新宿Red Cloth
2022/08/05 天野なつ @下北沢CLUB251(本記事)

◇◇◇





ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ライヴ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事