
人生を180度変えた“心の旅”--180°SOUTH。
アウトドアウェア/スポーツウェアを製造・販売する“パタゴニア”の創業者、イヴォン・シュイナード、アウトドアライフスタイルを実践するための商品を手掛ける“ザ・ノース・フェイス”創業者、ダグ・トンプキンスの南米への旅と、その記録映像に感化されたアメリカ人青年の追体験に迫ったドキュメント。旅とは、人生とは、自然とは……創業者二人の人生を180度変えた旅に触れながら、人生の旅への答えは何かと問うストーリーだ。
ナヴィゲーターは“パタゴニア”専属フォトグラファー、ジェフ・ジョンソン。彼こそが40年前にイヴォンとダグが南米パタゴニアで衝撃を受けた旅を追体験する主人公だ。
ジェフはカリフォルニアのアウトドアが趣味の青年。偶然にイヴォンとダグが登山とサーフィンをしながら南米へ旅した記録映像に出くわし、南米パタゴニアの高峰、コルコバト山登頂を目指す旅へ出る。
陸路ではなくシアトルから海路でチリへ向かうも、小型船のマストが折れたため、燃料補給・船体修理を兼ねてやむなく“ラパ・ヌイ”ことイースター島へ立ち寄ることに。当初は僅かな寄港の予定だったが、地元の唯一の女性サーファー、マコヘと出会い、さらに、彼女の希望により、彼女を加えての旅が再開する。
ようやくチリへ上陸すると、陸路経由のイヴォン、ダグと合流。雪が残る季節の登頂を目指していたが、到着に数ヶ月を要したこともあり、予定とは異なる雪が解けた季節の危険な登頂となるが……。
南米パタゴニアの高峰への登頂を試みる……ということだが、多くは海、特にサーフィンの映像で占められる。サーフ・ドキュメンタリー映画『シッカー・ザン・ウォーター』を手掛けたフィルム・メーカー、クリス・マロイが監督したということもあり、映像はかなり美しく撮られている。パイプラインを潜るサーファー、船に打ち寄せる波々、パタゴニア岩峰群の大パノラマ、ラパ・ヌイの何ともいえない美しい夕景……などなど。本当に映像は素晴らしい、感嘆のパノラマの数々に圧倒される。
展開は、ジェフの旅程でのさまざまなの苦難や経験の折々にイヴォンとダグによるトークが挿し込まれ、旅や自然に対する思いが伝えられていく。自然保護に企業家としていち早く取り組んだイヴォンと私財を投げ打ってチリやアルゼンチンの広大な土地を購入し政府へ国立公園として返還活動を続けるダグ、それぞれのアプローチによる自然保護に、あなたはどう思う? という問題提起がこの映画の主旨だ。
パタゴニアでのダム建設計画に対し、多くの人が自分の土地に関心がないと嘆きながら、300人のガウチョ(現地で牧畜に従事する人々)を集めてデモを起こしたリーダーの話を組み込んでいく。かつて“ラパ・ヌイ”のモアイ像の多くが倒される結末を迎えたように(イースター島文明の崩壊は、モアイ建造競争激化による森林伐採が人口激減させたから、という説明あり)、パタゴニアに建設しようとしているダムも……というステレオタイプ的な論旨だ。そして、ダグは“人は皆、後戻りできないというが、目の前が崖なら、そのまま突き進むか、まわれ右をして前に進むか、どちらがいいと思う(突き進む人なんていないはずだ)”、イヴォンは“間違ったシステムを続けさせる必要なない。環境を変えてやることは難しいことではない”と語り、自然保護に対する危機感の意識を促す。
さて、感想だが、自然との共存という困難な課題に対して、文明化を加速させるだけでは何も解決にならないというアプローチは解かるが、それが単に“ダム建設は自然に悪影響を与える”という話のみにフォーカスされたラストは、かなり物足りない。よくも悪くも自然環境に対する問題意識を起案した“呼びかけ的”なドキュメンタリーといえる。簡単に言えば、文明化や先進国や大都市ばかりが便利を享受する生活は、自然を地球を崩壊させるからやめようという理想論を掲げているに過ぎない。奇しくも創業者二人が立ち上げた企業では、文明の力を利用して商品が製作され、彼らが移動に使用した車は、文明の産物の筆頭ともいえるものだ。単純に“今ある自然を壊すことは悪だ”だけでは、現実問題に即した提言とはいえそうにない。非常に穿った見方をすれば、“パタゴニア”や“ザ・ノース・フェイス”を着用している人々は常に自然環境問題を意識して自然と共存しようとしているから、ブランドとして存在が許されているんだよ、とでも言いたげ、というか。
むしろ、変に環境問題を組み込まずに、大自然の素晴らしい景観とそれに朴訥に向かう青年が何を考え、何を思ったか、だけを綴った方が、さまざまな詮索をせずに良かったのかも。コルコバド山の頂上で聖杯を掲げる想像を描きながら、あと60メートルというところで雪が溶けてもろくハーケンが打ち込めない岩が続き、足場の危険により下山しなければならなかった時、“ジェフ! この先は命を賭してまで登るものではない(から下山しよう)!”という叫びや“残念ではあるが、後悔はない。時期が悪かっただけだ”という言葉からは、理想通りにならなくても前に進む術はいくらでも残されているという思いにも受け取れなくはなかった。その言葉そのものが、自然と人類の共存を解決するための鍵にもなり得るのではないか、と感じた。
全体的には、ライフ・ドキュメンタリーという性質上仕方ないのかもしれないが、やや単調。それを補うかのように、かなり多くの場面でジャック・ジョンソン、ジェイムズ・マーサー、メイソン・ジェニングスらが奏でるBGMが流れて、映像を補完する。ヒーリング効果のあるリラクゼーション・ムーヴィーとして、大自然に触れながら環境問題を考える契機としての位置づけとしては、いい映画なのかもしれない。
でも、本当に映像は素晴らしいので、映像を観て、大自然の景観に感化し“登山したい”“サーフィンしたい”という人々が増えそうな気はする。
(皮肉っぽい性格なので、感想はあまり気にしないでください)
