大型連休明け、平日ということもあり超満席ではなかったが、それでも多くのファンが彼の美声を聴きに訪れた。エリック・ベネイのブルーノート東京公演の3日目を観賞。2012年5月以来だから、約2年ぶりとなる。(そのときの記事はこちら)
構成は大幅に変わることはないが、バックヴォーカルのキャンディス・ボイドとは男女のデュエット、キーボードのジョン・リッチモンドとは掛け合いと歌唱スタイルにアクセントをつけられることもあって、エリックの艶っぽく情熱的なヴォーカルがよりよく活きたステージに。スティーヴ・ベサニーはギター・ソロで、アフトン・ジョンソンは黒っぽいグルーヴをベースで、ジョン・マクヴィッカーは過不足ないリズムをドラムでと、懐深くも安定したサウンドを供給してくれることも、エリックが快く歌える下地になっているのだろう。
『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』に収録され、今でもウェディング・ソングとして人気なんだという振りからの「スペンド・マイ・ライフ・ウィズ・ユー」、フランキー・ビヴァリーへのトリビュートとして「ニュース・フォー・ユー」と熱っぽくもくどすぎないという絶妙な色香をふりまくエリック。哀愁と妖艶が行き交うセクシーなラテン風「スパニッシュ・フライ」でのダンスでは、その腰つきは女性客が思わず歓声をあげる。
5月末に日本で発表されるカヴァー・アルバム収録曲のなかからは、映画『フットルース』でも使用された「パラダイス~愛のテーマ~」をチョイス。キャンディスとセクシーなデュエットを披露してくれた。もちろん、客席の女性陣への目配りも忘れず、目の前で手を取り愛のメッセージを伝えるがごとく振る舞うさまに、女性客の目はすっかりハートマークだ。“ソウルな愛の伝道師、ここに健在”といったところか。
だが、やはり白眉は「サムタイムズ・アイ・クライ」か。ほぼ全編ファルセットで歌い通される難易度の高い楽曲だが、w-inds.がカヴァーするという。その出来は未聴ゆえ分からないが、こちら本家はこの日も興奮と恍惚を一瞬にしてもたらした。思いの丈をぶつけた高音ファルセットは、パッションのみならず、しっかりと詞が聴き取れる安定した歌唱が崩れない。そこが彼のすごいところだ。
非常に高レヴェルで安定したステージに水を差すことは無用だと思いながら、敢えて注文を付けるとするならば、ややセット・リストに驚きが少ないということか。「チョコレート・レッグス」「スパニッシュ・フライ」で女性のトキメキを増幅させ、「ドント・レット・ゴー」のコール&レスポンスで一体感を共有し、「サムタイムズ・アイ・クライ」で驚愕と感動を覚え、「ジョージィ・ポージィ」でクライマックスを迎える……その流れも確かに魅力的なのだが、たまには意外性のある構成も体感したいと思うのは、野暮なことだろうか。
もう一つは、コーラスが全部生ヴォーカルだとよりより“ライヴ”感を出せるのではないかなということ。さまざまな理由があってバック・ヴォーカルが一ないし二人(キーボードのジョン・リッチモンド含め)なのだろうが、一部音源とともにそのままコーラス・パートを流してしまうところがあって、3D映画に一瞬2D映像が流れ込んできたような感覚というか、それに似た実感を得たので、バック・ヴォーカルをもう一人増やしてみてもいいのではと思った。もちろん、それがなければダメという訳ではなく、より高い要望としてという意味でだが。
そんな思いが過ぎりながらも、アンコール後の「ジョージィ・ポージィ」では手を挙げて興奮の坩堝に飲み込まれていたのだが。エリックも客席を一周し、自分の眼前20センチくらいのところまで接近。歌唱力、表現力は言わずもがな、改めて色男を再認識して、ファルセットの波に浮遊した夜は幕を閉じたのだった。
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<SET LIST>
01 My Prayer
02 Love Don't Love Me
03 Spiritual Thang
04 The Hunger
05 Chocolate Legs
06 Femininity
07 Pretty Baby
08 Spanish Fly
09 Don't Let Go
10 Spend My Life With You
11 News For You
12 Almost Paradise(Original by Mike Reno&Ann Wilson)
13 Sometimes I Cry
14 Why You Follow Me
15 You're The Only One
≪ENCORE≫
16 Georgy Porgy
<MEMBER>
Eric Benet(vo)
Candice Boyd(back vo)
Jon Richmond(key)
Steve Bethany(g)
Afton Johnson(b)
John“stixx”McVicker(ds)
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Eric Benét - Sometimes I Cry