
山田のJ1初ゴールと久保のJ1出場という以外に何を残せたのか。
J1リーグも終盤残り2節。相手の広島ほか甲府や大宮の残留を占う一戦は、FC東京が“広島のJ1残留のお膳立て”の役目を全うしたに過ぎない結果となった。
FC東京は契約の関係でピーター・ウタカが出場不可ゆえ、1トップに前田を起用。DFにはチャン・ヒョンスに代わって山田が入った。怪我明けを考慮したのか、大久保嘉人はメンバー外。先日、長崎への移籍を発表した徳永もベンチを外れ、サブには岡崎、柳、ユ・インス、久保とフレッシュな面々が顔を揃えた。
広島は椋原がクロス、柏がドリブル突破などを試みるものの、精度は決して高くなく、それほど脅威にはならず。とはいえ、FC東京はそれ以上にゴールへ向かう手立てが見えない。選手たち自身はサボっている訳ではないだろうが、何をすべきか、どのようにトライしていくのかという指針が全く感じられないため、ピッチ上で手探りのまま攻略を練ろうとしているとしか受け取れない。かたや守備は万全かというと決してそうではなく、安間体制となってシーズン途中から採用してきた3バック・システムを継承し続けてきたが、残念ながらその効果や精度には首を傾けざるをえないクオリティ。ポジション取りや相手へ詰める距離感、プレッシャーのスピード、スペースを埋める連動性など、どれをとっても“ピッチ上での約束事”の動きが見られず、慌てふためく場面が時間の経過とともに増えていく。広島の攻撃の精度によって何とか凌いでいたが、前半終了間際にフェリペ・シウバのシュートが柴﨑晃誠に当たってコースが変わると、GK大久保択生も対応しきれず、広島が先制して前半を終えた。
後半序盤に太田のCKに山田が飛び込み、ヘディングシュートを決めて同点に引き戻すも、広島の残留への強い思いがピッチ、スタンドともに一体化。山田のゴールから約5分後、稲垣が左サイド奥へ侵入したフェリペ・シウバへパスを出すと、シウバは少しタメを作りながらボックス線上へじわりと進んで味方の動き出しを図り、ペナルティアーク付近に走って来た稲垣へパス。これを受けた稲垣が、東京DF陣の寄せが甘いとみるや右足一閃。綺麗な弧を描いた右足の弾道がゴール右隅上に決まり、広島が勝ち越した。
FC東京はJ1デビューの久保を投入すると、右サイドから前線への速いパスを受けた前田が鋭いシュートを放つも、広島GK・林卓人にセーヴされると、前田はそのこぼれ球を再度シュートするがこれもセーヴされ、得点には至らず。78分には室屋のクロスボールの競り合いから、途中出場のユ・インスが倒れながらも粘ったこぼれ球が跳ね合うなかで前田がヘディングするも枠外。アディショナルタイムには中央でボールを受けた久保が、そのまま中央突破しシュートを放つもGKの正面を突いてゴールはならず。83分に森崎を投入して守備的なメッセージを与えた広島が、そのまま時間を動かしてホーム最終戦で勝利。甲府と大宮が引き分けた一報も入り、広島はホーム最終戦でJ1残留決定と今季退団のミキッチのセレモニーを喜びと安堵の気持ちで迎えることが出来た。
一方、FC東京は相性が良かったアウェイ広島でも結果を残せず、これで9月16日の仙台戦を勝利して以来、2ヵ月間勝利から遠のく形に。残留は決めているものの、順位的にはリーグ終盤まで残留争いをしていた札幌にまで抜かれ、残留争い真っ只中と言ってもおかしくない13位。一つ下の14位はこの試合で残留を決めた広島。百歩譲って、結果が出ないのは時の運もあるとして、内容に向上どころか、構築したいサッカーの形や意志が見えないままというのは、時間の経過以外に得られるものが皆無と言わざるをえない。
試合後に広島のヤン・ヨンソン監督が「ほかの日本のチームがどうなのか分からないが、広島は広島魂と言うか、一丸となって戦おうという姿勢を見せることが出来たと思う。ユニフォームを着た人も着なかった人も、チームを支える街の人やサポーターが本当に一丸となった」というコメントを出していたが、この“ほかの日本のチームがどうなのか分からないが”の言葉に“FC東京はそうは見えなかった”という皮肉も込めているのではと自虐してしまうほど、今のFC東京には一体感が無く、闇の中をそれぞれが身勝手に彷徨うばかりの文字通りのバラバラな状態といっていい。
太田の試合後のコメントにしても「結局セットプレーからしか点を取れていない。ふがいないのひと言に尽きるなと思う。もっともっとチームで崩していく形を作らないと。見ていても迫力はまったくないと思うので、今年はそういうところで何も残せなかったという悔しい一年になった」と言っているが、リーグがまだ1試合残っていながら自らこういったコメントをしてしまうこと自体に、危機感の共有がチーム内でなされていないということの証左になってしまっている。
安間体制となって僅か1勝。これが2ステージ制であれば下位争いは確実だ。その2ステージで考えると最下位となるのが次節対戦するG大阪。G大阪はこの日も札幌に敗れ、9月以降未勝利を継続中で、最終節は共に2ヵ月強勝利していないチーム同士という対戦に。さらに、G大阪にて今季限りでの退任が決まっている長谷川健太監督が、来季のFC東京の監督に就任が決定的との報道がなされている。最終節にFC東京が勝利したとして、今のFC東京に負けるチームの監督を来季迎えていいものなのか、また、FC東京が負けるとなれば、監督交代の劇薬を投じたものの2ヵ月強にほとんど改善も見られずシーズンを終えていいものなのか、どちらにせよ有終の美などは存在しない最悪の最終節となった。救いなのは、石川直宏と徳永悠平を見送るという舞台が残されていることだけだ。
今季は終わった訳ではない。最後の最後で昨年に森重キャプテンが言い放った“プロフェッショナル”な姿勢の一片でも見せて欲しい。ガムシャラに倒れ込むまでピッチを駆け抜けて欲しい。それが出来ないのなら、来季どころか今季中に既に始まっているFC東京というチームへの求心力は一層低下し、有力選手どころかファン・サポーターも次々と離れていくだろう。この危機感における決意をピッチ上のパフォーマンスという形で示すことしか、道は残されていないと知るべきだ。
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【明治安田生命J1リーグ戦 第33節】
2017年11月26日(日)13:05 試合開始 エディオンスタジアム広島
入場者数 22,333人
天候 曇 / 気温 21.0℃ / 湿度 53%
主審 家本政明 / 副審 山際将史、岩田浩義 / 4審 吉田哲朗
広 島 2(1-0 / 1-1)1 FC東京
≪得点≫
(広): 柴﨑晃誠(45分)、稲垣祥(66分)
(東): 山田将之(59分)
≪退場≫
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【FC東京 メンバー】
≪スターティングメンバー≫
GK 01 大久保択生
DF 36 山田将之
DF 04 吉本一謙 → ユ・インス(77分)
DF 05 丸山祐市
MF 37 橋本拳人
MF 38 東 慶悟 → 梶山陽平(86分)
MF 02 室屋 成
MF 06 太田宏介
FW 08 高萩洋次郎
FW 15 永井謙佑 → 久保建英(67分)
FW 20 前田遼一
≪サブスティテューション≫
GK 33 林 彰洋
DF 29 岡崎 慎
MF 10 梶山陽平
MF 26 柳 貴博
MF 07 米本拓司
FW 21 ユ・インス
FW 41 久保建英
≪監督≫
安間貴義
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【2017明治安田生命J1リーグ FC東京 日程】
第01節 02/25(土)14:00〇FC東京 1-0 鹿 島(A・カシマ)
第02節 03/04(土)15:00〇FC東京 2-0 大 宮(H・味スタ)
第03節 03/11(土)19:00✕FC東京 0-3 G大阪(A・吹田S)
第04節 03/18(土)19:00〇FC東京 3-0 川 崎(H・味スタ)
第05節 04/01(土)16:00△FC東京 3-3 鳥 栖(H・味スタ)
第06節 04/08(土)19:00✕FC東京 1-2 札 幌(A・札幌ド)
第07節 04/16(日)14:00✕FC東京 0-1 浦 和(H・味スタ)
第08節 04/22(土)16:00〇FC東京 3-0 新 潟(A・デンカS)
第09節 04/30(日)15:00〇FC東京 1-0 広 島(H・味スタ)
第10節 05/07(日)14:00〇FC東京 2-0 仙 台(A・ユアスタ)
第11節 05/14(日)15:00✕FC東京 1-2 柏 (H・味スタ)
第12節 05/20(土)19:00△FC東京 1-1 神 戸(A・ノエスタ)
第13節 05/28(日)16:00△FC東京 1-1 甲 府(H・味スタ)
第14節 06/04(日)13:00〇FC東京 2-0 清 水(A・アイスタ)
第15節 06/18(日)18:00✕FC東京 0-1 横浜FM(H・味スタ)
第16節 06/25(日)18:00✕FC東京 0-2 磐 田(A・ヤマハ)
第17節 07/02(日)19:00✕FC東京 1-3 C大阪(A・金鳥スタ)
第18節 07/08(土)19:00△FC東京 2-2 鹿 島(H・味スタ)
第19節 07/30(日)19:00△FC東京 1-1 新 潟(H・味スタ)
第20節 08/05(土)19:00△FC東京 1-1 川 崎(A・等々力)
第21節 08/09(水)19:00〇FC東京 2-1 大 宮(A・NACK5)
第22節 08/13(日)19:00〇FC東京 1-0 神 戸(H・味スタ)
第23節 08/19(土)19:00✕FC東京 1-2 浦 和(A・埼 玉)
第24節 08/26(土)19:00✕FC東京 0-1 横浜FM(A・日産ス)
第25節 09/09(土)19:00✕FC東京 1-4 C大阪(H・味スタ)
第26節 09/16(土)19:00〇FC東京 1-0 仙 台(H・味スタ)
第27節 09/23(土)16:00✕FC東京 1-4 柏 (A・ 柏 )
第28節 09/30(土)16:00△FC東京 0-0 磐 田(H・味スタ)
第29節 10/15(日)14:00△FC東京 1-1 甲 府(A・中銀スタ)
第30節 10/21(土)16:00✕FC東京 1-2 札 幌(H・味スタ)
第31節 10/29(日)17:00△FC東京 0-0 清 水(H・味スタ)
第32節 11/18(土)14:00✕FC東京 1-2 鳥 栖(A・ベアスタ)
第33節 11/26(日)13:00✕FC東京 1-2 広 島(A・Eスタ)
第34節 12/02(土)14:00 FC東京 vs G大阪(H・味スタ)


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