
バンドという動力を携えた、新たなフェーズでのスタート。
11月に4枚目のシングル「WINGSCAPE」をリリースし、インストア・ミニ・ライヴなどを重ねてきた脇田もなりが、改めて同シングルのリリース・パーティ〈Up and Coming "WINGSCAPE" Release Party!! @Tokyo〉を六本木VARIT.にて開催。約1ヵ月前にチケットがソールドアウトとなるという人気のステージに運よく滑り込むことに成功した。注目すべき点はそのライヴのタイトルにも隠されていて、“Up and Coming”と冠しているのは、その言葉の意味に含まれる“上昇して進んでいきたい”という彼女自身の成長への意欲の意思表示に加え、今後のバンド・スタイルでのライヴは“脇田もなりUp and Coming”として臨むということから。脇田もなりの新たな側面を打ち出そうという、躍進のため自ら鼓舞していくという気持ちの表われといえそうだ。
開演10分前くらいに会場に到着すると、ソールドアウトとはいいながらも立錐の余地もないというほどではなかったが、後方までを不快感が募らない程度の間隔できっちりと埋まる人だかり。山下達郎やアン・ルイス「恋のブギ・ウギ・トレイン」からリック・ジェームス「スーパー・フリーク」(MCハマー「ユー・キャント・タッチ・ディス」の元ネタ)、テディ・ペンダーグラス「ドゥ・ミー」(ドリフ「ヒゲダンスのテーマ」の元ネタ)、エモーションズやダン・ハートマンなどのダンス/ソウル・クラシックス、はたまた泰葉「フライデー・チャイナタウン」や北島三郎「与作」のリアレンジ・カヴァーなど洋邦の“レアグルーヴ”を繰り出す新井俊也(冗談伯爵)のDJプレイに心地良く揺れるフロアは、その熱度を持ったまま開演を迎えることになった。

白のブラウスに赤のリボンを模したアクセントのトップとチェック柄の赤いスカートという季節的にもクリスマスを感じさせる出で立ちで登場。デビュー曲「IN THE CITY」から「IRONY」、衣装とリンクしたような「赤いスカート」と矢継ぎ早に繰り出し、期待感を持って集ったフロアの熱度を高めていく。
やはりバンドの生演奏がバックにあると、音源とは異なった“生”の空気が感じられるのだろう。観客の反応も新鮮かつ高揚をを帯びたものになっていく。バンドは9月に行なわれた渋谷clubasiaでのワンマンライヴの時と同じ編成。Healthy Dynamite ClubからギターのしまだんとキーボードのKAYO-CHAAAN、ベースには元カラスは真っ白で現在はCICADAにも名を連ねるオチ・ザ・ファンクこと越智俊介、ドラムにAlaska Jamの山下賢という布陣だ。脇田自身もバンドの音に快感を得ているようで、ヴォーカルの“ノリ”もいい。ソロになって身に付けたというヴォーカルワークの柔軟性にも成長が見られ、単に曲によって声色の表層を変えるというだけでなく、次第に自身の意志を映し出せる表現力を伴ったものとして精度を高めているように感じられた。デビューから1年強、4枚のシングルと1枚のフル・アルバム、初ソロ・ワンマンライヴを経て培ったスタイルは、順調に伸張しているといえる。
もちろん、この日のパフォーマンスが完璧だったかというと、そうではない。中盤の「祈りの言葉」では感極まったのか歌うことが出来ずに観客の歌声のサポートによって乗り切る場面も。ただ、それは楽曲の世界へ深く潜り込み、その感情を吐露する上で起こったことだ。観方を変えれば詞をなぞらえるのではなく、その世界観を咀嚼して思いを乗せた“表現者”としての成長過程ともいえる。テクニックだけでなく、歌曲が持つそれぞれに潜む物語の“伝い手”としての目覚めがあったのかもしれない。
幸いにも次の曲が本公演の目玉の一つとなる「WINGSCAPE」のカップリング、“ダ・チーチーチー”のドラム・フィルを採り入れた爽快なバザール感のある陽気なクラブ・ジャズ・ハウス調の「LED」だったことで、微かに顔を覗かせた不安なムードが瞬時に取り除かれたことも助けとなった。

どちらかといえば、「祈りの言葉」で一時とはいえ“歌えなかった”ことが特に「夜明けのVIEW」や「あのね、、、」などの“聴かせる”バラード系でのピッチに影響が出たことの方が気になった。この日は全体的にピッチは微かなところではあるが通じて不安定で高音も声が十分に発せられない場面も散見されたが、それはソールドアウトというステージへのえも言われぬ高揚感と緊張感や、オケとは異なるバンドをバックにしたパフォーマンスにおける僅かながらの“ズレ”が生じたゆえなのかもしれない。
ただ、そういった状況での適応能力も場数を踏んできたステージの経験か(持ち曲が少ない時にMCで繋いでいたゆえMC力が上達した、と自身が実感したのもその一つか)、フロアのテンションを落とさせない対応力を身に付けており、「ディッピン」や「泣き虫レボリューション」でのコール&レスポンスでフロアとの一体感を高めると、その熱の高まりに副うように福富産の軽快なハウス・チューン「I'm with you」を投下。ハイトーンでの“I'm with you”では伸びやかな歌唱もすっかり取り戻し、本編ラストのこの日の目玉となるブラジリアン・ファンク「WINGSCAPE」では観客からスキャット・コーラスの渦を生み出すまでにヴォルテージが上昇。リズミカルなグルーヴと“パッパラッパパーラ~”の合唱に沸いた熱は冷めることなくアンコールへ突入。コール&レスポンスで観客との会話を愉しみながら、ライヴの締めの定番となりつつあるPWLマナーの「Boy Friend」を披露して、2017年の成長の足跡を足早に辿ってみせた。
ソロ・デビュー後1年強という決して長くない時間ながら、ポップ・シンガーとして着実に順風を背に高みへ航行している脇田もなり。歌を自らの意志で歌えることの喜びに加え、次々に現れる新たな発見とその体得による充実が伝わってくるようなステージは、運よくチケットを手に入れてフロアに集った観客を大いに沸かせ、近い将来への期待をもたらすには充分だったといえよう。

しかしながら、これはあくまでも個人的な趣向の強さに相違ないが、どうしても拭えなかったのがテクニカルなミス以上に頭をもたげたヴォーカルワークの質。自らの意志や想い、楽曲の世界観を強く投影しようと声色のチャンネルをコントロールしていくスキルと歌唱の表情には格段の成長を見せていると思うが、その一方で自らスイッチをコントロール出来る手筈を体得しつつあるがゆえに減退していると感じるものも。特にファットなボトムが響く「Cloudless Night」からホーン・セクションやレトロモダンな鍵盤の高鳴りが印象的なソウル・ポップ「EST! EST!! EST!!!」への流れで、バンド・サウンドとヴォーカルの質の“反り”を感じてしまった。焦点を当てていえば、ファットなグルーヴに“負けてしまう”声質になってしまっているということ。グーッと内からこみ上げるようなパンチのあるヴォーカル資質を元来有している彼女だが、それが成長過程で変化するのはよしとしても(声色の表層を軽快にコーティングするのは構わないのだが)、内包していたはずの芯を持つグルーヴがあまり感じられなかったのが、その“反り”の一因なのかもしれない。
この日のリズム隊は越智俊介の漆黒なベースが突出してしまったようにも聴こえたが、それはバンドのバランスが悪いというのとは違って、歌唱とファットなボトムとの微妙な溝やズレがあったゆえ。当該2曲だけでなく全体的に盛況を博し、観客の声からはバンドを駆使した“Up and Coming”スタイルへの絶賛が多く聞かれたが、それはフロアのスケールが小さい六本木VARIT.という密着性空間が及ぼした影響もあったかと思う。バンド・メンバーはclubasiaでのソロ・ワンマンと同様だが、今回の一体感やヴォルテージの密度をclubasiaやそれ以上のスケールで果たして具現化出来るかといったら、即座に首を縦に振ることには躊躇いがあるというのが本音だ。そうはいっても、このような感想を持ったのはおそらく自分だけだろう。フロアにはソロ・デビュー後からのファンが多く詰めかけていたことを考えると、当初からポップ・シンガーとしての歩みを目の当たりにしている訳であり、このような感想には当たらないのが普通だ。着実に新たなファンを増やしていることも考えれば、特段気にすることでもないのかもしれない。

“up-and-coming pop singer”、ポップ・シンガーとしての期待の星からその先へ。意欲に満ちて航行していく前途に今のところ翳りは見えない。小さなハプニングや試行錯誤はあるだろうが、“Up and Coming”バンドという良き“帆”を得たことで、加速度を増していきそうな気配だ。楽曲にも恵まれていることもあり、“Up and Coming”スタイルならではの新たな世界観の構築に貪欲にチャレンジし続けてもらいたい。

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<SET LIST>
01 IN THE CITY
02 IRONY
03 赤いスカート
04 Cloudless Night
05 EST! EST!! EST!!!
06 ディッピン
07 祈りの言葉
08 LED
09 夜明けのVIEW
10 あのね、、、
11 泣き虫レボリューション
12 I'm with you
13 WINGSCAPE
≪ENCORE≫
14 Boy Friend(Extended Mix)
<MEMBER>
脇田もなり(vo)
しまだん(Healthy Dynamite Club)(g)
越智俊介(Shunské G & The Peas / CICADA)(b)
KAYO-CHAAAN(Healthy Dynemite Club)(key)
山下賢(Mop of Head / Alaska Jam)(ds)
OPENING & CLOSING DJ:
新井俊也(冗談伯爵)(DJ)

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【脇田もなりに関する記事】
・2016/09/23 星野みちるの黄昏流星群Vol.5@代官山UNIT
・2017/06/20 脇田もなり@HMV record shop 新宿ALTA【インストア】
・2017/07/28 脇田もなり@タワーレコード錦糸町【インストア】
・2017/09/08 脇田もなり@clubasia
・2017/11/25 脇田もなり@HMV record shop 新宿ALTA【インストア】
・2017/12/15 脇田もなり@六本木VARIT.(本記事)
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