*** june typhoon tokyo ***

YANAKIKU@渋谷clubasia

 喜・楽のみならず情念や艶な表情でも魅せた、今のYANAKIKUを凝縮したエンタメショウ。

 生まれも育ちも生粋の東京の自分が個人的に2020年の東京オリンピックの開会式やアンバサダーに薦めたい、なんならその前年の日本開催のラグビーW杯から日本を世界にアピールする役割を担わせてもいいと思っているガールズ・デュオ、YANAKIKUが年一度に行なうというワンマンライヴ〈柳菊一満デスコ 第四幕 -唄芸でぶらり東京観光でござい〼-〉に足を運ぶ。会場は渋谷のclubasia(クラブエイジア)。満杯という訳には行かなかったが、それでもウィークデーの夜にフロアを埋める多くのYANAKIKUファンが集い、賑わった。

 YANAKIKUはYANA(柳めぐみ)とKIKU(菊井彰子)による“日本”をテーマにエンタメ性を重視したパフォーマンスを繰り広げるガールズ・デュオ。9月に代官山LOOPで行なわれた〈LUMINOUS〉(その時の記事はこちら→「LUMINOUS@代官山LOOP」)にて脇田もなり、西恵利香との3マン・ライヴで観たのが最初。彼女たちが繰り出すダンス/クラブ・ミュージックを軸とした音楽性に触れ、元来ダンクラやディスコ、ユーロ―ビートなどを通過してきた自分にとってはなかなか興味深く思えたゆえ、再び彼女たちのステージを体感した次第。ワンマンライヴは初めての体験となる。

 11月に2ndフル・アルバム『柳菊ノ円盤其ノ参-東京観光編-』をリリースしたこともあって、ライヴはそのアルバムを中心とした構成。イントロダクションを経て、“おもてなしイズム”のワードも散りばめてこれこそ東京五輪にぴったりの「Welcome to Tokyo」(ただし、ミュージック・ヴィデオはどう見ても“東京”のイメージではないが)から実質的なスタート。ライヴタイトルにもあるように“ぶらり東京観光”よろしくYANAKIKUの二人がエスコートするバスツアーというコンセプト。続いて東京と大阪の遠距離恋愛をシュールかつコミカルに描いた、ABEDONこと阿部義晴が手掛けた「LOVE♡TRAIN」へ(“渋谷 原宿 代々木 新宿その先 分からない から行かない”のフレーズに、新宿のその先が最寄り駅の自分が悶絶したのはここだけの話……笑)。MCを挟みつつ、バスの停車ベルと“次は両国”という場内アナウンスのフリから、両国といえば“相撲”、相撲と言えばこの曲という流れから「どす恋ハイスクール~気になるあいつは相撲部~」へ。相撲と言えば“ビール瓶”、ビール瓶はダメだから“リモコン”など、巷を騒がせている時事ネタを織り込みながらのMCやトークのテンポの良さを聞くにつけ、アンテナの感性に長けた人たちなのだなと感心。

 アルバムは未聴なので詳細は解からないが、「寸劇ノ巻」というタイトルからしてスキット的なトラックが挟まれているのだと推測するが、そういった寸劇テイストはこのステージでも。YANAが観客にYANAKIKUをどう思っているのか本音をリサーチしたいとフリップを持ち出して“推しはどちらか?”“結婚したいのは?”などと観客に問いかけるが、どの質問にも圧倒的にKIKUを支持する声が挙がる。まんざらでもないKIKUだったが、最終的には“ガリガリ君を30秒で早食いできるのは?”“サンシャイン池崎のマネを見たいのは?”という問いにもKIKUへの支持の声を“挙げさせ”、その場でKIKUに早食いや“サンシャイン菊井”を実践させる“いじり”、要するにYANAが仕掛けた“ドッキリ”を仕込むほか、前グループ(ドランクドラゴンの塚地武雅主演映画『ハンサム★スーツ』主題歌を担当したことで知られるMissing Link)時代からの盟友、AViAとの絡みでは、サンプラーを用いた寸劇を。サンプラーに事前にいくつか声を録音してビートを作り、それに合わせてパフォーマンスするのだが、YANAの場合は“YANAです”というYANA自身の声に対し、KIKUの時には“ぽんこつ”“メルヘンおばさん”“料理クソ下手”などを仕込むといったいじりで沸かせたりと、“唄と笑いのエンターテイメントガールズデュオ”の名に相応しい、エンタメ濃度の高いステージを展開していく。

 こう綴っていくと笑いの濃度が高いのではと思われるかもしれないが、基盤になるのはやはり楽曲と“唄”。会場をダンス・ステージと化す「FUNK★JAPAN」や頭上で三角ポーズを作って踊る富士山賛歌「フジヤマ△デスコ」などのディスコ/ブギー・サウンドを中心に、ビルドアップを組み込んだシンセ・ダンス・ポップ「KIRA KIRA TOKIO」、マイアミ・ベースやエレクトロなどのごった煮感と渋谷のシンボル“ハチ公”を解放するという詞世界が楽しいバイレファンキ・チューン「HACHIKO↑DANCE」などのダンサブルな楽曲でフロアを盛り上げていく。フロアはレーザービームも飛び交う近未来的な照明効果もあり、ダンス楽曲の先進性ともリンクしているようだが、その下敷きになっているのはソウル・ポップやファンク。「ホット・スタッフ」「アイ・フィール・ラヴ」などのドナ・サマー作風の影がちらついたりすると感じるのは、それらを手掛けた“ディスコ・レジェンド”のジョルジオ・モロダーをモチーフにしたアプローチもあるのかもしれない。もちろん、それらをディスコ作風のままアウトプットするのではなく、現行ダンス・ミュージックと時間軸を合わせるべくアップデートしていて、ジョルジオ・モロダーも近年ではカイリー・ミノーグとの「ライト・ヒア、ライト・ナウ」やシーアとの「デ・ジャ・ヴュ」をリリース(どちらも2015年)しているから、そのあたりの親和性を感じたのかもしれない。



 また、アッパー・ビートと“和”なメロディが畳み掛ける「オトナノオンナトオトナノオトコ」のような複雑な作風でクールにエッジ―に迫る一方で、その名のとおりワイワイと祝杯をあげるのにピッタリな「KANPAI NIGHT」、焼酎の“いいちこ”にインスパイアされた「チコイイネ」、ケン玉を男女の恋模様に見立て、ケン玉の技を表現したような跳ねたリズムが肝の「恋のケン玉あそび」、『人生ゲーム』のいにしえ日本版ともいえる双六を題材に股旅モノや人生賛歌風といった歌謡曲・演歌にありがちな世界観に着想を得た(氷川きよし「箱根八里の半次郎」路線といったらいいか)ような「すごろく娘」、ビルドアップを用いたファットなエレクトロ・トラックにエスニックなメロディラインを乗せ、ザ・ドリフターズ「いい湯だな」マナーのフレーズを採り入れた「極楽湯~とぴあ」などの“喜・楽”モードの楽曲を破顔一笑にパフォーマンス。
 それのみならず、彼女らの色香が引き出された「猫娘」や本編ラストに披露したハートウォームなメッセージ・ソング「わのように-WAR・NO・YOU・NEED-」など、ダンス・ミュージックだけに囚われないヴァラエティ豊かな楽曲群で、フロアを絢爛豪華に彩っていく。

 ファンクやディスコ、ダンス・ミュージックの類は、単調なビートのループが軸となっていることが多いため、楽曲のポテンシャルとしては瞬間的な爆発力も備わっている一方で、流行り廃りが伴いやすい。いくらビルドアップやラガホーンなどで装飾したところで、目新しくなくなれば飽きも早いのが常。そもそもダンス・ミュージックにはその両面を孕んでいるが、それをロングセラーとし得る効果が何かといえば、YANAKIKUにおいてはやはり二人の歌唱力に尽きるだろう。アッパーなビートに耐えうる明瞭で淀みのない声質とエナジーとパッションがストレートに伝わってくる力感ある声圧、闊達で安定性の高いピッチを擁する歌唱力が、さまざまな作風でも臨機応変にこなせる要因の一つだろうし、唄と笑いを素早く往来するフットワークの軽さと同様、歌唱においても雑種なサウンドにアジャストする対応力を備えているようだ。
 加えて、天真爛漫な歌唱でポップネスの濃度とフロアの熱度を高めるKIKUとムードやラテン歌謡など哀愁漂う作風との相性が良い艶やかな“しなり”を発揮するYANAという、二人の声質の別もよい効果を生んでいて、そのハーモニーが硬質なビートの曲調をそう感じさせないしなやかさ、“和”的なわび・さびと言い換えてもいいかもしれないが、に繋がっているような気もする。

 アンコールの冒頭では、ファンへの感謝を込めた、水曜日のカンパネラにもありそうなクールなエレクトロ・トラックにファルセットが映える「TOWER」を披露、ラストは彼女たち“らしく”「ドンマイお祭り人生」で盛大に歌い踊って終幕。バスツアーの“テイ”は寸劇などで立ち消えになった感もあるが(笑)、笑いを軸に艶やハートフルな一面も垣間見せての大団円。エンターテインメント性に富んだジョイフルな2時間は、思いの外の早く過ぎていったようだ。

 二人は「年一度のワンマン」と語っていたが、年一度では勿体ないクオリティではある。もちろん、成長過程にある部分もあるが、歌、トーク、寸劇と楽しみの間口の広さもある。あとは、集客と認知で、何かのきっかけを掴みたいところ。ひとまず、さらなる進化に期待しながら、次のワンマンまでにもその勇姿を確かめてみたい。

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Welcome to Tokyo
02 LOVE♡TRAIN
03 どす恋ハイスクール~気になるあいつは相撲部~
04 極楽湯~トピア
05 KIRA KIRA TOKIO
06 HACHIKO↑DANCE
07 チコイイネ
08 猫娘
09 KANPAI NIGHT
10 オトナノオンナトオトナノオトコ
11 FUNK★JAPAN
12 恋のケン玉あそび
13 すごろく娘
14 フジヤマ△デスコ
15 わのように-WAR・NO・YOU・NEED-
≪ENCORE≫
16 TOWER
17 ドンマイお祭り人生
≪OUTRO PERFORMANCE≫
ブルゾンめぐみ with B(BGM SONG“Dirty Work”by Austin Mahone)

<MEMBER>
YANAKIKU are:
YANA(Megumi Yanagi)/ 柳めぐみ(vo)
KIKU(Shoko Kikui)/ 菊井彰子(vo)

AViA(from カルテット.)(DJ)

Special Guest:
カワムラユキ(DJ)
松井“toshi808”寿成(key)

≪Outro Performance≫
ブルゾンめぐみ with B are:
柳めぐみ(played“ブルゾンめぐみ”)
元気☆たつや(げんき~ず)(played“with B”)
スベリー・マーキュリー(played“with B”)


◇◇◇





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