そんなスタンダードナンバーのカヴァーを基本にした音楽イベント、
それが「THE BASIC'S」。
音楽チャンネルMUSIC ON! TVと今秋創刊15周年を迎える小学館のファッション誌『Oggi』が、“映画音楽”をテーマにコラボレート。5人のフィメール・シンガーによる特別なライヴ“Oggi The 15th anniversary×MUSIC ON! TV "THE BASIC'S" Special LIVE”が東京国際フォーラムで行なわれた。
アーティストは、AI、伊藤由奈、JUJUに、ゲストとしてBONNIE PINK、スペシャル・ゲストとして一青窈の5人の歌姫。その5人が歌いたい思い出の映画からピックアップしたナンバー10曲が書かれたパンフレットを入場時に手渡される。開演時間までは、そのパンフレットを眺めながら、誰がどの曲を歌うのかなどを推理。映画はそれほど観たことはなくても、幸い、その映画に使用された楽曲は聴いたことのあるものが多く、それらを誰が歌うのかという推理もはかどる。ライヴ開演前であったが、そういう時間も楽しかった。
観客は、やはり『Oggi』とのコラボレーションということで、その読者らしき大人のオシャレを楽しむOL風の女性が多かったか。男性はかなり少なく、3割いたかなという印象だ。
当初、考えていたのは、このようなイヴェントでよくあるスタイル、司会進行役のMCがいて、アーティストを呼び寄せ、映画にちなんだエピソードなどを披露したあとに曲を歌う……という展開でないといいがなぁということ。それが悪いという訳ではないが、ライヴ・イヴェントなので、せっかく演奏中に盛り上がった熱気をMCなどで流れを止めなければいいな、と。ましてやアーティストによってバック・バンドが代わったりして、セッティングに時間をとられては興ざめになってしまうのではないか、と懸念していた。
だが、その懸念は杞憂に終わる。
それぞれがセレクトした映画音楽を演奏する前に、後方のスクリーンに1分ほどの映画のダイジェスト・シーンを流してから映画音楽へと導入する。映画を観た人には、その映画を回想したり思い出を浮かべながらアーティストの楽曲を聴くことが出来るし、観たことがない人には、どのような映画なのかという興味を惹かせるとともに音楽から映画へというベクトルでも関心を持たせることが出来るグッド・アイディアだ。この構成がこのイヴェントを成功に導いた大きな原因だといってもいいかもしれない。
ホスト役はAI。彼女のトークはざっくばらんで鹿児島弁丸出しなので、なかにはオシャレ感を出すステージには合わないのではと思った人もいるかもしれないが、会場を盛り上げるのに適任だったといえよう。オープニング・ナンバー、『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』(2003)からの「LAST DANCE」を歌う際に、「別に立ってもいいんだから」と観客を煽ると、1階席は一気にスタンディング。単なるコラボレート・イヴェントではなく、それをしっかりとライヴとして成立させる先導役を見事にこなしていた。
ライヴとして成立させるという意味では、全てのアーティストの演奏をこなしたバック・バンドの活躍も見逃せない。ケイリブ・ジェイムスをリーダーとするバンド・メンバーは、キーボードのペニーK(BENNIE Kではないです…笑)、ドラムのロレンゾなどAIのツアー・バンドとほぼみていいだろう。久保田利伸のライヴにも参加しているユリをはじめコーラス3人も実力派揃い。異なるアーティストの特色を活かしたアレンジを施し、安定感あるグルーヴを創り上げたサウンドが、ライヴの質を高めたことも間違いない。

ホスト役ということもあって、ソロで歌う曲が一番多かったのはAI。「LAST DANCE」と『私の愛情の対象』(1997)からデズリーのカヴァー「YOU GOTTA BE」のほかは、前述の「I'll Remember You」と“Higher~”のコーラスが爽快な「BRAND NEW DAY」にフジテレビ系ドラマ『医龍』主題歌「ONE」のオリジナル3曲を披露。しっとりとした雰囲気にまとめた「YOU GOTTA BE」は、デズリーの佇まいを模した風で、心地よい空間を創り上げていた。

以前、彼女の1stアルバムを聴いたことがあり、その時も感じたのだが、デビュー曲のイメージからかバラードやスロー・ナンバーが持ち味と思われるのかもしれないが、彼女は意外とダンサブルなナンバーもいける。意外とというより、そういうアッパーな曲の方が合っているとすら思えたりもした。マライア・キャリーなどのようにバラードからダンサブルなポップス、さらにはR&Bまでも歌いこなせる資質がある、もっと大きく羽ばたくだろうフィメール・シンガーだ。機会があれば、ぜひ、ダンサブルな曲も歌ってほしいところだ。


オリジナルは「Gimme A Beat」や「Water Me」なども聴きたかったが、ここは知名度の高い「A Perfect Sky」を。“朝焼けが青に変わる頃”の歌詞よろしく、コーラスで青が映えるライティングが印象的だった。

“小二で父親が亡くなった時、救ってくれたのが『サウンド・オブ・ミュージック』で、その時にこの映画を観て「ジュリー・アンドリュースのように歌の先生になろう」と心に決めて今に至った”“その後母親も亡くしたが、その分も生きようと、生きる大切さを解って”とのメッセージには説得力が充分。そんな思いも込めたオリジナル曲「つないで手」は、観客を惹きこませるのに時間を要することはなかった。
『ゴッドファーザー』のテーマが流れるなかAIが登場し、しくしくと泣くマネをして“この曲が流れているってことは、これで最後の曲”というMCの後にヴィデオ・スクリーンに登場したのは、なんとビヨンセ。ヴィデオ・メッセージが映されたのちに、ビヨンセ主演の『ドリームガールズ』(2006)から同タイトル曲を披露…という展開だ。ステージ左から伊藤由奈、AI、BONNIE PINKの即席ジャパニーズ・ドリームガールズによって、華やかで煌びやかなショウビズ・ムードで満たされていった。衣装も含め伊藤由奈がもっとも“ドリームガールズ”のテーマに相応しいルックスだったかもしれない。
アンコールは、『ムーラン・ルージュ』(2001)から“チキチキヤヤーヤーヤー”のフレーズがインパクト大な「LADY MARMALADE」を。「レディ・マーマレード」というと、クリスティーナ・アギレラ(Christina Aguilera)、リル・キム(Lil Kim)、マイア(Mya)&ピンク(Pink)の歌唱が思い出されるが、そこまで硬派でなくとも、伊藤由奈、AI、BONNIE PINK、JUJUがそれぞれパワフルで鮮やかなヴォーカルを存分に示した。アウトロ直前にAIが一青窈を呼び込むと、一青窈も含めてそれぞれがアドリブのソロを熱唱し、エンディング。最後は映画のエンドロール風にバンド・メンバーらのクレジットが映し出され、しっかりと映画と音楽をコラボするというテーマに添った演出で幕を閉じたのは、素晴らしかった。
映画音楽を通して生活をスタイリッシュに向上させるというコンセプトを、旬のフィメール・シンガーで行なうという企画は面白いし、しっかりと興味が持てた。東京国際フォーラムという大規模な会場においては、少々スクリーンの文字が小さくて読みづらかったのが残念だったが、それを除けばバンド・サウンドも安定し、変な間延びもなく、成功したイヴェントといえる。 これを契機に、同じ主題歌をそれぞれのアーティストが歌ったり、一作品の映画の主題歌や挿入歌などを場面に相応しいシンガーで歌ったり、女性だけではなく男性シンガーやバンドが映画音楽を表現したらどうなるかなど、映画と音楽のコラボレーションというテーマで行なわれるライヴが増えるといいかもしれないなあと感じながら、半分映画の主人公になりきって、会場をあとにしたのだった。
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<SET LIST>
01 LAST DANCE (AI)
~MC~ BGM: THE PINK PANTHER THEME
02 I'll Remember You (AI)
03 ENDLESS STORY (伊藤由奈)
04 STAND BY ME (伊藤由奈)
05 MY HEART WILL GO ON (伊藤由奈)
06 THE WAY WE WERE (JUJU)
07 ナツノハナ (JUJU)
08 奇跡を望むなら... (JUJU)
09 CALLING YOU (JUJU)
10 YOU GOTTA BE (AI)
11 BRAND NEW DAY (AI)
~MC~ BGM: JAMES BOND THEME
BAND MEMBER紹介
≪TALK≫ AI×BONNIE PINK
≪VIDEO≫ 『嫌われ松子の一生』(including 「LOVE IS BUBBLE」&「WHAT IS LIFE」)
12 TINY DANCER (BONNIE PINK)
13 A Perfect Sky (BONNIE PINK)
14 ONE (AI)
15 MY FAVORITE THINGS (一青窈)
16 つないで手 (一青窈)
~MC~ BGM: LOVE THEME FROM GODFATHER
≪VIDEO LETTER: Beyonce≫
17 DREAMGIRLS (AI、伊藤由奈、BONNIE PINK)
≪ENCORE≫
18 LADY MARMALADE (AI、伊藤由奈、JUJU、BONNIE PINK with 一青窈)
<MEMBER>
ケイリブ・ジェイムス(Kaleb James) (Key)
ペニーK(Penny K) (Key)
パット・プライアー(Patrick Irwin Pryor) (G)
ロレンゾ・ブレイスフル(Loreozo Braceful) (Dr)
ローレンス・ダニエル・ジュニア(Lawrence Daniels Jr) (Bass)
ユリ(Yuri) (Cho)
オリヴィア・バレル(Olivia Burrell) (Cho)
ピエール・アンドレ(Pierre Andre) (Cho&Sax)
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実は、このライヴは、以前サイトにてライヴ・レポート・ブロガー募集に応募したところ(8/12の日記参照)、なんと当選してしまい、招待されたものでした。いやぁ、応募してみるもんです。(笑)
自分が当初思い描いていた以上に楽しめたライヴでした。そのおかげで、発売当初に手に入れながら、まだちょっとしか観ずに(ほとんど観ていない?)そのままになっていた、『ドリームガールズ』のDVDを観ようと、同サウンドトラックを聴こうと思ったのでした。招待いただき感謝!な一日でした。