*** june typhoon tokyo ***

FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN



 7色の組み合わせで魅せる、多彩なコンビネーション・ショウ。

 “フェアラブ”の愛称で知られるリアルシスターズ・ダンス&ヴォーカル・ユニット、FAREWELL, MY L.u.v(フェアウェル・マイ・ラヴ)の定期公演〈DONT TOUCH MY RADIO〉の第3弾が、日曜のブランチタイムに渋谷LOFT HEAVENにて開催。4月に行なわれた前回(記事→「FAREWELL, MY L.u.v / HALLCA @LOFT HEAVEN」)ではHALLCAをゲストに迎えたが、今回はガールズ・ラップ・グループのMIC RAW RUGA(マイク・ロウ・ルーガ)に、愛知県出身のシンガー・ソングライターの山添みなみが参加。併せて、FAREWELL, MY L.u.vから派生した金津美月と山添によるラヴァーズ・レゲエ・アイドル・ユニット、FAREWELL, MY D.u.b(フェアウェル・マイ・ダブ)もゲストとして名を連ねた、ヴァラエティに富んだ色とりどりの陣容となった。個人的にフェアラブを観賞するのは、ゴールデンウィークの恵比寿CreAtoでの企画イヴェント〈ソノウチ〉(「FAREWELL, MY L.u.v @恵比寿CreAto」)以来。
 
 いくつかあるトピックのうち、最も耳目を集めるのは山添の参加だろう。山添はFAREWELL, MY D.u.bとして7月19日リリースのアルバム『Girls Lovers Reggae Vol.1』に金津美月とともに参加しているのだが、実は2019年3月までFAREWELL, MY L.u.vのオリジナルメンバーとして活動していた、いわばOGだ。その後、2021年9月までハードロック・プロジェクト“IRONBUNNY”のMinamiとして、それ以降はシンガー・ソングライターとして今に至る。MCでも「久しぶりに母校の部活にやってきたOBみたいに、堂々と先輩風を吹かして……と思ったんですが、楽屋でガクブルでした」と語っていた。脱退・卒業したオリジナルメンバーと現メンバーが同じステージに立つなどというと、たとえば(USでもUKでもいいのだが)ガールズR&Bグループで考えてみると、少なからずその経緯に遺恨みたいなものがあったりして、きな臭くなることこの上なしだったりすることが少なくないと思われるのだが、ここではそういったものはなかった模様(心が汚い大人はすぐにこういう妄想をするからよくない)。山添の話しぶりや所作などから見るに、謙虚でピュアなタイプのようだから、初めのうちはよそよそしさはあるだろうが(金津美月とはまだ3回しか会っていないとのこと)、打ち解けていくのも瞬時の問題だろう。

 本定期公演では、挨拶代わりにFAREWELL, MY L.u.vが1曲を披露してからゲストを迎えるスタイルらしく、まずは金津美月とゆいかの“フェアラブ”が「7 DAYS FOCUS」を披露。ダンスは前回よりもシンクロ率が高く、歌唱においても、ゆいかの方が瞬間的に戸惑いながら合わせにいったりする場面もないことはないが、歌詞をなぞるのではなく、強く前へ押し出すような圧を感じるなど、成長の跡が垣間見えた。


 ゲストの一番手として呼び込まれたのは、フェアラブ“OG”の山添みなみ。フェアラブでヒップホップやR&B、ソウル、ファンクなどのグルーヴ・ミュージックを、IRONBUNNYでハードロックを歌ってきたとのことだが、シンガー・ソングライターとしてはそれらの出自をあまり感じさせないアコースティックギターでの弾き語りスタイル。センチメンタルな「サクラソウ」をはじめとするオリジナル3曲と、最近マイブームだというaiko「恋をしたのは」のカヴァーの計4曲を披露したが、耳にスッと入ってくるクセのないミドル・ヴォイスが印象的。いわゆるクラスの優等生といった澱みのなさと真摯に伝えようとするピュアネスが魅力だろうか。フェアラブ時代にどのようなヴォーカルワークでステージに立っていたのかが分からないので比較することは出来ないが、声域はそれほど広くはなさそうだが、aiko「恋をしたのは」のカヴァーしかり、哀切や悲哀といった機微を声に乗せる才はある。

 また、「アカシ」の時には「明るい感じの曲なので、にこやかな笑顔で聴いて」、「恋をしたのは」では「しっとりとしたバラードなので、しっとりとした、アンニュイな顔で聴いて」、ラストの「エンドロール」の時には「〈映画みたいな恋愛〉をテーマに書いたので、映画の中に入り込んだような表情で聴いて」と観客に“注文”をつけていたが、そういった発想から鑑みるに、楽曲から物語性を読み取ったりする感受性は強そう。そういったところはオリジナル楽曲にも落とし込まれているのかもしれない。
 ただ、確かに耳馴染みのよい伝達力の高いヴォーカルではあるのだが、良くも悪くもクセがないので、枚挙に暇がないほど存在するギター弾き語りシンガー・ソングライターのなかで輝きを放つだけの、これぞ山添みなみと呼べるほどの強固なオリジナリティがあるかと問われると、やや物足りなさを感じるのも事実。詞世界なのか、楽曲性なのか、描写なのか、それらのバランスなのか……現在地から高みへと歩むためには、強烈な個性をどのように示していけるかが、今後の課題なのかもしれない。


 続いて、ラヴァーズ・レゲエ・アイドル・ユニットのFAREWELL, MY D.u.bが登場。山添がmiwaの「オトシモノ」(ギター弾き語りシンガー・ソングライターとしての流れからmiwaのカヴァー・選曲へ辿り着いたのだろうか)とスキマスイッチの「奏」のカヴァーを、金津美月が原田知世の「時をかける少女」のカヴァーを、それぞれソロで披露し、2人揃って「Good Day -S.A.L.A.D REMIX-」「染まってゆく」とフェアラブの曲のレゲエ・アレンジ・リミックス・ヴァージョンを歌った。

 金津美月の「時をかける少女」は、フェアラブの時とは異なる、良く言えば屈託のないアイドル然とした歌唱だったのだが、これは指示や意図があってのことか。アイドルがラヴァーズレゲエを歌ってみたらというコンセプトにならう形なのかもしれないが、個人的には平面的に聴こえてしまった。フェアラブとの棲み分けや差をもたらす意味合いもあろうが、フェアラブで次第に奥行きが出来つつある表情豊かな声色を見せているだけに、ややもったいないかなと個人的には感じてしまった。もちろん嗜好という部分も大きいので、どれが正解ということはない。むしろ、ここではアイドル然に振る舞う歌唱を徹底しているなら、そのように歌い分けている金津美月は、なかなかのプロだな(表現力の資質を有しているな)とも思える。

 アルバム『Girls Lovers Reggae Vol.1』収録曲に選ばれたフェアラブ楽曲「Good Day」「染まってゆく」は、元来音の隙間があるダビーでチルな作風ゆえ、レゲエ・アレンジとして粗方仕上がりの“成功”は予測出来ていたのだろう。2nd EP『GOLD』でスプリームス「ベイビー・ラヴ」(BABY LOVE)のダブ・ヴァージョン「BABY DUB」を発表するなど、レゲエへのアプローチも十分に培っていることからも、安心してチル出来る、夏らしいリラクシンな仕上がりだ。そこに応えるがごとく、山添と金津美月がフレッシュかつ明朗快活なヴォーカルで楽しげに歌っているのは良かった。



 山添みなみ、FAREWELL, MY D.u.bに続くゲストは、ガールズ・ラップ・グループのMIC RAW RUGA。完全な初見だったのだが、この時点では正式メンバー2名、研究生2名という構成。そのうちAKIRAがフェアラブのゆいかのダンス・レッスンのインストラクターとのこと。

 冒頭の「HOW RAW」は無骨を伴ったハードコアでエッジの効いたトラックで、それぞれがマイクロフォン・アピールを繰り出したかと思えば、続く「WONDERFUL WORLD」では00年代ガールズR&Bあたりのフックとナードなヒップホップ・トラックを融合させ、夜更けを感じさせるようなムードを創出し、「アウトラウド」では麗しい鍵盤の音色とタイトなビートによるジャズ・ヒップホップ的なアプローチと、なかなか音楽性も多彩。ガールズ・ラップというとゆるふわ系やJ-POPにラップ・パートを付加したタイプ、一方でハードばかりを焚きつけるなどスタイルに固執し過ぎる感のあるグループが少なくないが、このMIC RAW RUGAはそういった偏りは見えない。タイトに攻め込む曲から、ガールズならではの肌あたりの優しい浮遊感あるものや、アッパーでダンサブルなトラックまで、対応領域は広そうだ。

 鍵盤が映えるスウィートなメロディとともにチアフルなヴォーカルでオールナイトやごきげんようを叫ぶチルアウトな「SEEYOU(Let's Dance)」、パッヘルベルのカノンあたりを拝借して、流麗な弦と鍵盤が鳴るなかで快活なラップを乗せていく「Moon Reverb」、キュートな音鳴りを添えながらポジティヴで猥雑さ少ない颯爽としたガールズ・ラップを披露する「SUMMER OF LOVE」、グループのマイクリレーにマッチしたアグレッシヴでグルーヴィなトラックとフロウで展開する、ソリッドながらも跳ねるパーティ・アンセム「CONCORDE」などを聴くにつけ、音楽的な柔軟性とシンクロナイズした連帯性も窺えた。lyrical schoolやRHYMEBERRYあたりへの親和性も感じたが、後で調べたところ、プロデューサーは以前RHYMEBERRYや吉田凜音らを手掛けたE TICKET PRODUCTION(桑島由一)とのことで、なるほど合点がいった。

 MIC RAW RUGAのステージ終了直後には、フェアラブがステージインしてのトークセッション。カートゥーンアニメ『トムとジェリー』よろしく〈仲良くケンカしな〉的な、妹・ゆいかが懐くも姉・美月が思春期(反抗期)なのか“言うこと聞かない”妹を粗雑に扱いディスりながらも結局突き放さないで終わるという姉妹の仲の良さの話の流れから、MIC RAW RUGAのREIが世界で一番という仲の良い兄との溺愛ぶりに言及。海に行った時に兄に撮ってもらった写真を「兄に撮ってもらった」とのコメントを添えてTwitterに投稿したら、「お兄ちゃんは海で妹の写真を撮りません」というコメントがついたという話が秀逸だった。




 最後に満を持して登場したのが、主催のフェアラブ。「NAGOYA ZOO」「ByByByE」とアッパー・ダンサーが続くなか、スウィートで瑞々しさのある金津美月と人懐っこくも意外とパンチのあるゆいかというタイプの異なるヴォーカルを、動きの激しいパフォーマンスを繰り出しながらシンクロさせていく。“リブート”としてスタートした当初から比べて、垢抜けてもいて、安定感も増してきた。ステージを重ねると同時に、オフステージでの練習の成果が徐々に芽を出しているのだと思うが、それに姉妹ならではの絶妙のコンビネーションもプラスされているのだろう。おそらく一番歌っている曲の一つと思われる「gloomy girl」などには、その成果の跡がオーディエンスの目に確実に映っていたと思う。歌唱においては、声色に彩りをもたらすことの出来る姉・美月に一日の長があり、妹・ゆいかはそのあたりの表現力はこれからというところ。ただ、以前も言及したと思うが、「STELLA」でのラップ・パートなどで順応性が垣間見えるなど、姉にはない隠れた才を今後伸ばしていけると、よりコンビとして力を発揮出来るようになりそうだ。

 姉は心配半分、好奇心半分で妹を、妹は踊りを確かめるべく姉を、それぞれ時折チラチラと見遣るという微笑ましいシーンも散見。なんだかんだ言って、姉妹だからこその以心伝心は、他のグループ・アーティストにはない強みでもある。最後の「STELLA」の曲紹介を美月がゆいかに振った際、ゆいかの口から瞬時に曲名が出てこないと見るや、美月がスッと腰を下ろして「STELLA」の出だしの体勢をとってヒントを示したというのも、姉なりの機転だったか。
 そういった意思疎通力に、歌唱力をはじめ、詞世界の解釈や咀嚼力、表現力や描写力といったさまざまなアウトプットが備わると、新しいフェーズへと進んでいけるのではないか。そんな将来の“絵”も想起させるほどの、著しい成長曲線を発露させたステージとなった。



◇◇◇

<SET LIST>
《FAREWELL, MY L.u.v Section #1》
00 INTRODUCTION~プリティKiSS(BGM)
01 7 DAYS FOCUS
《山添みなみ Section》
02 サクラソウ
03 証(アカシ)
04 恋をしたのは(Original by aiko)
05 エンドロール
《FAREWELL, MY D.u.b Section》
06 オトシモノ(山添みなみ vocal only)(Original by miwa)
07 時をかける少女(金津美月 vocal only)(Original by 原田知世)
08 Good Day -S.A.L.A.D REMIX-(Original by FAREWELL, MY L.u.v)
09 奏(山添みなみ vocal only)(Original by スキマスイッチ)
10 染まってゆく(Original by FAREWELL, MY L.u.v)
《MIC RAW RUGA Section》
11 HOW RAW
12 WONDERFUL WORLD
13 アウトラウド
14 SEEYOU(Let's Dance)
15 Moon Reverb
16 SUMMER OF LOVE
17 CONCORDE
~FAREWELL, MY L.u.v ✕ MIC RAW RUGA Talk Session~
《FAREWELL, MY L.u.v Section #2》
18 NAGOYA ZOO
19 ByByByE
20 UP DOWN
21 HAPPY LIGHT
22 obsession
23 gloomy girl
24 STELLA

<MEMBER>
FAREWELL, MY L.u.v are:
金津美月(vo)
ゆいか(vo)

FAREWELL, MY D.u.b are:
金津美月(vo)
山添みなみ(vo)

山添みなみ(vo,g)

MIC RAW RUGA are:
REI(vo,rap)
AKIRA(vo,rap)
MIYA(研究生)(vo,rap)
HANNAH(研究生)(vo,rap)

◇◇◇



■ FAREWELL, MY D.u.b / Girls Lovers Reggae Vol.1(2022/07/19)
SCDF-034 SECOND FACTORY

1 奏
2 オトシモノ
3 時をかける少女
4 Good Day -S.A.L.A.D REMIX-
5 染まってゆく

◇◇◇

【FAREWELL MY L.u.vに関する記事】
2018/12/31 MY FAVORITES ALBUM AWARD 2018(「ブライテストホープ賞」の項)
2020/07/11 FAREWELL, MY L.u.v『DONT TOUCH MY RADIO』
2020/12/09 FAREWELL, MY L.u.v『GOLD』
2021/01/13 MY IMPRESSIVE SONGS in 2020
2021/12/04 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN
2022/04/17 FAREWELL, MY L.u.v / HALLCA @LOFT HEAVEN
2022/05/03 FAREWELL, MY L.u.v @恵比寿CreAto
2022/07/17 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN(本記事)

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