自ら“楽園”への飛躍を告げた、充実と芳潤のバンド・アクト。
不安や葛藤に苛まれながらもリリースに漕ぎつけ、自らを上昇気流へと導かんとする“テイク・オフ”アルバムとなった2ndアルバム『PARADISE GATE』（アルバム・レビュー→「HALLCA『PARADISE GATE』」）のリリース・パーティ〈HALLCA 2nd ALBUM「PARADISE GATE」Release Party "Road to Paradise" at GARRET udagawa〉が、東京・渋谷のGARRET udagawaにて開催。HALLCAのバンドには欠かせない盟友・クマガイユウヤをはじめ、ベースに高野逸馬、ドラムに多田涼馬、キーボードに和久井沙良、サックス / フルートに桑原真里音という腕利きを迎えたフルバンド・ワンマン・スタイルで、ラグジュアリーな音の粒に包まれたステージを展開した。
本公演は『PARADISE GATE』のリリースパーティということで、「Pink Medicine」を除いた同作収録曲8曲を軸にした構成。本公演もバンドマスターのクマガイユウヤを中心にしたバンド・アレンジが奏功し、音源とはまた異なる『PARADISE GATE』の別の顔を創り出していく。HALLCAをはじめ、バンドメンバーも80'sライクなバブリー・テイストなファッションを纏い、『PARADISE GATE』のリリースとライヴ開催を華やかに祝った。
いつもならばイントロダクションとなる「Diamond（Yohji Igarashi remix）」の出囃子から幕を開けることが多いが、今回は“楽園”という名の自らの飛躍の扉と題したアルバムのオープナーでタイトル・チューンの「Paradise Gate」からスタート。続いて、ライヴのラストやクライマックスになることが多かった、軽快なギターとゴリゴリのベースとの掛け合いに波打つクラップが絡み、リズミカルに快哉を生むキラー・ダンサー「WANNA DANCE!」を早々に持ってきたことからも、同曲に頼らずとも“勝負”出来る楽曲が積み重なっていることが窺える。
ただ、確かに『PARADISE GATE』収録曲が軸とはなっているのだが、その合間に組み込まれてくる既存曲の存在の大きさも感じられた。バンドが鳴らす上質なグルーヴに背中を押されるかのように高揚感をより導き出すアレンジで自身のキーボードソロを披露した「Dreamer」をはじめ、清流のような麗らかさと力強さを併せ持った和久井沙良のキーボードが先導役を務めた「Utopia」、本編ラストを飾ったリリックよろしく“魅惑のジュエリー”ライクな煌めきを振り撒いた「Diamond」といった楽曲群が、“PARADISE GATE”の骨子となって、ステージの高揚とエレガントな薫風をいざなっていく。特に「Utopia」は（個人的にはそれほど思い入れを持ってはいなかったが）、推進力あるビートを刻む力感を持ったリズム隊と、和久井沙良の瑞々しい鍵盤に桑原真里音の妖艶なサックスが高いレヴェルで融合。その「Utopia」から「Spiral」への展開は、本公演の白眉といえる。
その“骨子”に肉付けされた『PARADISE GATE』楽曲はそれに応えつつ、バンドによって新たな表情を生み、洗練された空間を醸し出していく。それが最大限に結実したと思われるのが、バンドメンバーソロを組み込んだ「Spiral」やアンコールで披露された「Labyrinth」だろう。「Spiral」ではソフィスティケートに寄せたジャズ・ファンクなグルーヴで洒脱と躍動を呼び起こし、「Labyrinth」ではアダルト・フュージョンなアプローチに近づきつつもポップネスを失わず、甘美で濃密な“艶”を演出。そのほかでも、コケティッシュなkiarayuiのオリジナルとは異なるハッピー・ジャズ・テイストなアプローチとなった「Strawberry Moon」では、テンポ・チェンジによる“遊び”をここでも活かして愉悦を生み、大胆な転調で2000年代R＆Bからスムースなメロウ・ソウルへと繋ぐ「Fall Back Asleep」では、推進力あるドラムのビートやフットワークある軽快なグルーヴィなギター、ふわっとした薫香が漂うフルートなどをアクセントに、R＆B特有の浸っていくようなムードに没入し過ぎないアレンジで、バンド・セットならではの珠玉の音を鳴らした。
特にキーボードとサックス（フルート）を配したことは大正解で、（正直なところ、バックコーラスがあればより世界観を突き詰められたとは思うが）HALLCAの楽曲の引き出しの多さや懐の深さが明快な形で描出されたパフォーマンスに。これもHALLCAの世界観を知り得ているクマガイユウヤのプロデュースが活きている証左といえるだろう。
さて、『PARADISE GATE』収録曲を軸とした本公演だが、それが単なる『PARADISE GATE』のリリース・パーティではなかった。というのは、前述した“既存曲の存在の大きさ”を感じると共に、HALLCAとしての足跡を再確認した楽曲をセレクトしてきたことにある。本編終盤にてクマガイユウヤのギターとのデュオ編成で披露した「Milky Way」と、大塚愛の「桃ノ花ビラ」のカヴァーがそれ。「Milky Way」では、オーディエンスにスマホのライトを点けてとせがんで、HALLCAがずっとやりたかったというスマホライトによる“天の川”をフロアに創り出してもらいながら、天の川での織姫と彦星の逸話になぞらえてファンとの再会を願ったという想いをしっとりと歌唱。大塚愛の「桃ノ花ビラ」は、HALLCAが歌手となる原点となった楽曲ということでのカヴァー。原曲は『PARADISE GATE』の世界観には沿わない印象だが、そこはクマガイユウヤによるHALLCAのパーソナルな部分にフォーカスを当てたというロッキンなテイストをはじめとした多様なアレンジメントで演じ切った。あと1曲でアルバム全曲披露ながら、「Pink Medicine」を構成から省いてまでこの2曲をピックアップしたのは、ライヴ・タイトルにもなった“Road to Paradise”（楽園への道）に向かうに当たり、自身が歌手を志す出発点になった楽曲を披露することで、歌うことへの強い想いをいま一度再確認したかったのかもしれない。
アンコールラストは、『PARADISE GATE』のオープナーとなった「Precious Flight」。“理想にはまだ遠いけど 君がいればprecious!”というリリックにあるように、自身が目指す理想（＝Paradise）にはまだ道半ば、というより“扉”を開いたばかりだが、自身の楽曲を愛してくれるファンたちとともに飛び立っていきたいという想いを込めたのだろう。そんなメッセージを携えながら、微笑みに溢れるパフォーマンスに終始したのは、不安や葛藤から解放されつつある心境と『PARADISE GATE』で得た自信への実感がそうさせたのだとも思えた。
久しぶりのフルバンド・ワンマンライヴということで緊張していたというが、確かな腕利きのバンドメンバーに支えられ、笑顔を絶やさずのハッピー・エンディング。コロナ禍で不安な日々が続くが、“PARADISE GATE”の先にある“Wonderful Daysを夢見て”走り続けたい……というHALLCAらしいい真摯な想いが伝わる80分となった。
◇◇◇
＜SET LIST＞
01 Paradise Gate （*PG）
02 WANNA DANCE!
03 Twisted Rainbow （*PG）
04 Sweet Pain （*PG）
05 Dreamer
06 Strawberry Moon （*PG）
07 Fall Back Asleep （*PG）
08 Utopia
09 Spiral （including solo performances by band members）（*PG）
10 Milky Way （duo performance with Yuya Kumagai）
11 桃ノ花ビラ （Original by Ai Otsuka）
12 Diamond
≪ENCORE≫
13 Labyrinth （*PG）
14 Precious Flight （*PG）
（*PG）：song from album“PARADISE GATE”
＜MEMBER＞
HALLCA（vo,key）
クマガイユウヤ（g / Band Master）
高野逸馬（b）
多田涼馬（ds）
和久井沙良（key）
桑原真里音（sax,fl）
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