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『MICHAEL』について(2)

■ 『MICHAEL』レヴュー

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 2010年12月15日にリリースされたマイケル・ジャクソンの“新作”『マイケル』のレヴューを。歌声疑惑、クインシー・ジョーンズやウィル・アイ・アムをはじめとする「リリースすべきじゃなかった」といった批判もあるなかでのリリース。「完全主義者のマイケルの賛同がない作品の発表には反対」というウィルの意見も非常に解かるが、ファンとしては未発表でも聴きたいというのも本音だろう。
 アルバム全体の印象は、前回の記事“『MICHAEL』について(1)”で述べたとおり、楽しめるアルバムではあるとは思うが、アルバムとしての完成度はそれほど高くない。未発表曲はあくまでも未発表となるだけの理由があるのだということか。それは決して質が低いということではないが、リリースに足らない楽曲の寄せ集めは、現存のオリジナル・アルバムに比肩しないのは致し方ないというところか。

 オープナーはリード・シングルにもなったエイコンとのデュエットによるアーシーなミディアム・スロー「ホールド・マイ・ハンド」(Hold My Hand)。2008年に未完成ながらリークされてしまったといういわくつきの曲で、大地と子供たちの笑顔が想起されるような微笑ましく温かみのあるバラードだが、少々エイコン色が強いか。プロデュースはデュエットしたエイコン、プロデュース補がマイケル・ジャクソン。
 
 個人的な印象としてリード・シングルにして欲しかったのが次曲「ハリウッド・トゥナイト」(Hollywood Tonight)。プロデュースはテディ・ライリー(Teddy Riley)。中世のヨーロッパの(東欧的な)教会歌イントロから“チコチコ”というマイケルのヴォイス・パーカッションを活かしたアッパーで、シンセとホーンが活力を持って進んでいく。ブリッジでのスポークンはテディが書き、タリル・ジャクソンが担当。

 「キープ・ユア・ヘッド・アップ」(Keep your head up)はマイケルとエディ・カシオ(Eddie Cascio)、ジェイムス・ポルテ(James Porte)との共作。プロデュースはトリッキー・ステュワートで、マイケルの瑞々しいヴォーカルがバックヴォーカルとともに隅々へ澄み渡るスケールの大きなミディアム・スローだ。クライマックスはゴスペル風クワイアとクラップにより高みへとせり上がる。

 「(アイ・ライク)ザ・ウェイ・ユー・ラヴ・ミー」( (I Like) The Way You Love Me)は『アルティメイト・コレクション』のディスク4の14曲目に収録されているので、タイトルとしては未発表ではないか。電話でのマイケルの声をイントロに配したアレンジで、モータウン期を想い起こさせるチャーミングなミッドとなっている。プロデュースはセロン“ネフ-U”フィームスターとマイケルの共作。既に収録されていたということで、未発表曲のなかでは一番“発表曲”に近かったナンバーなのかもしれない。

 “アーッ!”という女性の叫び声や野獣のような鳴き声など織り込んだ「モンスター」(Monster)は、テーマとしては「スリラー」の続編といったところか。50セントのハードで野性味溢れるラップをフィーチャーした、テディ・ライリー、エンジェリクソン(Angelikson)とマイケルのプロデュース曲で、力強いヴァースから前が開けていくような拡張感ある清々しい歌唱を伴ったコーラス・パートへと移る展開が、マイケル後期のテディ作品らしい。クレジットには映画『ディス・イズ・イット』で好演奏をみせたオリアンティの名も。

 「ベスト・オブ・ジョイ」(Best Of Joy)は制作中の最後の作品群のひとつで、2009年夏のO2アリーナでのコンサート時に滞在先ロンドンで仕上げようと計画していたらしい。セロン“ネフ-U”フィームスターとマイケルが共作、ブラッド・ブクサーがプロデュース補に名を連ねた。“I am forever~”のファルセットが愛らしく伝わる、シンプルなギターと清爽なサウンドが特色のミディアム・バラードだ。 

 当アルバムを冗長なものにしないための支柱となったともいえるのが、テディ・ライリー、エディ・カシオ、ジェイムス・ポルテとマイケルによる「ブレイキング・ニュース」(Breaking News)。ニュース放送が次々とマイケルの日常を伝えていくといった風の演出から、“みんなはマイケルの一部を知りたがってる、レポーターはマイケルの動向をストーキングしている……”という衝撃的な独白からスタートするシリアスなナンバーだ。2007年にニュージャージーの自宅でレコーディング。

 レニー・クラヴィッツを迎えた「(アイ・キャント・メイク・イット)アナザー・デイ」((I can't Make It) Another Day)は『インヴィンシブル』のデモとしてレコーディングされた。だが、2008年にリークされてしまったことから、2004年にレニーのアルバム『パプティズム』に「ストーム」として収録された経緯があった楽曲。エッジーなギター・サウンドをバックに、叫ぶマイケルとクールなレニーのヴォーカルという対照的に掛け合うコーラス・パートが印象的だ。

 YMOが1979年に発表した『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』(Solid State Survivor)収録曲を元ネタにしたカヴァーが「ビハインド・ザ・マスク」(Behind The Mask)。マイケルとクインシー・ジョーンズがYMOのオリジナル曲を気に入り、補作した形のカヴァーとして『スリラー』に収録予定だったが、結局未発表のままだった曲。当時YMOがマイケル側に許可を出さず、という話も。当時の録音音源をジョン・マクレーンの制作過程を経て、マイケルの未発表新曲となった訳だ。作家にはマイケル・ジャクソン、クリス・モスデルに、坂本龍一の名前もクレジットされている。ジョン・マクレーンとマイケルのプロデュース。ヴォコーダーの部分は、YMO演奏の音だと思われる。サックスのソロ・パート・イントロから幕を開けるライヴ風のアレンジによって、時代感というか古めかしさを消すことに成功している。

 ラストの「マッチ・トゥー・スーン」(Much Too Soon)は、『スリラー』期に書かれた楽曲。マイケルとジョン・マクレーン共作のハートウォームなミディアム・バラードで、ソフトタッチのヴォーカルが秀逸。安心感が漂うサウンドは、ギターとハーモニカが一役買っているところが大きい。美しく心潤う名曲だ。



Mj_tii 全体としては佳曲は多いが、飛び抜けた傑作級の楽曲はなかったという印象か。それでも「ハリウッド・トゥナイト」「モンスター」といったノリのいいアップや、「ベスト・オブ・ジョイ」「マッチ・トゥー・スーン」などの愛=LOVEを湛えた中後期作風のナンバー、さらには「ブレイキング・ニュース」でスリリングな面を、「ビハインド・ザ・マスク」で煌びやかな面を、とヴァラエティには富んでいる。並みのアーティストならば、それこそ問題ないレヴェルのクオリティだろうが、そこはマイケル。既に発表された楽曲群の質との対比といった点で考えると、いまひとつインパクトが足りないと感じなくもない。埋蔵金のようにどれだけ凄い楽曲が眠っているのかと事前に思い描いていればいるほど、その物足りなさは付いて回るかもしれない。まぁ、元来は未完成だった、あるいはアルバム収録から外れた楽曲だ。未完成だからこその可能性とレアアイテムとしての希少性とを探りながら聴く……というのが、現時点での楽しみ方と捉えるのが良いのかもしれない。

 テディらは「まだ発表出来るストックがあり、次作の準備を進めている」という。過剰な期待を持たずに、そこはかとなく待つくらいのスタンスで見守るか。さらには、改めて既発曲を聴き、その衝撃度をいま一度噛み締めるというのも、未発表曲シリーズを堪能するもう一つの手段となり得るかもしれない。
 
 
 
 
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