三密1
(枕)
このご時世でございます。私が住んでおります辺りでは毎日区役所の宣伝カーが「不要不急の外出を控えましょう」とか、「三密を避けましょう」などと、上の空で聴いておりますので、細かい事はすぐに頭から抜け落ちる。いや髪の毛ぇの話やありまへん。
(本題)
○「和尚さんちょっと聴かせて頂きたい事おましてな、ホンで来さしてもらいました」
和「○さんかいな?何やえらい殊勝な顔しなさって、なんか悩みでもおますんか?」
○「いや、ちょっとツレに聞くのも体裁わるいんで、物知りの和尚さんにお伺いしょう思いまして」
和「わかる事ならどうにかお話出来る思います。まずは何を聴きに来なさった」
○「三密という事お聞かせ頂き…」
和「偉い!」
○「ぁ…びっくりしますがな。急に大きな声だしはって、お気に障る事言いました?」
和「いやいや怒っている訳やない。○さんから三密の事を尋ねられるとは今日ほど嬉しい日はない…」
○「別に泣かんでも…」
和「では三密の事出来るだけわかりやすくお話しましょう。三密のもとになるのが身口意(しんくい)の三業と申し中々難儀なもので」
○「そうそう、大家さんとこの前栽の松もシンクイムシにやられまして枯れてしもた」
和「カミキリムシの幼虫の話じゃない。身体を使ってすることと、口から出る言葉、それが人の心がもとになっているという話で、それを三業と申します。業が深いとか因業な人とかの業やな」
○「大家さんみたいな人の事でっか?陰でみんなであの因業ジジイと褒めてますけど」
和「話してる先から業を積んではいけません。悪口は口の業の一つです。口業といえばほかに妄語とか綺語とか両舌などと言いましてな」
○「何や難しなってきました。噛んで含めて教えておくなはれ」
和「難しなりましたか?悪口のほかに、人をだます言葉、知ったかぶりする言葉を妄語と言い、綺語とはしょうもない話の事、両舌とは二枚舌の事でな」
○「ほな、妄語たらと両舌は一緒でっか?」
和「そうじゃないそうじゃない、二枚舌は今では単に嘘をついてだます事に使われていますけどな、本来は仲の良い人を仲違いさせる言葉のことですわ」
○「そうでっか?勉強になりましたわ」
和「それでな、身業というのは身体でやる悪い事でな、してはならない事の一番は人を殺す、それを殺生といい、物を盗む、それを偸盗と言います。また浮気したりしてつれあいを泣かすとか、セクハラなど道ならぬ色事をすること、それを邪婬と言いますのじゃ。人としてしてはならない事をすることですわ。それでな、身体と言葉の業はな、全て心から起こります。貪瞋痴の三毒のことで貪というのは欲張って物を欲しがったり物惜しみすることで、瞋とは平たく言えば怒ること、痴とは世の中の道理が分からぬこととでも言うておきましょう」
○「…三密はどこ行ってしもたんですか?」
和「ここまでが前置きで、ここからが三密ですわ」
○「えらい長い前置きで…」
和「これだけ話しておかんと三密のお話はできませんので、修行いうか業を積まぬように振る舞い、物を言い、心をちゃんとおさめれば、思わず知らずにいずれは良い行いが身につき、思いやりのある話ができるようになる。業が大きな知恵に変わるという事です。仏道修行より毎日のお仕事をこなして行くことの方が三業を三密に変える修行になります。まあ修行される方は、転識得智して即身成仏されてお悟りを開かれたなら三業は自ずと三密に転ずると……」
○「そこまでで結構でございます。また難しなりそうですので、続きはまたの機会に聴かせていただきます。ありがとうございました。。良いお話を聴かせていただきました」
(帰りの道での独白)
……(お寺でええお話聴かせて頂いて心が洗われたようないい気持ちになったわ……あれ?なんか分からんけど……な〜んかしっくりせんな、あ、そうや。役所の宣伝カー、確か三密を避けましょう言うてた。なんでや?あ、頭こんがらがってきた。ケーキ屋のきっちゃんに相談しょ。きっちゃんあれで案外物知りやねん)
(三密2に続きます)
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