(少し前の記事ですが)日本の水道民営化に大手監査法人出身の人が暗躍していたという記事。
「コンセッション(民間企業への運営委託)という名の公共事業の民営化。その旗振り役が、「未来投資会議」委員の竹中平蔵東洋大学教授(元総務大臣)であり、その懐刀である前官房長官補佐官の福田隆之だ。
竹中が参画する未来投資会議は、第二次安倍晋三政権で設置された産業競争力会議をパワーアップさせた政府委員会で、議長は日本経済再生本部の本部長を兼務する内閣総理大臣の安倍晋三。小泉純一郎政権のとき、オリックス会長の宮内義彦とともに規制改革の司令塔と呼ばれた竹中が、安倍政権でも再び同じ任を担う。ちなみに竹中は、関空コンセッションの中心であるオリックスの社外取締役を務めている。
この竹中の腹心である福田もまた、関空コンセッションのアドバイザー企業「新日本有限責任監査法人」検討チームのリーダーだった。そこを外されたあとの2016年1月、官房長官補佐官に抜擢され、関係者を驚かせた。
そんな竹中・福田ラインが、空港とともに旗を振ってきたもう一つの目玉政策が、上下水道のコンセッションである。ひと足先に昨年4月、下水道コンセッションが静岡県浜松市でスタート。上水道コンセッションが遅れたのは、水道法の改正が必要だったからで、昨年末の臨時国会で審議入りし、物議を呼んだのは記憶に新しい。」
ところが、この福田氏は、昨年11月に突如辞任したのだそうです。内部告発的な文書も出回っているそうです。海外の水メジャー(ヴェオリアやスエズという会社)とも関係があるのではないかといっています。
「道路や空港、水道など社会資本整備のための公共施設の財産価値をインフラ資産と呼ぶ。その中で利用収入を伴う日本のインフラ資産は185兆円とされ、うち水道資産は120兆円と突出している。下水道が80兆円、上水道が40兆円だ。
水メジャーにとって120兆円のインフラ資産のある日本の水道市場は、まさに垂涎の的といえる。民営化される日本の水道市場に舌なめずりする世界の水メジャーにとって、キーマンへの歓待などは安い御用に違いない。未来投資会議などを通じ、水道コンセッションを進めたのが、竹中・福田ラインなのは、念を押すまでもない。」
浜松市の上下水道事業や、静岡や北海道の空港事業への関わりなどについてふれています。
この福田氏は、新日本を辞めた後は、関係が冷たくなったようです。
「国交省では2016年中に7空港のコンセッション計画案を作成。ところが、そこへ竹中・福田ラインの横やりが入ったという。先の政府関係者が苦笑いした。
「あとはコンセッション事業者を募ればいい、という段階にまで来ていました。政府のアドバイザー企業には関空を手掛けた新日本監査法人が決まっていたのですが、福田氏は自分が辞めたあと、特定の監査法人ばかりがやるのはおかしい、などと言い出し、そこから振り出しに戻ってしまった。そうこうしているうち、竹中さんが未来投資会議で5原則のコンセッション方針を打ち出してきたのです。通称、竹中5原則と呼ばれ、これにより計画が1年近く遅れました」
それが2017年2月19日の未来投資会議構造改革徹底推進会合。竹中の提案した5原則をわかりやすくいえば「7空港一体の枠組みの共有」「公平な入札」「提案や要求水準を遵守しない場合の契約解除」「民間の経営力と統合効果による成長」「管理者による出資の原則禁止」だ。それらは、さほど珍しい提言でもない。」
いずれにしても、大手監査法人にこういう「大物」がいたとは知りませんでした。監査法人も、せっかくの中立性を捨てて、ロビイング業務に精を出しているということなのでしょう。
これまでの経緯は、こちらの記事の方がわかりやすいかもしれません。
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水道民営化促進で内閣府に出向した人の正体(2018年12月)(東洋経済)
「水道法改正の背景が怪しい――実は今年10月末に、そのような話を耳にした。11月9日に菅義偉官房長官の大臣補佐官を辞任した福田隆之氏をめぐる怪文書がきっかけだ。
福田氏は野村総合研究所で国が初めて実施した国家公務員宿舎建て替えのPFI(Private Finance Initiative、民間資金、運営で公共サービスの提供を行う)案件を担当した。2012年からは新日本有限責任監査法人のインフラPPP(Public Private Partnership、公民の連携で行う)支援室長としてコンセッション関連アドバイザリー業務を統括した。
そのような福田氏が内閣府大臣補佐官に就任したのは2016年1月で、PPP/PFIの活用を盛り込んだ「『日本再興戦略』改定2015」が閣議決定された5カ月後のことだった。」
「そればかりではなく、不透明な問題も持ち上がった。そのひとつが上記の福田氏の突然の辞任であり、もうひとつがヴェオリア社の女性社員が内閣府の「民間資金等活用事業推進室」に政策調査員として2017年4月1日から2019年3月31日までの予定で出向していることだ。ヴェオリア社はフランスの多国籍水処理企業で、世界で上下水道の民営化を扱って成長してきた。この出向者の任期はまさに水道民営化のための審議の期間に重なっている。
これを明らかにしたのは11月29日の参議院厚生労働委員会で社民党の福島瑞穂参議院議員。
「もっともこの法案で利益を得る可能性のあるヴェオリア社、水メジャーですよね。まさにその担当者がPPP推進室にいる。これって受験生が採点者になって、自分の答案をこっそり採点しているようなものではないですか」」
似たような切り口の記事。
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水道事業に民間参入を促そうしているのは誰なのか。内閣府PFI推進室を巡る利権の構造(2018年12月)(ハーバービジネスオンライン )
「PPP/PFI推進室には、「PFI推進委員会」という会議体が設置されているが、その委員・専門委員には、研究者や専門家などとともに、PFIを推進するコンサルタント企業のメンバーも多く含まれている。例えば、黒石匡昭氏(新日本有限責任監査法人・パブリック・アフェアーズグループ)、下長右二(パシフィックコンサルタンツ・事業マネジメント本部PPPマネジメント部部長)氏、福島隆則(三井住友トラスト基礎研究所)氏、村松久美子(PwC あらた有限責任監査法人電力ガスシステム改革支援室)などである。
黒石匡昭氏が属する新日本有限責任監査法人とは、ロンドンに拠点を置くEY(アーンスト・アンド・ヤング)を中心とする企業グループである。EYは「世界の4大会計事務所」の一つであり、イギリスの水道民営事業で会計監査を行った経験もある。国際市民社会からは、グローバル企業のためのロビー活動を進めるコンサル企業として常にチェックされているような企業である。黒岩氏はインフラストラクチャー・アドバイザリーグループの責任者として、政府と自治体のPFI/PPPを強く推進するポストに就いている。前述のスキャンダルが取り沙汰された福田隆之氏も、この新日本有限責任監査法人の出身であることは偶然ではないだろう。
その他にも、PwCあらた有限責任監査法人はやはりロンドンを拠点する世界有数のコンサルティング会社の日本法人であるなど、PFI推進委員会での外資系コンサル企業の存在が際立つ。
もちろん、コンサル企業の人間がPFI推進委員に入ること自体はあり得る話だ。しかし問題は、他の各種審議会でも見られるように、公共の立場からPFI推進をチェックし、適正な歯止めをかけるような委員がほとんどおらず、著しくバランスに欠けている点だ。国民はこのような審議会や委員会のメンバーを選定することができない。公正で客観的な判断がなされるような委員選定は不可欠である。「とにかく民営化・PFI推進」という流れを誰も止められないような委員会は「お手盛り」と批判されても当然である。
さらに問題がある。内閣府PPP/PFI推進室は、2016年から「上下水道コンセッション事業の推進に資する支援措置」として、自治体から申請を募り、専門コンサルによってコンセッションの導入の可否を調査するスキームを行っている。いわば「自治体のPFI導入の是非を専門家に診断してもらう」という内容だ。これにかかる調査費は全額国が支給する。つまり私たちの税金で調査が行われる。このスキームには、これまで浜松市や宮城県、奈良市などが申請し調査も実施された。
ところがこの調査を請け負ったのは、前述のPFI推進委員が所属する企業なのである。その結果はもちろん「PFIを実施すべき」という報告書となった。例えば、浜松市におけるPFI導入調査は、新日本有限責任監査法人が1億3000万円の調査費で受託している。本来であればPFIの実施について公共性・中立性を保ちながら進言するべき立場の推進委員会に、コンサルとして多額の調査を受注している企業の人間が含まれており、実際に調査を受注していることは、公平性・平等性という点で問題である。入札によってこの調査は発注されているが、そもそもPFI/PPPについての専門的な調査をできるコンサル企業は限られている。これら少数の企業によって調査費が分配され、自治体にはPFI推進のお墨付きが与えられ、そして水道企業が利益を得ていくという構図なのではないか。」
水道「民営化」の海外失敗例、調べたのは3例のみ(朝日)
安倍政権、「水道民営化」強行で国民の命を危険に…海外では料金高騰や水質悪化で死者も(2018年11月)(Business Journal)
これは比較的中立的。
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水道事業の民営化で水の安全が脅かされるという話の虚実(2018年12月)(Newsweek)
「水道民営化については、水道事業そのものが民間に売却されるとの誤解があり、一部、メディアもそうしたトーンで報道を行っているが、売却されるのは運営権だけで、水道インフラそのものが民間の所有物になるわけではない。したがって、企業の都合で突然、水道がなくなるといった事態までは心配しなくてもよいだろう。だが、民営化すればすべてがバラ色というわけにはいかないのもまた現実である。
すでに多くの自治体で水道事業の維持が困難になっているという現状を考えると、仮に民間企業がコスト削減を行っても限界がある。過疎地域を中心に、結局は水道料金が上がってしまう可能性は高いと考えられる。災害時において民間企業がどの程度まで対応できるのかについても未知数だし、そもそも規模の大きい自治体でなければ黒字運営自体が難しく、事業を引き受けてくれる企業が現れるのかという問題もある。」
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