昨日紹介した週刊エコノミストの「これから勝てる税理士・会計士」という特集は、いくつか無料記事もあるようです。そのうちのひとつ。
大手監査法人から準大手・中小へ監査先が流出している最近の傾向を紹介したうえで、金融庁の金融審議会・公認会計士制度部会報告書で、上場会社監査事務所登録制度法制度化が提案されたことにふれています。
議論になっているのは、登録する事務所の社員(パートナー)数の下限の問題です。
「上場企業の監査を担う監査法人の下限人数については、多くの公認会計士には影響がない。というのは、現行でも、監査法人は存続に5人以上の公認会計士が必要だからだ。ただ現在は、上場企業の監査を個人の公認会計士が他の個人事務所や中小監査法人と共同で実施することがあり、このようなケースで今後、「上場企業の監査ができなくなる」と懸念する声があった。
日本公認会計士協会によると、登録が法制化された後も激変緩和措置として、個人の公認会計士による上場企業の監査はできるという(監査には最低2人の公認会計士が必要)。」
「中小監査法人にとっての問題は今後、公認会計士最低「5人」という人数を増やそうという動きがあることだ。関係者によると、行政側には「人員が確保できていない監査法人のクライアントが会計処理で問題を起こす」という不信感が根強く、「7人」や「20人」への引き上げを求める意見もあったという。今回の制度改正では、激変緩和措置として、現状の監査法人の最少人数である「5人」から上場企業の監査を認めたともいえる。しかし、報告書では最少人数を「見直すことが考えられる」と明記している。」
「都内で中小監査法人に勤める公認会計士は「今回は上場企業の監査要件が『5人以上』になったので影響はないが、今後『7人』や『20人』が必要になれば、業界で再編が起きるかもしれない。不安とチャンスが入り交じる複雑な心境」と打ち明ける。」
個人会計士による上場会社監査は、監査法人化が進んで、10社にとどかない程度になっているようです。登録制度により、やがてゼロになるのでしょう。
また、この記事ではふれていませんが、協会倫理規則で強化される報酬依存度15%ルールの影響も大きいでしょう。15%を超えた状態が一定年数続くと、監査できないことになっています。また、そこまでの年数になっていなくても、報酬依存度基準オーバーになっていることを開示しなければならなくなるので、それを嫌うクライアントから契約を切られたり、新規顧客獲得が難しくなったりして、該当する事務所は成長が見込めなくなります。
大手・準大手にとっては、ほとんど関係のない問題ですが(契約を打ち切りたいときに駆け込み寺になってくれる事務所が減ることぐらい?)、中小監査法人の下位層のうち上場会社監査に依存している事務所にとっては、大問題です。
これも特集の記事。中小だけが問題なのではないという趣旨のようです。
中小だけでではなく、大手監査法人も〝見逃した〟企業の不適切会計=編集部(エコノミスト)
「同社(グレイステクノロジー)の会計監査を担当していたのは、ビッグ4の一角であるEY新日本。2016年のマザーズ上場時から担当していた(当時は新日本)。新日本はIPO(新規株式公開)監査では業界トップの実績がある。弁護士らによる調査報告書では、新日本がグレイス側に取引先との残高確認ができていないケースについて、関連売り上げを取り消さないと監査意見を出すのは困難と警告した、として一定程度、疑義を唱えていたことがうかがえる。しかし、結果としてグレイスの不適切会計を“見逃した”ことには変わりない。
新日本は本誌の取材に対し「個別の案件については回答を控えさせていただきます。資本市場を支える番人として、引き続き監査品質の向上に努めてまいります」とコメントする。」
「不適切会計の中には、投資事業のアジア開発キャピタル(アスカが担当)など中小監査法人が監査していた事例もあるが、製造業支援のアウトソーシング(トーマツが担当)、次世代教育事業のEduLab(エデュラボ)(あずさが担当)は、大手監査法人が監査していた。」
元会計士の細野氏へのインタビューもあります。
監査のプロなら粉飾を見破れ=細野祐二(エコノミスト)
細野氏が人質司法でひどい目に遭ったというのは同情しますが、自分もキャッツ事件で監査をしくじったことを認めた上でないと、説得力に欠けます。
(電子書籍版)