監査法人トーマツが監査人を期中退任したベクター(東証スタンダード)のプレスリリース(2023 年 5 月 16 日)。
トーマツから指摘されていた法令違反等事実について調べさせていた特別調査委員会の調査報告書を公表するとのことです。
詳細には読めていませんが、結論としては、トーマツ(報告書では「前会計監査人」)が指摘した取引について、特に問題はなかったということのようです。ただし、一部の適時開示の不備は認めているほか、トーマツへの対応もよくなかったといっています。
調査のきっかけは...
「1 当委員会の設置に至る経緯
株式会社ベクター(以下「ベクター」という。)は、2023年2月9日付けで、前会計監査人より、「金融商品取引法第193条の3第1項の規定による、財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれのある法令違反等事実の通知」(以下「本件通知」という。)を受けている。このような本件通知に記載された事実関係について、客観的な事実関係を明らかにするとともに、管理体制に問題がなかったか否か等を明確にするために、同年同月16日付けで、独立した外部の有識者で構成される特別調査委員会を設置した。」
トーマツが問題提起した取引は...
「1 不正な資金流出及び資金還流の疑義について
不正な資金流出及び資金還流の疑義を呈されているのは以下の取引である。
⑴ ベクターの甲社に対する蓄電池保証金1億5千万円の支払(以下「本件疑義①」という。)
⑵ 甲社のECに対する業務委託報酬1億円の支払(以下「本件疑義②」という。)
⑶ ベクターの甲社に対する太陽光発電所保証金8千万円の支払(以下「本件疑義③」という。)」
(ちなみに、ベクターの2023年3月末の総資産は、約8億円です。)
報告書の中で頻繁に出てくる「EC」というのは、ベクターの現在の社長が代表取締役であり株主である会社です。
「ECは2022年3月に設立された、有価証券の保有、運用及び譲渡等を目的とした株式会社である。東京都新宿区に本店を置き、代表取締役及び株主は前記渡邊氏である。ECにおいては、M&Aやコンサルティング業務が中心業務であり、2022年10月21日にベクターの執行役員に就任した花田氏は、同社のCOOである(以下、ECのCOOとしての立場の花田氏を「EC花田氏」、ベクターの執行役員としての立場の花田氏を「花田執行役員」ともいう。)。 」
甲社は、 太陽光発電関連の事業を行っている会社です(太陽光というだけで少しあやしい?)。ベクターの増資割当先の親会社でもあるようです(報告書23ページ)。
甲社に支払った資金がベクターの社長の会社であるECに還流したようにも見えますが、それぞれ別個の取引で、合理性があるものだという結論のようです(詳しくは報告書参照)。ただし、1億円の報酬に関連して、「総事業費680億円の巨額の本件発電所」まで登場し、むしろあやしさが増しているようにも感じられました。
そして1億円の根拠となった契約書に関しても...
「本件業務委託契約の両者押印済みの契約書を確認したところ、同契約書の日付けが「令和3年10月1日」となっていたが、そもそもECが令和4年3月14日に設立され令和3年10月1日には未だ存在しない法人であり、関係者からのヒアリング及び登記情報から総合的に考えても、これは「令和4年10月1日」の誤字であることは明らかである。」
無理矢理、問題がないかのようにこじつけています(1億円の契約書がそんなにずさんでいいのか)。
(仮に違法な支払いでなくても、消費者が負担している再エネ賦課金がこんなところに回るとすれば、腹立たしいことです。)
トーマツへの対応がまずかったという点については「 違法行為がなかったにもかかわらず本件通知を受けるに至った原因 」という項目で書いています(報告書28~31ページ)。
トーマツの後任(会計士2名)が、この調査報告書を信じて監査するのかが注目されます。また、当局も当然この調査報告書を見るでしょうが、何らかのアクションを起こすのかどうか...