東芝粉飾事件で旧経営陣を刑事訴追するかどうかについて、金融庁の証券取引等監視委員会と検察当局が対立しているという件のやや詳しい記事。
「関係者によると、監視委はこの間(調査を続けていた間)、告発を受理する検察当局とやり取りをしながら、田中元社長を任意聴取するなどしてきたという。検察は当初から立件について慎重姿勢だったが、今月に入り「証拠上、疑問点が多く、立件は困難」との見解を監視委に伝えた。
これに対し、監視委は検察が疑問を示すパソコン事業の「Buy(バイ)-Sell(セル)取引」の違法性などへの反論を伝えた。さらに「報道でバイセル取引が違法ではないかのような誤解が広がっている」(金融庁関係者)として、バイセル取引の違法性についての監視委の見解を発表しようとしたが、「検察と対立していると誤解される可能性がある」(同)として直前になって取りやめた。」
会計士や大学教授のコメントも出ています。
「「粉飾決算」などの著書がある公認会計士の浜田康氏は、「一時的に得られる『未実現利益』を計上してはいけないのは会計の常識。四半期末に部品の販売を増やして、利益をかさ上げするのは明らかな粉飾」と断じる。「刑事訴追されないなら『今期だけごまかして、しのげばいい』と、同様手法で利益計上する会社が出てくる可能性がある」と懸念する。
青山学院大学の八田進二教授(会計監査)によると、かつて今回のような取引は多くの会社で行われていたが、今はほとんどないという。「会計的には粉飾の一丁目一番地で、この問題がおとがめなしで終わったら、日本の市場の信頼性が問われる」と危惧する。」
バイセル取引(記事では、東芝が部品を購入してその金額に利益を上乗せして外注先に有償支給し、その後完成品の金額の中に含めて買い戻す取引のことをいっています)自体は、別に違法でも何でもありません。八田教授は「今はほとんどない」といっていますが、今も普通に行われていると思われます。
問題は会計士のコメントのとおり、その会計処理でしょう。外注先で在庫になっている期間だけの問題なので、未実現利益の金額が小さければ実務上無視することはあり得るかもしれませんが、本来は未実現利益を消去しなければなりません。東芝のように意図的に外注先に押し込んで多額の一時的な利益を計上する(多額の未実現利益を消去しない)というのは、まさに粉飾(虚偽記載)です。
虚偽記載だけれども、会社や経営者の責任を問うほどではないという場合もあり得るでしょうが、検察のいうとおり、この取引の会計処理が虚偽記載ではない(虚偽記載でない余地もある)ということだと、東芝や東芝の監査人に対して多額の課徴金を課したのは、そもそもその根拠がないということになります。
つまり、会社や監査人に対して処分を行ったことのつじつまが合わなくなるので、旧経営陣を刑事訴追しないとしても、別の理由を探すのでしょう。記事では「元社長らの指示、認識の立証」を挙げています。記事ではさらに「「重要な事項につき虚偽の記載」をしたと認定できるか」を挙げていますが、重要な虚偽記載でないとしたら、会社や監査人に対する処分もおかしいということになるので、そのような理由付けは考えられません。
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