会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

ゴーンの右腕が法廷で吐露した「痛恨の汚点」(東洋経済より)

ゴーンの右腕が法廷で吐露した「痛恨の汚点」
日産の元COOが明かしたカリスマ経営者の圧力


(やや古くなりましたが)日産ゴーン事件のケリー元代表取締役の刑事裁判の記事。ゴーン氏の右腕と称された志賀俊之氏が証言したそうです。

「1月12日の志賀氏への証人尋問は、初公判から数えて29回目、2021年に入って初の公判だった。」

「志賀氏の証言によれば、ゴーン氏が日産自動車の社長に就任した1999年から2008年まで、ゴーン氏の報酬は、代表取締役や取締役共同会長を歴任した小枝至氏と協議して決めていたという。当時のゴーン氏の年棒の正確な金額を志賀氏は知らないが、「全取締役の総額からゴーン氏以外の報酬を差し引くと20億円くらいだから、そのくらいだったのではないか」(志賀氏)と述べた。」

2010年3月期から役員報酬の個別開示が始まることになって...

「そこで「カルロス・ゴーンから、『いくらくらいであれば日本社会や社内に受け入れられるのか』と聞かれた。小枝氏と相談し『10億円くらい』と答えた」(志賀氏)。2010年6月の株主総会で、志賀氏は8億9100万円というゴーン氏の報酬実績を初めて聞いたという。大沼敏明・秘書室長(当時)に尋ねると、「カルロス・ゴーンは2010年3月までに差額について返金してくれていました」と言う。志賀氏は「10億円以内という話を受け入れてそうしたのだと思い、さすがだ、とカルロス・ゴーンに感謝した」という。

「翌2011年2月。志賀氏は小枝氏に呼ばれた。「減額した報酬のままではゴーン氏が気の毒なので退任後の報酬を一緒に考えよう」と持ちかけられたという。志賀氏は「開示制度の趣旨に反し、リーガルリスクがあると直感し、不正に近い行為だ」と思ったという。そこで趣旨をゴーン氏に確認した。

当時、志賀氏とゴーン氏は毎月1回、「ワン・オン・ワン・ミーティング」という1対1の協議を行っていた。同年3月の協議で、今まで得ていた報酬と実際の報酬との差額について尋ねると、「普段は冷静に話を聞くゴーンだったが、その時は立ち上がり、語気を強めて、『ハナワとの約束の金額はもっと多い。私の現在の報酬はその約束を下回っている。開示せずに受け取れる方法を考えろ』と強い調子で言われた」(志賀氏)。

「ハナワ」とは、塙義一・日産元会長(故人)のことである。仏ルノーと日産の資本提携を決めたときの日産の社長だ。」

具体的な案は秘書室長から出てきたのだそうです。

「結局、志賀氏は大沼秘書室長にゴーン氏の要望が実現できる複数の案を考えるように言った。大沼氏から出てきたのは、①在任中にインセンティブとして確定させた金額を退任後に支払う方式、②退職時に特別慰労金として支払う方式、③退任後は相談役に就任してもらい相談役の報酬として支払う方式の3案だった。

志賀氏はどれも報酬開示制度に違反していると感じていたが、報酬そのものを支払ううえではどれも「法的に問題ない」として、ゴーン氏に②を推した。2011年3月のことだという。ゴーン氏は即座に「③がいい。私が競合他社で勤務しないようにするための金だ」と言った。

その後、ゴーン氏の報酬の話は立ち消えになったかのように、「カルロス・ゴーンと報酬の話をしたことはない。提案書を提出したままで止まっていた」と志賀氏は思っていたという。」

結局、志賀氏は、ゴーン氏への報酬支払いスキームを提案・検討したところまでしか関与しておらず、何か不正な行為を実際に見たわけではないようです(そもそも3つの案のうちどれを最終的に採用したのか、あるいは別のスキームがあったのかを知らない)。証言は、ゴーン氏が追加報酬を強くほしがっていたという証拠にはなるのでしょうが、虚偽記載への関連性はうすいように思われます。

記事の最後の方では、そもそも虚偽記載があったのかという点を疑問視しています。

「なお、役員退職慰労金制度を廃止していた日産自動車において、将来の役員報酬の確定には取締役会決議が必要というのが、東京大学の田中亘教授など会社法の専門家の間での常識だ。

報酬が確定していなければ有価証券報告書に記載する義務はないが、これまでの証人尋問で取締役会決議の存在は確認されていない。また、ゴーン氏に将来の支払いを約束したとする「合意書」は、両者のサインがどちらもゴーン氏となっており、合意書の体を成していないことが、大沼氏への証人尋問で明らかになっている。

それでも日産の有価証券報告書虚偽記載罪は成立するのか。」

成立しないのではないでしょうか。上記の3つの案のどれも、取締役会で決議しなければ、支払いができないわけであり、決議されていない以上、問題になっているどの決算期においても会社の負債にはなっていない(したがって報酬は発生しておらず開示も不要)と思われます。ゴーン氏と日産との間で報酬支払いの合意書があろうがなかろうが、取締役会で決議されるまでは、無効な契約でしょう。

退任後報酬「直感で不正」 元日産COOが証言―ゴーン被告元側近公判・東京地裁(時事)

「同社元最高執行責任者(COO)の志賀俊之氏(67)が出廷し、退任後の報酬支払いに関し、「開示の趣旨に反し、直感で不正と思った」と証言した。」

「直感」で有罪・無罪を決められても困ります。

開示回避「ゴーン元会長が強く指示」 元COO証言(日経)

「志賀氏と小枝元相談役は指示に従い、11年3月に元会長に複数案を示した。志賀氏はその後、未払い報酬を巡る検討に関与しなかったとし、「反対ができなかったことを深く反省している。人生の痛恨の汚点だ」と述べた。」

「ゴーン氏は絶対君主的に…」日産元COOが公判で証言(朝日)

日産 元COO証言 “ゴーン元会長から報酬支払い方法 強く指示”(NHK)

「この中で、平成22年に役員報酬が開示される制度が導入された際、志賀元COOは小枝至 元共同会長からゴーン元会長の報酬について「未払いとなった分を元会長の退任後に支払う方法を考えよう」と提案され、「開示制度の趣旨に反し、リーガルリスクがあると直感した。不正に近いと思った」と証言しました。

このため志賀元COOは、平成23年にゴーン元会長と2人きりの場で直接、尋ねたと説明し「いつも冷静なゴーンがいすから立ち上がり、『私が日産に来たときに、約束された報酬額はもっと多い。差額分を開示せずに受け取れる方法を考えろ』と強い口調で言われた」と証言しました。

そのうえで、志賀元COOは「結果的にゴーンの指示にしたがってしまったが、戒めるべきだったと反省している」と述べました。」

指示に従って、具体的に何をしたのでしょう。東洋経済記事では、報酬の話は立ち消えになったとのことですから、特に何もしていないのでは。
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