会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

東芝、原発で数千億円損失 最終赤字の可能性(日経より)

東芝、原発で数千億円損失 最終赤字の可能性

東芝の米国原子力事業で数千億円規模の減損損失が出る可能性があるという記事。会社から正式に発表されました。

「損失は東芝の米原発子会社ウエスチングハウス(WH)が15年末、米エンジニアリング大手シカゴ・ブリッジ・アンド・アイアン(CB&I)から買収した米原子力サービス会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)で生じる。

S&Wは原発の建設などを手がける。米国内での工事費や人件費などの追加コストが膨らみ「損失が数千億円規模になる」(綱川社長)。当初は買収価格と実際の企業価値との差額を示す「のれん」は約105億円と見積もったが、想定より企業価値が下回ることが判明した。

WHとS&Wは2000年代後半から原発事業で協業してきた。15年に親会社の東芝本体が会計不祥事で経営危機に陥るなか、WHは事業の一体運営を目指してS&Wの買収に踏み切ったが裏目に出た。「海外の工事だけにコストが想定を上回った」と説明している。」

CB&Iの米国子会社買収に伴うのれん及び損失計上の可能性について(東芝)(PDFファイル)

日経記事ではのれん(たった105億円にすぎない)と数千億円にもなるかもしれない損失額との関係がわかりにくくなっていますが、会社発表によると、取得価格の配分を確定させる手続きの中で、のれんの額が(105億円ではなく)「数十億米ドル規模(数千億円規模)」にもなることがわかり、その大幅に膨れあがるのれんの金額に減損会計を適用すると、のれんの一部または全部が減損損失(数千億円規模?)になってしまう可能性があるということです。

なぜ、のれんが膨れあがるかというと、買収時の資産・負債の時価評価を暫定的な数値から見直して修正したら、時価ベースの純資産(のれん除く)が暫定数値よりも大幅に下落したからということになります(「のれん=取得価格-時価ベースの純資産」なので)。そして、純資産の下落は、日経記事によれば「コストが想定を上回った」(→顧客との工事請負契約の時価が暫定数値より下落した?)からということのようです(会社発表ではあいまいです)。

そのほかには、取得価格自体が契約条件により増額されたという可能性もあります(会社発表を読む限りでは、そうではなさそうですが)。

「取得価格配分手続の期限である12 月末間近のこの段階で、のれんが数十億米ドル規模(数千億円規模)にのぼり、当該のれんの一部又は全額減損を実施することで、当社業績へ影響を及ぼす可能性が判明した」

「取得価格配分手続では、承継した資産と負債を WEC が公正価値で評価するために、買収完了後に WEC が S&W の資料等に基づき、改めて WEC としてコストに影響する主要項目を評価しながらプロジェクトにかかるコストの見積もりを行っております。 取得価格配分手続は継続しており、必要なのれんの計上額も引き続き精査中ですが、これらの試算を当社グループとして総合的に評価している中で、コストの大幅な増加により資産価値が当初の想定を大幅に下回り、必要なのれんの計上額が当初想定の約87 百万米ドルを超え、現時点で数十億米ドル規模(数千億円規模) となる可能性が生じました。」

「のれんについては WEC 及び当社連結決算 (第3四半期決算) で減損テストを実施いたしますが、その結果、その一部又は全部を減損する可能性があり、その場合 WEC 及び当社が損失を計上する可能性があります。」

(注:WEC:ウェスチングハウス社)

しかし、そもそもなぜこんな会社を買ってしまったのかという大きな疑問が残ります。デューデリが不十分だったというレベルの話ではないように思われます。

当サイトの関連記事(会社の記者会見前の報道や発表によるもの)

今年7月にはこの買収をめぐりCB&Iから訴訟を起こされています。その時点で、ちょっと危ないということに会社と監査人(あらた)は気がついていたのでは。

当サイトの関連記事その2(CB&Iからの訴訟について)

東芝、原子力大幅減損で事業見直しも 金融支援の可能性(ロイター)

「東芝はのれんについて10─12月期に減損テストを実施し、その一部か全部を減損する可能性があると発表。綱川社長は「責任を痛感している」と謝罪する一方で、S&W社の買収判断については「リスクを上回るメリットがあった。適正な経営判断だ」と強調した。」

4502192619M&AにおけるPPA(取得原価配分)の実務
EY Japan
中央経済社 2016-07-16

by G-Tools


(補足)

記者会見の動画が東芝のサイトに掲載されていますが、それによるとCB&Iからの訴訟は、買収価格のうちの運転資本の部分に関するものであり、今回の数千億円ののれんとは、別の話のようです。

記者会見の動画はこちらから。

CB&Iの米国子会社買収に伴うのれん及び損失計上の可能性について(東芝)

(補足2)

CB&Iからの訴訟は別の話と書きましたが、その後、当サイトにいただいたコメントなどを参考に考えてみると、この訴訟というのは、かなり大きな金額で、今回の件にも関係している可能性はありそうです。もともと、この買収は、相手会社との間の紛争を解決することが大きな目的だったので、どのように解決しようとしたのか、その結果どうなったのかは、見ておかないといけないと思います。
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