監査法人に所属する会計士がほとんど増えていないなど、会計監査制度の急激な空洞化が起こっているというコラム記事。
セントリス・コーポレートアドバイザリーというコンサル会社の代表取締役(公認会計士でもある)が寄稿しています。(ただし、筆者は「3年の会計士補時代しか監査業務をしてはいない」とのことです。)
金融庁や会計士協会による検査強化などの影響にふれたうえで、「小規模な上場企業の会計監査に過度に厳格な品質管理体制を求めるのは行きすぎ」という主張をしています。
「中小監査法人では検査対応のための労力とコストが重くのしかかっており、社会的使命を感じて監査をしている会計士の監査離れの引き金ともなりかねない。
私の提言は監査法人に求める品質管理体制を対象となる上場企業の規模などに応じて段階を設けることである。社会的影響の大きいプライム市場に属する上場企業の監査は厳格な体制を求めるが、その他の上場企業については求めるレベルを緩和し、公認会計士の自主性と倫理観に期待する制度だ。」
この主張が正しいかどうかはなんともいえません。粉飾決算が摘発されるのは、大企業というより、中小上場会社の方が多いですし、金融庁・協会から見て、中小監査事務所(一部かもしれませんが)は、高度化している監査基準についていけず、レベルは低いのでしょう。国際的にも、監査事務所への監督強化の流れのようです。また、中小上場企業を担当する中小事務所だけ、監督を緩和しても、監査業務の大半を担っている大手監査法人からの人材流出防止策にはなりません。
他方、同じ品質管理レベルを確保するためのコストは、大手より中小の方が相対的に大きいでしょう。それをまかなえないなら、上場会社監査から撤退すべきというのが、筋なのでしょうが、そうすると、ますます、監査に従事する人材が減ることになるかもしれません。
監査法人や会計士協会への批判も...
「近年、監査法人は金融庁や会計士協会の指導に従う自主性のない存在となってしまっている。このような監査業務に会計士業界に集まる優秀な人材がとどまることは決してない。公認会計士はそもそも独立心を持った人材が目指すものだ。さらに独立した会計士の監査業務への関与の道までも閉ざされつつある。
金融庁の公務員や大手監査法人にとどまった少数派の会計士を中心とした会計士協会だけでは会計士業界全体の社会への人材活用の戦略を描くことはできない。」
金融庁、会計士協会だけでなく、加盟している国際ネットワークの方針・指導にも従わなければならないので、たいへんそうです。
協会については、実態はよくわかりませんが、中小監査事務所向けのツールを出すなど、限られたリソースで精一杯やっているようにも見えます。
また、独立会計士の監査への関与についていえば、他の専門職は、独立後も、独立前にやっていた仕事を、クライアントは変わるにしても、継続することができるわけですが、会計士の場合は、独立前にいくら監査を一生懸命やっても、独立後、監査業務を行うのは難しいでしょう。新制度の下で、上場会社監査事務所として登録が認められるハードルは、金融庁・協会の方針次第ではありますが、かなり高そうなので、新規に参入するのは、より困難になるでしょう(ただし上場会社以外の監査に特化した事務所なら影響なし)。非常勤として、他の事務所に雇われるという方法はありますが、今後は、中小監査事務所への監督強化で、非常勤者への依存を制限する方向でしょうから、そのルートも狭くなっていくかもしれません(今は引く手あまたのようですが)。
解決策は簡単には見つからないでしょうが、会計士個人個人は、会計監査業界全体がどうなろうと、やりたいことをやればよいのでしょう。このコラムの筆者自身が、監査をやったのは3年だけで、その後はさまざまな経験を積んで、社会的に活躍しているわけですから。