人的資本に関して誤解に似た概念が横行しているのではないかという、日経夕刊のコラム記事。「「人的資本」を、あたかも企業が保有して好きに使える要素と思い込んでいるような事例が散見される」のだそうです。
「人材は大事である。人的資本経営という言葉も用いられて久しい。経済産業省の定義によれば、人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方だ。」
「人的資本の持ち主は企業ではない。所有者は個人であり、人的資本に投資するのは個人自身であることは、学術的にも実務的にも基本の理解である。個人が自身の人的資本に投資することで生産性を高め、長期的によりよい収益を得るというのが出発点だ。」
奴隷制があった時代ならともかく、従業員は会社の所有物ではないので、実務的にも理論的にも、貸借対照表に計上されるような資産(資本)ではないでしょう。会社と従業員は対等の立場で労働契約を結んでいるという関係にすぎません。会社が従業員との労働契約の価値を評価して(例えば、労働契約が会社にもたらすキャッシュフローの現在価値から、賃金・社会保険料などとして支払うキャッシュフローの現在価値を差し引いて計算)、資産に計上するということは、理屈の上ではありうるのでしょうが、一般的な労働契約では、従業員はいつでも退職できるので、計上したとしても不確実な資産でしょう。
いずれにしても、「人的資本」は雇っている側の所有物と考えているような会社・組織には近づかない方がよいのでしょう。