クレディ・スイス、社債約170億ドル無価値化 債権者から怒りの声
UBSによるクレディ・スイスの買収において、160億スイスフラン(172億4000万ドル)相当のAT1債(その他ティア1債)が無価値化することについて取り上げた記事。クレディ・スイスの株主は、まがりなりにも、UBSの株式を受け取ることができるのに、社債が無価値になるというのはおかしいという見方があるようです。
「AT1債が無価値となる一方で、返済の優先順位が社債より下位となる株式の保有者は、UBSによる株式交換方式の買収で総額32億3000万ドルを受け取ることになる。
クレディ・スイスのAT1を保有するアクシオム・オルタナティブ・インベストメンツの調査責任者、ジェローム・ルグラス氏は「AT1所有者と株主の序列をどうして逆転できるのか理解できない」と批判した。」
もっともな不満です。
より詳しい解説。もともとそういう設計の社債なのだそうです。
クレディ・スイスのCoCo債、なぜ価値を失ったのか-QuickTake(ブルームバーグ)
「偶発転換社債(CoCo債)は「その他ティア1債」(AT1債)としても知られ、手りゅう弾が付いた高利回り投資と表現されることが多い。UBSグループによるクレディ・スイス・グループ買収では170億ドル(約2兆2400億円)規模のCoCo債で手りゅう弾が放たれた。これは欧州債務危機を契機にCoCo債が誕生した際の理念に沿ったものだ。
CoCo債は銀行債の最下層に位置付けられ、好況時にはリターンも大きいが銀行経営に大きな問題が起きた際には最初に痛みが生じる分野の一つとして設計されている。」
「当局が同行の一部または全体を国有化し、AT1債を完全に無価値にするか、あるいはUBSによる買収で債券保有者には全く損失が生じないという2つの相反するシナリオが想定された。政府が統合の後押しで介入したため、最終的にはその両方が少しずつ実現する形となった。クレディ・スイスのCoCo債はどれも株式転換型ではなく評価切り下げ型のため、損失のリスクは常にあった。」
そうはいっても、株主より、債券保有者が先に損失を被るというのは異例のようです。
「AT1債が損失を出す前に株主が最初に痛手を受けるという市場の慣例を無視する今回の決定は、2750億ドル規模のAT1債市場に大打撃となって、他の金融機関のCoCo債見通しに深刻な疑念が生じる恐れがある。」
(補足)
欧州の監督当局は、損失負担は株主からが原則と説明しているそうです。
銀行の損失負担はまず株主から、英欧当局が説明 AT1債巡り(ロイター)
「スイスの金融大手クレディ・スイス救済でAT1債(その他ティア1債)の価値をゼロとする措置が取られたことを受け、英欧の金融監督当局は20日、市場の動揺を抑えるため、このような状況でまず損失を負担するのは株主で、債券保有者はその後になると説明した。」
実際に大きな損失を出した運用会社もあるそうです。
PIMCO、クレディ・スイスAT1債で3.4億ドル損失=関係筋(ロイター)
「米大手債券運用会社パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)は、UBSによるクレディ・スイス(CS)買収に伴い無価値化されるCSのAT1債(その他ティア1債)で、約3億4000万ドルの損失を被ると、関係筋が明らかにした。」
ただし、クレディ・スイスの他の債券の価値上昇で、損失分は相殺されたとのことです。
「この関係筋は、UBSによるCS買収を受けてPIMCOが保有するCSの他の債券の価値が上昇し、AT1債の損失分を相殺したと述べた。」
無価値になるAT1債の分だけ、クレディ・スイスは債務を免除されるということですから、それ以外の債券の価値は高くなるのでしょう。クレディ・スイスの他の債券は保有せず、AT1債しか持っていなければ、まともに損失だけ被ることになります。
日本への影響は限定的だそうです。
クレディ・スイス 「AT1債」社債問題 国内影響は限定的 金融庁(NHK)
「資産運用会社の「野村アセットマネジメント」は今月17日時点で、「AT1債」を組み込んで運用している投資信託が31本あると発表しました。
金額にすると合わせておよそ5億5000万円で、これらの投資信託の中に「AT1債」が占める割合は最も高いもので0.79%だとしています。」
「金融庁は、「AT1債」について、今のところ国内の金融機関から大きな損失が出たといった報告はないとし、影響は限定的だとみています。」