泌尿器科が好きなタダのおっさん

_とある医局の風景をつづります_

私が芽吹くとき

2012年02月11日 16時31分49秒 | どうでもいいこと

前回の続きになります。くりぼうです。

 

月曜日の朝、私鉄で15分ほど揺られて出勤。昨年に一度勤務したことがあるので、迷わず到着です。

月曜日の午前中は外来のお手伝いということで、ゆったりと勤務。常勤医の努力のおかげです。

 

午後から手術。普段は2件の予定手術が組まれているようですが、今回は1件のみでした。執刀は、以前に大阪の別の病院で1か月間だけ一緒に仕事をさせていただいた、女性医師。助手は私です。慣れた手つきで順調に進み、予定通り1時間半ほどで終了しました。

最近になり、若手の女性医師が泌尿器科医を志して入局してくれるケースが増えてきましたが、もともとこの業界は女性医師が極めて少ないため、女性医師の執刀を助手するというケースは実はというか当然というか、これが人生初。ついに、職場においても女性に頭が上がらない状況ができてしまいました。職場において「も」。

 

その日はそのまま当直に入りますが、これもスタッフの皆さんのおかげでゆったりと勤務することができました。何より、設備が高級感に溢れ手抜きのない造りになっているため、居心地が素晴らしい。トイレのハンドソープも、嗅いだことのないくらいすごくいい香りがするのでトイレに行くのが楽しい。

全くそんな予定はありませんが、自分が開業するんだったらトイレのハンドソープだけは高級なやつを使おうと、そのとき心に決めました。

 

さて、翌火曜日。朝から夕方まで、ぶっ通しで手術が4件続きます。

前回紹介した、手術経験1,500例超の先生です。ちょうどその日は、国際学会から帰ってこられて久々の手術だったようですが、そんなことを微塵も感じさせない仕事ぶりです。一言でいえば、手術が上手い。

手術が上手いという表現はよくなされるわけですが、何をもって「上手い」とするかは多少意見が分かれるところかもしれません。例えば短時間で正確な手術ができれば、その手術については「上手くいった」と言ってよいのですが、実際は合併症をゼロにすることは不可能で、また予想外の事態も生じうるのが手術です。

手術は見せ物やショーではないので、派手なパフォーマンスが望まれるわけではありません。どんな瞬間も「お手上げ」とならずに、冷静に対処できること。また、進むべきか引き返すべきかの判断を誤らないこと。そして、最善策を講じるのが難しい場合に次善の策をとれること。これが出来て初めて、「上手い」となるのです。自分が乗る飛行機の機長がこんな人だったら安心だな、と思えるような能力と共通しています。

 

しかしながら、トラブルシューティングに精通することばかりを追い求めるわけにもいきません。定型手術には文字通り「型」というものがあり、日々工夫・改良されて現在のそれがあるのですから、型通りに正確に施術する技術を身に付けることが必要で、それがひいてはトラブル回避にも繋がります。また、正しい手技の過程でやむを得ず発生したトラブルと、何をやっているのか他人にも自分にも分からないような過程で発生したトラブルとでは、その後の修復に要する手間が全く違ってくるということは、想像に難くありません。詳しいことは書けませんが、このことを実感させるような症例もありました。

 

今回お世話になる先生の上手さや凄さは、治療成績を向上させ患者さんを幸せにするために、手術の「型」を理論的かつ経験的に日々追求・改良し、それを着実に実行しているという点です。そして、手術の質が改良されるにしたがい本来減ってくるはずのトラブルに対し、これまでと同様あるいはそれ以上に正確に対処しているという点も見逃せません。トラブルがなければ無双でも、何か起こるとどうしようもない、繰り返しになりますが、それは上手いとは言えないのです。

あえて専門的な記述は控えたため、全体的にやや抽象的な表現になりましたが、私が師事するその先生の凄さがお分かりいただけたでしょうか。

 

時差ボケの影響がようやく取れたところで私のような人間を助手にして行う4件の手術、しかも、ややこしい術後の症例も含まれていたりして、さぞ大変だったろうと思います。それとは裏腹に、帰路、来るとき食べ損ねた肉うどんのことばかり考えて、それを着実に実行した私(注:前回投稿参照)。

天才は、凡人には一生見えてこないような問題点を次から次へと見出し、それに対する解決策を考え実行する。正確には、天才は日々そうしていないと生きていられないため、凡人と疲弊の度合いが全く違うらしいです。立ってうどん食うくらいの余力を十分残していた私は、どう転んでも天才にはなれそうもありません。

でも、自分の課題、反省、出来なかったことへの悔しさ、そんなものが相まって、始発の大阪ではなくわざわざ新大阪からサンダーバードに乗るようなことをしなくなったそのとき、早春の樹々のように、私も小さく芽吹くのかもしれません。

 

 

 

 


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4 コメント

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ようするに (仮面コーヒー・ブラック)
2012-02-11 18:40:43
その他のヒトは,すべて**ってことですね.He He.
とはいうものの,ほぼ単一の術式で1000件越えは,方法論としては正解だと思いますよ.
世の中には,不本意ながら不必要なリスクを背負わされてsoldierやっている人のほうが多いんだから.
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う~ん・・・ (くりぼう)
2012-02-11 18:57:29
早いコメントと最後の絵文字で救われているのか、むしろその逆なのか・・・・

不愉快に思われたのであれば大変申し訳ありませんが、春まだ遠い小さな人間の視点です。
寛容なご評価をお願いいたします。
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Unknown (つぶやき)
2012-02-19 14:30:03
その環境はいい刺激になりますね。
世の中すごい人っていますよね。
ほんとに。

そういう先生の姿勢を少しでも見習って、僕も凡人なりに頑張っていきたいと日々思っています。。。
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Unknown (くりぼう)
2012-02-20 10:23:36
頼もしいコメント有難うございます。

本文中では「天才」という表現をしましたが、医療に限らず何か物事に秀でている人というのは、それを「やらねばならないから」ではなく「やらずにはいられないから」夢中になって打ち込めるのだと判りました。

ただ、「やらずにはいられない」ことを同時に複数もつと共倒れ(か、本当に自分が倒れる)になる可能性が高いので、あれもこれもというわけにはいきません。
寝食忘れて没頭するようなテーマ、医療以外にはいっぱいあるんですけど・・・。まあ、のんびりいきましょう。
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