憂鬱
ビルの間から見える 高速道路を眺めながら
俺は二年前の夏を思い出していた
あれはとても暑い日で 午後四時を過ぎても
太陽は容赦なく地上を照らし続けていた
あの日の彼は白いサマーセーターを着ていた
俺たちはコーヒーを片手に川沿いの道を歩いていた
俺は大学を卒業したらドイツに行くよ
彼はこともなげにそう言い放った
聞いた瞬間 心臓の辺りがギューっとなった
どのくらい向こうに居るの?と訊くと
一年か二年と答えた
そうなんだ 俺はそれしか言葉が出てこなかった
彼が小学校五年生の時に転校してきてから
中学、高校と同じ学校に進み 大学も同じだった
ずっと一緒にいた人が突然居なくなってしまう
いつの間にかその事に気づかぬふりをしていた
顔を殴られるよりもキツイ一撃だった
彼がドイツに旅立つのを見送って
俺は自分の心に蓋をした 彼の事も彼への苦しい想いも
あれから二年が過ぎ 俺の気持ちも最近は穏やかだ
それなのに 昨夜届いたメールには 明日、日本に帰ります
少し前のメールには この街が気に入ったので
このまま此処で暮らすつもりです と言っていたのに
深い溜息をついて 俺は仕事場に戻った
正直 仕事にも集中できず タイプミス 計算違い
後輩から心配までされる始末 情けない
人の心とはこうも脆いものなのか
他人の言動にこんなにも動揺させられるのか
心の中で早く逢いたいという気持ちと
逢うのが怖いという気持ちがせめぎあう
何とか仕事を終えて帰宅したが
ドイツで一体何があったのだろうとつい考えてしまう
まあ、帰ったら彼の口から何か聞けるだろう
そう自分に言い聞かせても何だか落ち着かない
はぁ~ 大きく溜息をつく これが憂鬱と言うものか
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