一層と霧が深くなり、至近距離でさえ見えづらくなってきた。
相手の姿も見えづらくなり、奇襲に備えて物陰に隠れた。
さすがに向こうも機会をうかがっているのだろう。どんなことがあろうとも、途中で離脱すれば棄権と見なされて敗戦扱い。選考会で勝ち残るには、逃亡することは考えられない。
「湯船以外の罠はもうないし、どうするか……」
こんな霧の中をデタラメに攻めるわけには当然ながら無謀すぎる。かといって、霧が晴れるのを待つわけにはいかない。しかも、霧が深くなる一方。そうなると、なにか作戦を立てなければならない。しかし、どうやって戦うか——。
火薬があれば、爆風で霧を吹き飛ばす方法があるが、それだとこちらの場所が特定されかねない。あまり良策とは言えない。
目印をつけて、それを頼りに攻撃を仕掛ける。こちらの居場所は把握しづらいが、向こうの動きは手に取るように分かる。なんとも素晴らしい作戦だ。だが、どうやって今どこにいるか分からない相手にその目印をつけるか。そこが問題になってくる。
殺気を感じた。わずかな物音で感づいたか。不思議と居場所が分かり応戦する。
「あと少しだったげえ」
確実にオレの首元を捉えていたが、惜しくも愛剣によって助けられた。しかし、ミノフの姿は再び霧の中に消えていった。だが、見えないはずなのに居場所はよく分かっていた。
「そういえば、『目印』は既に付けてあったな!」
あの時、何度もミノフの服に染みついたのだろう。その臭いは確かにオレの嗅覚を刺激していた。
ミノフから放つ刺激臭を頼りに攻撃を仕掛ける。やはり対応が遅れて、ついてこれていない。たまらずミノフは逃げようとするが、その先でも臭いを放ち続けていた。
「どうやって把握しとるんだ!」
「服についた硫黄の匂いで、お前の居場所はわかるんだよ!」
ミノフを何度も硫黄泉に突き落として正解だった。まさかここで役に立つと思わなかった。
一瞬の隙を見逃さず、劣勢のミノフを捉えた。
地面に伏せたミノフの首元に愛剣を当てる。
「こ、降参だ……」
一瞬だけ晴れは霧の中から、ミノフの叫び声が響いた。
「オレの方が上だったな!」
「グリューンみたいで卑怯だ!」
「どいつもこいつも、同じことを言いやがって!」
ミノフの舌打ちが聞こえたと思ったら、とんでもないことを言われてしまった。
「運も実力のうちだ!」
ミノフの発言に苛ついたが、今回は自制心で抑えた。
ミノフと別れた後、池の底に沈んだ浴槽を引き上げ、元の場所まで担ぎ上げた。
「これでゆっくり入れるな」
浴槽に湯を貯めていると、コトミが近づいてきた。
「今回はちょっとずるかったかな……」
「お前は監視員であって、評価員じゃないだろ。そもそもオレの頭脳戦勝ちだ」
「そういうことにしてあげる」
どことなく元気のないコトミに反論する気が起きなかった。
「でも、パスクさん。このまま勝ち進むと……」
「『勝ち進むと』なんだ?」
「……それを言ったら、あたし処罰されるんだった」
「もったいぶっておいて、言えないのかよ!」
「だって……。しょうがないんだもん」
コトミは、徐々にかさが増す浴槽の湯を見つめていた。
≪ 第52話-[目次]
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さすがに向こうも機会をうかがっているのだろう。どんなことがあろうとも、途中で離脱すれば棄権と見なされて敗戦扱い。選考会で勝ち残るには、逃亡することは考えられない。
「湯船以外の罠はもうないし、どうするか……」
こんな霧の中をデタラメに攻めるわけには当然ながら無謀すぎる。かといって、霧が晴れるのを待つわけにはいかない。しかも、霧が深くなる一方。そうなると、なにか作戦を立てなければならない。しかし、どうやって戦うか——。
火薬があれば、爆風で霧を吹き飛ばす方法があるが、それだとこちらの場所が特定されかねない。あまり良策とは言えない。
目印をつけて、それを頼りに攻撃を仕掛ける。こちらの居場所は把握しづらいが、向こうの動きは手に取るように分かる。なんとも素晴らしい作戦だ。だが、どうやって今どこにいるか分からない相手にその目印をつけるか。そこが問題になってくる。
殺気を感じた。わずかな物音で感づいたか。不思議と居場所が分かり応戦する。
「あと少しだったげえ」
確実にオレの首元を捉えていたが、惜しくも愛剣によって助けられた。しかし、ミノフの姿は再び霧の中に消えていった。だが、見えないはずなのに居場所はよく分かっていた。
「そういえば、『目印』は既に付けてあったな!」
あの時、何度もミノフの服に染みついたのだろう。その臭いは確かにオレの嗅覚を刺激していた。
ミノフから放つ刺激臭を頼りに攻撃を仕掛ける。やはり対応が遅れて、ついてこれていない。たまらずミノフは逃げようとするが、その先でも臭いを放ち続けていた。
「どうやって把握しとるんだ!」
「服についた硫黄の匂いで、お前の居場所はわかるんだよ!」
ミノフを何度も硫黄泉に突き落として正解だった。まさかここで役に立つと思わなかった。
一瞬の隙を見逃さず、劣勢のミノフを捉えた。
地面に伏せたミノフの首元に愛剣を当てる。
「こ、降参だ……」
一瞬だけ晴れは霧の中から、ミノフの叫び声が響いた。
「オレの方が上だったな!」
「グリューンみたいで卑怯だ!」
「どいつもこいつも、同じことを言いやがって!」
ミノフの舌打ちが聞こえたと思ったら、とんでもないことを言われてしまった。
「運も実力のうちだ!」
ミノフの発言に苛ついたが、今回は自制心で抑えた。
ミノフと別れた後、池の底に沈んだ浴槽を引き上げ、元の場所まで担ぎ上げた。
「これでゆっくり入れるな」
浴槽に湯を貯めていると、コトミが近づいてきた。
「今回はちょっとずるかったかな……」
「お前は監視員であって、評価員じゃないだろ。そもそもオレの頭脳戦勝ちだ」
「そういうことにしてあげる」
どことなく元気のないコトミに反論する気が起きなかった。
「でも、パスクさん。このまま勝ち進むと……」
「『勝ち進むと』なんだ?」
「……それを言ったら、あたし処罰されるんだった」
「もったいぶっておいて、言えないのかよ!」
「だって……。しょうがないんだもん」
コトミは、徐々にかさが増す浴槽の湯を見つめていた。
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