「そんな、しょうもないことしていたの?」
一緒に山を下るコトミが呆れているのが、よく分かっていた。
「毎回、みんな勝手に入りやがって……。防衛工作のひとつだよ」
「そんな罠を作る暇があるんだったら、剣術の練習をすればいいのに」
「うっ……!」
痛いところを突いてきて、反論できなくなってしまった。
罠を掛けるのは候補者相手だから、この下にある池に落ちる安全仕様にしている。
浴槽が付けた軌跡を追いかけると、設計通りに池へ飛び込んでいた。そして、浴槽が池の中心で浮かんでいた。
この池は、温泉が湧き出ているところがあるので、場所によっては湯気が立ち込めていた。そして、温泉独特の硫黄の匂い。
恐らく、這い上がって池から出ているだろう。薄ら立ち込める湯気を掻き分けながら、捜索を始めた。
池の縁で人影が見えた。すぐさま相手に気付かれないように、詰め寄った。
「肌がピリピリするげえ」
やはり、浴槽に入っていた男だ。臨戦態勢で、近づいた。
「ここの源泉は強酸性だからな。そうなるだろうな」
「わっちの温泉は、そんなことないげえ」
「それは土地ごとに違うだろう」
「しょうもない温泉だげえ……」
「『しょうもない』とか言うな!」
温泉が噴き出ているところがあったので、ムカついたこの男をそこへ突き落としてやった。
「あっち!」
大きな水しぶきを上げると、大慌てで出てきた。断っておくが、この男をオレが見つけたときには既に服を身に付けていた。
「なにをするんだげえ!」
「そっちこそ、勝手に入りやがって! これは罰だ!」
「冷たい奴だげえ……。好きに入らせろ」
勝手に薄めたりして、ルールを知らない奴がいるから、そうしたんだ。今度から入湯料を取った上で入らせるか。
「そんなに風呂に入りたいなら、存分に楽しませてやるよ!」
一気に間合いを詰めて、再び突き落とした。
「うわっち!」
見事なまでに入湯したが、数秒のうちに上がってきた。
「もういいのか?」
血相を変えて上がってきたが、体から湧き出る湯気が奴の怒りを表しているようだった。そういえば、霧が出てきたのか、徐々に遠くが見えづらくなってきた。
「誰が突き落とせと言った」
「『好きに入らせろ』と言うから、遠慮なく」
「くそっ。なめやがって」
ミノフと名乗る、この男。動きからして、そこまでの強敵とは思えなかった。相手の実力を見極めるためにも、少し遊んでみた。
「お前をさっさと倒して、温泉に入るか」
「こんな温泉は入れるか!」
刃先を向けて、勢いよく襲いかかってきた。
「もともと勝手に入っておいて、なんだよ!」
ミノフの持つ幅広の剣を鼻先寸前でかわす。難なくかわせたが、水分を含んで重くなった服でこのスピード。服が乾ききったら、更にスピードは増すだろう。
「なかなか、やるげえ」
そうならば、こいつは早めに片しておくか。
地を蹴り出し、一気に詰め寄る。そして、迷わず振り抜いた。
「くそっ……」
隙を見計らったが、あっさりとかわされてしまった。
相手との間合いを保ちながら、様子を伺う。
先に仕掛けてきたのはミノフ。一気に間合いを詰めてきた。軌道を読んで愛剣を振りかざす。
「フェイントか」
体を大きく反らし、寸前のところでかわした。バランスを保ちつつ、反撃に出る。カウンターに入るが、逃げられ捉えきれなかった。
更に霧が深くなり、遠くが一段と見えづらくなった来た。
「思っていたより、強敵だな……」
旅の疲れもあり、さっさと終わらせてしまいたかった。しかし、これでは短期決戦に持ち込むには厳しい。さて、どうするか。
≪ 第51話-[目次]-第53話 ≫
------------------------------
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一緒に山を下るコトミが呆れているのが、よく分かっていた。
「毎回、みんな勝手に入りやがって……。防衛工作のひとつだよ」
「そんな罠を作る暇があるんだったら、剣術の練習をすればいいのに」
「うっ……!」
痛いところを突いてきて、反論できなくなってしまった。
罠を掛けるのは候補者相手だから、この下にある池に落ちる安全仕様にしている。
浴槽が付けた軌跡を追いかけると、設計通りに池へ飛び込んでいた。そして、浴槽が池の中心で浮かんでいた。
この池は、温泉が湧き出ているところがあるので、場所によっては湯気が立ち込めていた。そして、温泉独特の硫黄の匂い。
恐らく、這い上がって池から出ているだろう。薄ら立ち込める湯気を掻き分けながら、捜索を始めた。
池の縁で人影が見えた。すぐさま相手に気付かれないように、詰め寄った。
「肌がピリピリするげえ」
やはり、浴槽に入っていた男だ。臨戦態勢で、近づいた。
「ここの源泉は強酸性だからな。そうなるだろうな」
「わっちの温泉は、そんなことないげえ」
「それは土地ごとに違うだろう」
「しょうもない温泉だげえ……」
「『しょうもない』とか言うな!」
温泉が噴き出ているところがあったので、ムカついたこの男をそこへ突き落としてやった。
「あっち!」
大きな水しぶきを上げると、大慌てで出てきた。断っておくが、この男をオレが見つけたときには既に服を身に付けていた。
「なにをするんだげえ!」
「そっちこそ、勝手に入りやがって! これは罰だ!」
「冷たい奴だげえ……。好きに入らせろ」
勝手に薄めたりして、ルールを知らない奴がいるから、そうしたんだ。今度から入湯料を取った上で入らせるか。
「そんなに風呂に入りたいなら、存分に楽しませてやるよ!」
一気に間合いを詰めて、再び突き落とした。
「うわっち!」
見事なまでに入湯したが、数秒のうちに上がってきた。
「もういいのか?」
血相を変えて上がってきたが、体から湧き出る湯気が奴の怒りを表しているようだった。そういえば、霧が出てきたのか、徐々に遠くが見えづらくなってきた。
「誰が突き落とせと言った」
「『好きに入らせろ』と言うから、遠慮なく」
「くそっ。なめやがって」
ミノフと名乗る、この男。動きからして、そこまでの強敵とは思えなかった。相手の実力を見極めるためにも、少し遊んでみた。
「お前をさっさと倒して、温泉に入るか」
「こんな温泉は入れるか!」
刃先を向けて、勢いよく襲いかかってきた。
「もともと勝手に入っておいて、なんだよ!」
ミノフの持つ幅広の剣を鼻先寸前でかわす。難なくかわせたが、水分を含んで重くなった服でこのスピード。服が乾ききったら、更にスピードは増すだろう。
「なかなか、やるげえ」
そうならば、こいつは早めに片しておくか。
地を蹴り出し、一気に詰め寄る。そして、迷わず振り抜いた。
「くそっ……」
隙を見計らったが、あっさりとかわされてしまった。
相手との間合いを保ちながら、様子を伺う。
先に仕掛けてきたのはミノフ。一気に間合いを詰めてきた。軌道を読んで愛剣を振りかざす。
「フェイントか」
体を大きく反らし、寸前のところでかわした。バランスを保ちつつ、反撃に出る。カウンターに入るが、逃げられ捉えきれなかった。
更に霧が深くなり、遠くが一段と見えづらくなった来た。
「思っていたより、強敵だな……」
旅の疲れもあり、さっさと終わらせてしまいたかった。しかし、これでは短期決戦に持ち込むには厳しい。さて、どうするか。
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