Kitten Heart BLOG -Yunaとザスパと時々放浪-

『きとぅん・はーと』でも、小説を公開している創作ファンタジー小説や、普段の日常などの話を書いているザスパサポーターです。

【小説】「パスク、あの場所で待っている」第9話

2015年03月07日 13時59分31秒 | 小説「パスク」(連載中)
「やろう!!」
 条件反射というべきか、脳の指令系統を通る前に右腕が動いた。振り抜いた右腕は、利汰右衛門の刀を遙か向こうへはじき飛ばした。そして、蜂のように剣を突き刺し、利汰右衛門の喉元すれすれで止めた。
「……これで、勝負あったな」
 利汰右衛門はその場で膝をついた。
「せっかくのチャンスだったのに……! これでは、師匠に顔向けができない……」
 利汰右衛門は天高く大声で叫ぶと、目からきらりと光るものが流れ出ていった。オレも全力を尽くし、その場に倒れ込んだ。
「お前の師匠はいいよな……。オレの師匠なんか――」
 話しても愚痴っぽくなってしまうので、言うのをやめた。いい師匠に出会えた利汰右衛門が羨ましかった。
「……そういえば、お主の師匠。北の方にいると聞いたな」
 暗かったが落ち着きはあり、しっかりとした口調だった。
「ホントか? なら南の方を通って帰るか」
 このまま東へまっすぐ進むと大きな山がいくつも連なり、北と南どちらか迂回するしかない。
「会いたくは、ないのか?」
「それは冗談だけにしてくれ」
 苦笑いしながら、傷だらけの体をゆっくりと立ち上がった。体が重くてよろけそうになった。
「帰るのか?」
「ああ。実家の近くに、いい湯治場があるんだ。そこでひとまず体を休める」
「そうか……。よろしければ、一晩ウチに泊まらないか?」
「いいのか?」
 一度対戦した相手との再戦は不可能。結果を恨んで襲いかかるのも禁止……などと規定があり、不正もできない体制になっている。なので、今の利汰右衛門は安全な相手である。

 山奥の家に一晩泊まることにした。前にも来たことがあるが相変わらず古びており、風が吹くたびに戸が不安な音を上げてくる。
「悪いなぁ。飯までもらって」
「構わないさ」
 向き合うように床に座り、利汰右衛門から晩飯を頂く。期待していなかったが、鯛の尾頭付きが出てきたのは意外だった。
「今朝釣った。気にせず食べてくれ」
「あっ、ああぁ……」
 若干気が引けたが、お言葉に甘えて頂くことにした。
「パスクさんに聞きたいことがある。この選考会、最後に何があるんですか?」
「さぁ……? コリエンテも詳しくは言ってくれなかった」
「左様か。ならば拙者はここを出て、西へ修行し直すとするか」
「オレも傷を癒やしたら、そのつもり」
「今回は、かなりの強者が参加していると聞いておる」
 利汰右衛門がそう言うと、家の空気が重くなったような気がした。
「まあ、勝つしかないな」
「もし、次があった場合は、パスクさん。あなたには負けません」
「今回は危うかったが、次があったら余裕で勝ってやるよ」

 朝早く、利汰右衛門を起こさないように家を出ることにした。なんだか別れるのが惜しくなりそうだったから。
 朝霞が立ちこめる中をひたすら山を下り、海に出た。そのまま海岸沿いに東へ突き進んだ。少しでも早く帰るため、一度は山越えもしていった。
 適当な宿を見つけ、傷をいたわるように一晩過ごした。
 そして、翌朝も霧の中をかき分けるように進むと、一人の老人と出会った。

 ――出会うなら、もう少し先がよかった。

≪ 第8話-[目次]-第10話 ≫
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