「おねーちゃん!」
ガトーが振り返ると、置いてきぼりになった弟が呼び止めていた。
「歩くのが速い!」
「フィス、あんたが遅いのよ」
隣の街へ依頼の用件を済ませようと弟も連れたが、帰り道で駄々をこね始めた。
「ほら、おぶってあげようか?」
ガトーがしゃがむと、素直に自分の背中へと身を任せてきた。こうやって甘やかすからいけないんだと思いつつも、どうも弟に厳しくできない自分がいた。
「ねーちゃん、あれ何?」
「キノコ? 近づいちゃダメだよ。死んじゃうよ」
単なる笑いダケだって言う人もいるが、三日以内にあの世行きになるという噂もあり、どのみち近づかない方が得策だ。
「なんでそんなに急いで帰るの?」
「戦乱が酷いからよ。巻き込まれても知らないよ」
数年前、国外から攻め込まれて以来、至る所で戦が起きていた。キノコも自生していたわけではなく、王女の命令により撒かれたものだった。最近はキノコ効果なのか、こちら側が抑え始め、収縮傾向にあるが依然として国内は警戒心が強い。
「帰ったよ」
家の仕事場には、父と一番上の兄が仕事に精を出していた。
「お風呂でも沸かそうか? フィスも入れてあげたいし」
「おお。すまないな」
ちなみに、二番目の兄は修行中で家には居ない。
途中から楽していたとはいえ、日中を歩き回ったせいで汗臭いフィスをお風呂に入れようとしたが、大人しくしてくれない。
「ちゃんと、お湯に浸かりなさい!」
「ヤダ! おねーちゃん、いつもそうじゃん」
そういって浴槽を飛び出していった。
「こら! ちゃんと体を拭け!」
「まあ、これだけじゃ普通の部屋だろ?」
「確かに……」
カギを開けて『左奥の部屋』に入ると、あとから親父さんが入って来るなり話し始めた。
「うちは見ての通り、男ばっかりだ。四番目が生まれてすぐに女房を亡くしてな……」
つまり、ガトーの弟フィスが生まれてすぐに母親が病死している。それからというもの、ガトーが弟の面倒を見るようになった。
「それも数年だけだった。フィスがひとり遊んでいたら、王女に目をつけられてな……。真相を知っている街の者もなかなかいない。だけど、聞いたところにはフィスが王女とは知らなくて悪さをしたとかしないとか。もちろん、街の者は止めたさ。その中にガトーもいた。しかし、結果は——」
「それでガトーって、そうなったんですか?」
「最初は目の前に居たにも関わらず、どうにもできなくて落ち込んでいるだけだと思っていた。鍛冶屋の仕事なんて興味もなかったのに急に手伝いだして、おかしいと家族が気づいた時には復讐心で満ちていた」
親父さんは軽く息を吐き、私の目を見た。
「傷ついているのは家族みなそうだ。けど、復讐する気はない。できるだけ、ガトーと王女は引き合わせないでくれ!」
≪ 第7話-[目次]-第9話 ≫
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ガトーが振り返ると、置いてきぼりになった弟が呼び止めていた。
「歩くのが速い!」
「フィス、あんたが遅いのよ」
隣の街へ依頼の用件を済ませようと弟も連れたが、帰り道で駄々をこね始めた。
「ほら、おぶってあげようか?」
ガトーがしゃがむと、素直に自分の背中へと身を任せてきた。こうやって甘やかすからいけないんだと思いつつも、どうも弟に厳しくできない自分がいた。
「ねーちゃん、あれ何?」
「キノコ? 近づいちゃダメだよ。死んじゃうよ」
単なる笑いダケだって言う人もいるが、三日以内にあの世行きになるという噂もあり、どのみち近づかない方が得策だ。
「なんでそんなに急いで帰るの?」
「戦乱が酷いからよ。巻き込まれても知らないよ」
数年前、国外から攻め込まれて以来、至る所で戦が起きていた。キノコも自生していたわけではなく、王女の命令により撒かれたものだった。最近はキノコ効果なのか、こちら側が抑え始め、収縮傾向にあるが依然として国内は警戒心が強い。
「帰ったよ」
家の仕事場には、父と一番上の兄が仕事に精を出していた。
「お風呂でも沸かそうか? フィスも入れてあげたいし」
「おお。すまないな」
ちなみに、二番目の兄は修行中で家には居ない。
途中から楽していたとはいえ、日中を歩き回ったせいで汗臭いフィスをお風呂に入れようとしたが、大人しくしてくれない。
「ちゃんと、お湯に浸かりなさい!」
「ヤダ! おねーちゃん、いつもそうじゃん」
そういって浴槽を飛び出していった。
「こら! ちゃんと体を拭け!」
「まあ、これだけじゃ普通の部屋だろ?」
「確かに……」
カギを開けて『左奥の部屋』に入ると、あとから親父さんが入って来るなり話し始めた。
「うちは見ての通り、男ばっかりだ。四番目が生まれてすぐに女房を亡くしてな……」
つまり、ガトーの弟フィスが生まれてすぐに母親が病死している。それからというもの、ガトーが弟の面倒を見るようになった。
「それも数年だけだった。フィスがひとり遊んでいたら、王女に目をつけられてな……。真相を知っている街の者もなかなかいない。だけど、聞いたところにはフィスが王女とは知らなくて悪さをしたとかしないとか。もちろん、街の者は止めたさ。その中にガトーもいた。しかし、結果は——」
「それでガトーって、そうなったんですか?」
「最初は目の前に居たにも関わらず、どうにもできなくて落ち込んでいるだけだと思っていた。鍛冶屋の仕事なんて興味もなかったのに急に手伝いだして、おかしいと家族が気づいた時には復讐心で満ちていた」
親父さんは軽く息を吐き、私の目を見た。
「傷ついているのは家族みなそうだ。けど、復讐する気はない。できるだけ、ガトーと王女は引き合わせないでくれ!」
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