Kitten Heart BLOG -Yunaとザスパと時々放浪-

『きとぅん・はーと』でも、小説を公開している創作ファンタジー小説や、普段の日常などの話を書いているザスパサポーターです。

【小説】腹黒桃子の部活動 -流れ星を見上げて-

2017年02月14日 15時00分00秒 | 小説(読み切り)
 校舎の中庭に堂々とそびえる一本の楠。そこから滴り落ちる雨水が、現状の憂いを表現している。
 目の前の掲示板には、市営施設にあるプラネタリウムのポスターが貼られていた。大きめに学生は割引と書かれていたが、美しい星空の写真が使われてた。
 今現状の空は正反対で、これから自転車で帰るとなると、気分も晴れない。

 本日の練習を終えて、一年生の玄関前に一人待ち続けた。運動部だがウチの部は特殊で、少人数のため男女混合で活動している。故に部室こそ二つ持っているが、男子部室は物置にされ女子の方が広いという格差が生まれている。しかし、着替えの時以外は入れるから、ある意味処遇がいいのかもしれない。
 いつものように、桃子に付き合わされるように寄り道して帰ることになり、こうして待ちぼうけをくらっている。
 そこへ本来騒がしいのと一緒に来るべきはずだが、小葉一人でやってきた。
「あのね。遠藤さんが先に帰って、だって」
 その割には遅いと思ったら、校内の図書室に立ち寄っていた。いつものように、天文関係の本を抱えていた。
「どうしたんだよ。さっきまで一緒に帰るって豪語していたのに」
「それがね……。その……部長が……」
 小葉の表情で、なんとなく察した。どうせまた、怒られているんだろう。
「それで、まだ部室……」
 小声付きで、うなずいた。小葉が図書室から戻って見てきたら、まだ台風が猛威を振るっていたらしい。
「かすみ部長、説教好きだからな……」
 部長本人からすれば、熱心に後輩指導をしているのだが、相性が悪いのか度々こういうことが起きる。桃子の数少ない天敵である。
「どうします……?」
 かなり困惑顔の小葉、普段からしゃべらないのに余計話さなくなった。
「仕方ないから、帰る……?」
 気の利いたことも言えず、ただただ帰る方向に流されてしまっていた。

 校則という縛りもあり、合羽を着て自転車置き場まで二人並んで歩いた。これまでの一連のことで時間を要したのに、桃子は追いついてやってこない。
 朝からここ数日変わり映えしない梅雨空に、動きにくい格好もあり、鬱陶しく感じていた。これといった話題が続かないまま、二人併走するように帰った。
 橋の近くまで来て、本来なら小葉とここで別れる。けど、いつもの寄り道プランのようについてきた。
「帰らないの?」
「そういえば、そうだね。いつもみたいに来ちゃった」
 このまま家に帰ろうか……などと、言おうとした。しかし、小葉と二人っきりでどこかに行くチャンスが、残りの高校生活で訪れるのか……? 桃子が近くにいる以上、極めて低いと結論付けた。
「せっかくだから、どこか……行く?」
 自分の記憶を辿っても、こんな誘い文句を言ったのは間違いなく初めてだろう。どきどきしながら言った。
「そうだね……」
 迷っていた感もあったが、その気がないわけでもなかった。

 いつもはドーナツやら、とにかく甘いものを欲する桃子の意向で、来る店もだいたい決まっていた。今日は小葉のセレクトで、コーヒーの香りが漂うチェーン店のカフェに入った。
 けどな……コーヒー苦手なんだよな。かわいい小葉もいることだし、格好良くブラックで飲んでみたいが、どうしようかな……。
「わたし、ココアにします」
 ラーメン屋に来て、チャーハンだけ頼むような注文だったが、ここはひとつ乗っかろう。
「じゃあ、オレは紅茶で」
 ちょうど壁沿いにソファーが備えられた二人がけの席があったので、お互いに戸惑いつつも座った。小葉の方がソファー側の席にしたが、一人足りないせいか不安混じりの高揚感もあった。
 いつも、言葉通りに甘い方へ逃げる桃子がいるせいで、勉強目的であることを失いながら放課後を過ごしていたが、今日はすんなりと捗った。
 三人とも学年は一緒だが、見事にクラスがばらけているので、貸し借りや教えあったりと部活動以外でも、助け合っていたりする。
 小葉はかわいいペンケースを、小さいテーブルに気を遣いながら取り出した。
「あ……。最悪」
 小声だったが、なんとか聞き取れた。
「どうしたの?」
「うん……。芯が無くなっちゃった……」
 シャーペンの芯が入っていただろう、空っぽのケースを見せた。
「よ。よかったら、お、オレのあげるよ」
「本当? 後で返すね」
「いいよ。あ、あげるよ」
 ケースからそっと二本ほど折れないように抜き出して、小葉に手渡した。震えそうになるのを抑えながらだったが、逆に心拍数が上がって仕方なかった。
「ありがとう……」
 ただシャーペンの芯を上げただけだったが、命でも救われたような微笑みだった。
「期末テストが終わったら、何かしてあげるね」
 花咲くような笑顔の好意、なにか……。
「じゃあ、一緒にどこかに行く?」
「……そ、そうだね」
 戸惑ったのか、俯いて答えるから聞き取りづらい。けど、だったら。
「この前の夜、星を見ていただけだけど、一緒にいて楽しかったよ」
 部活動にて泊まりがけで行ったとき、眠れない小葉が外で夜空を見上げていたので、しばらく付き合ってあげた。
「うん……。あの時はありがとうね」
 照れながらも、答えてくれた笑顔がかわいかった。
「プラネタリウム、見に行こう。小葉、そういうの好きでしょ」
 すると顔を上げて、何かを言おうと口を開いた。
「……最悪。学校帰りの高校生が、カフェでいちゃついている」
 ずきっとさせるセリフを、背中目掛けて突き刺さった。そして、聞き慣れた高い声であることにすぐに気付いた。
「『先に帰って』とは言ったけど、『一緒に帰って』なんて言ってない!」
 あと少しだったのに、桃子がどうやって見つけたのか、いいところでやってきた。

「なんとか、生還してまいりました……」
 溜め息交じりに空いていた隣の机を寄せると、小葉の横へ疲れ果てた桃子が座った。
「今日は、もう何もしたくない……」
 いつも勉強しないくせに、よく言うな。
「何か飲みます?」
「ブラックコーヒーにしようかな……?」
 重い腰を上げながらレジカウンターに向かう桃子を、二人して驚きの顔で見つめた。
「遠藤さんって、甘党だとばかり思っていました……」
「オレも……。絶対に頼まないものだと」
 しかし、戻って手にしていたカップの中身は、黒とは程遠い薄茶色のコーヒーであった。
「これって……? ブラックか?」
「なに言っているの? 頼んだものは、ブラックだよ」
 カウンターで受け取ってその後、砂糖とミルクを溶かせるだけ溶かしたみたいだった。
「それ、ブラックって言わないよ」
「私がコーヒーの苦さに耐えられると思ったの?」
「かすみ部長の説教に耐えられるから、大丈夫だよ」
「……あれは苦いってものじゃないのよ!」
 思い出したのか、俯き加減で重苦しい一息を吐いた。
「小葉、これ教えて?」
 自分のノートに、大してうまくない文字を見せた。
「うん……。後で、教えるね」
「私の話を聞いてよ!」
「勉強しながら、聞いてるよ」
「なんで、みんな勉強するの!」
 桃子は音こそ立てなかったが、机を叩くような動作を見せた。
「もうすぐ、期末テストですよ?」
「そうだった……」
 更に余計なことを思い出し、またもや暗い表情を浮かべた。
「なんで、テストなんてあるのよ……」
「その後、楽しい夏休みがあるよ」
「よし! がんばろう」
 これで珍しく勉強して、大人しくなるのか。
「ヨシトくん、ここの問題分かる?」
 小葉が聞いてきたのは、平方根混じりの因数分解の問題だった。
「ああ、それはね……」
「数学、なんか嫌だな。英語にしよう」
 そういえば、桃子って数学が苦手だったな。
「オレは、英語は苦手だな……」
「私も話せるとしたら、アイ・ハブ・ア・ペンくらい」
「全然ダメじゃん」
「私はシャーペンを二本持っています。それをヨシトくんのこめかみに突き刺したら、どうなるのかな……?」
「やるんだったらエアーでやれよ」
「じゃあ、フォークなら?」
「差すんだったら、食べ物にしろよ」
 結局、いつもの光景だ。

「もう一杯、飲もうかな……?」
「あんまり飲み過ぎると、夜寝られなくなりますよ?」
「ううん。大丈夫!」
 カフェインを恐れる様子もなく、席を立った。
「寝不足の桃子も見てみたいが……」
 いつも明るく元気だが、どうなるんだ?
「……ヨシトくんって、遠藤さんと一緒にいる方が楽しそうだよね!」
 一瞬『そうかも』と言いそうになった。ただ、小葉の寂しそうな目を見て気付いた。
「そんなことないよ。小葉と一緒にいても——」
「ううん、いいの。気を遣わなくて。一人の方が慣れているから……」
 そう言っている割には、無理して言っているように見えた。
「さっきの続きだけど、期末テストが終わったら、二人っきりでプラネタリウム見に行こう?」
「そ、そうだね。今度——」
「私も行きたい!」
 戻ってきてしまった……。あとちょっとだったのに、明らかにジャマされた。
「そ、そうだね。いつか行きましょうね」
 小葉が桃子に気を遣ってか、そう答えられてしまった。

 時間も遅くなり、切り上げて帰宅する頃になった。結局、小葉から返事を聞けなかった。
「また明日ねー!」
 また、明日も同じように会うから、チャンスは来るだろ。
「これ、さっきの。ノートの答え」
 小葉から小さなメモ書きをそっと渡された。自分のノートに『いつだったら、一緒にプラネタリウム見に行ける?』って見せて聞いた答えだった。
『夏休みに入ったら、天体観測に一緒に付き合ってくれる?』
 もちろん、にこやかに答えた。


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